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再開発問題のデパートと化した東京千代田ムラ

裏金問題しかり、原発事故の最高裁お友だち人事しかり、この国はいま、あちこちから腐臭が漂う。
今回報じる東京都千代田区の都市開発では、元区議・元職員が逮捕までされている。それは工事契約に係る官製談合防止法違反の疑いで後に起訴もされたが、実はこれだけではない。東京の「ど真ん中」で起きている問題が、実はあまり知られていない。

■住民は置き去りに


1980年代以降、東京の都市開発にデベロッパー(土地や建物の開発事業の企画を手がける企業)が参入してきた。2002年に小泉内閣が「都市の国際競争力の強化」と言って都市再生特別措置法を成立させ、安倍内閣が国家戦略特区を作った。新自由主義の緊縮経済と企業の政治的影響力の増大により、現在、公共プロジェクトの多くがデベロッパーに委託され、もはや歯止めがきかない。
いわば再開発は狙い目だ。デベロッパー・一部議員(主に与党系有力議員)・一握りの行政幹部の3者で進め、住民不在のまま突き進む。それが露呈したのが、この千代田区だ。
千代田区といえば、東京の中心部。東京駅、皇居、日本武道館、国立劇場などがあり、ホームページには「100万人の活力がつくる町」とある。しかし実際の住民は5万5000人。昼夜の人口に90万人ほどの差がある。「再開発」の名の下で、住民が知らぬまま、地域が暴力的に壊されている。

■壊される千代田区


区の面積はわずか11・66㎢で、うち12%を皇居が占める。全国1741の市区町村の中で千代田区は1671位という狭さなのに、再開発問題は区内複数地域に点在する。
縦に面積を増やす超高層ビルを強行に作ろうとする地域。温暖化が深刻な時代に貴重な緑、街路樹を切ってしまう地域。区の所有する土地を無償で貸し、関係者が利益を出していた地域。地権者の合意率が3分の2に満たないまま計画が強行される地域。歴史的建造物や文化財を壊してしまう地域など、もはや再開発問題のデパートと化しているのだ。
「第一次小泉内閣時代の、容積率1300%への緩和は異常でした。当時は、首都機能を分散させて、例えば札幌に一部移転しようという議論もあった。その選択のほうが良かったと思います」。
そう語るのは、千代田区議の小枝すみこさん。「ちよだ自分ごとプロジェクト」というサイトで、同区議のはまもりかおりさん、岩田かずひとさんと共に開発計画と公共事業の問題点を伝えている。

■容積率緩和の錬金術


小枝さんが異常だと語った「容積率1300%」。例えば100坪の土地で建ぺい率80%の場合は最大80坪の建築面積の建物を建てられるが、容積率が1300%になれば、最大1300坪の延べ床面積の建物(約16〜17階建て)が建てられるようにした規制緩和のことだ。
「都心には土地がない。容積率緩和は土地を増やす、いわば錬金術です」と指摘するのは、千代田区再開発問題で訴訟にまで至った全てに住民側代理人として関わる弁護士の大城聡さんだ。
新しい超高層ビルとなると、賃料が高くなり、資産を持つ大手企業・店舗しか入れない。これまで営んできた地元のお店や企業が新しいビルに入ろうとしても、賃料は2〜3倍、面積も狭くなり、商売が成り立たず、店自体を諦めるケースも多い。「いわばデベロッパーの独り勝ちです」と大城さんは指摘する。

■「都議会のドン」


訴訟を含めた現在の千代田区の問題に入る前に、過去の問題に触れておきたい。というのも、千代田区の再開発問題はこの数十年の間、かつて「都議会のドン」と言われた大物議員が関わり、それが尾を引いている。正しくは「関わっていた」になるが、故・内田茂氏のことだ。
内田氏は、千代田区議会議員などを経て、1989年の都議会議員選挙で初当選し、都議会議員を合わせて7期務めた人物。通常は国会議員が担う自民党東京都連の幹事長に異例の都議会議員として就任し、中央政治にもその名を轟かせた。石原慎太郎知事時代には国とのパイプ役として貢献したが、小池百合子知事とは2016年の都知事選で対立した。
その2016年の週刊文春には「『自民党東京都支部連合会』の収入総額は約十億円。この十億円が『内田氏が差配できるカネ』(都連所属の国会議員)」と報じられた。「都連のカネで自らのパーティー券を購入したり、自身が代表者を務める政党支部に厚く支出したりもしている」「政治資金パーティで約一千万円集めた」などと書かれ、いわゆる「裏金問題」の走りと言える。それ以外にも「税金を身内に環流」「所有不動産の操作」など複数の「政治とカネ」問題も詳らかに指摘された。
内田氏はこれらの疑惑に対し、「手続きに問題ない」と主張したが、東京五輪でも暗躍したと指摘されている。
2010年から内田氏が監査役に就任した「東光電気工事㈱」が、大手建設会社とJV(ジョイントベンチャー)を組み、有明アリーナと、オリンピックアクアティクスセンターの工事を受注。都が発注する東京国際フォーラムや豊洲新市場、都議会議事堂の工事も受注していた。
また、築地市場の豊洲移転を進めた山崎孝明江東区長(当時)は内田氏の側近だ。移転後に作られた虎ノ門─豊洲間の環状2号線(五輪道路)は内田氏と近い建設会社が受注。彼に政治献金した企業・団体が次々と都の事業を受注し「内田氏を支援することがビジネスにつながる」と言わしめたという。ここに再開発を熟慮する住民自治など入りこむ余地はない。
ところで、冒頭で触れた逮捕された元区議というのが、嶋崎秀彦氏。この人物も内田氏の側近だった。区立お茶の水小学校・幼稚園の工事の入札情報を漏洩した官製談合防止法違反の疑いで逮捕、起訴された。そこに区の幹部まで噛んでいる始末だ。
一方、石川雅己前区長(小池氏が支援)も地方自治法違反容疑で刑事告発された。「事業協力者住戸(特別枠)」の高級マンションを購入し、区議会の百条委員会で嘘の証言をしたのだ。この件は「嘘を言ったと認められない」とされ不起訴になった。とにかく、内田氏寄りにしろ小池氏寄りにしろ、千代田区の政治には公正さが見えない。

■では、現区長は?


ここまで不正が明るみに出ていたら、再開発計画は見直されるべきだろう。しかし小池氏の側近中の側近である樋口高顕区長は、全計画を進める姿勢のままだ。若く人気があるとされる区長だが、逮捕された嶋崎氏らの「傀儡」との報道もある。
「地方自治、地方分権というけれど、千代田区は生活者が完全に置き去り」と、前出の区議、はまもりかおりさん。千代田区がミッドタウン日比谷の255億円の財産(土地・建物)を一法人に20年間も無料で利用させていた問題を指摘する。石川前区長と一部幹部職員のみで秘密裏に決めたという。これに対し、無償貸与契約の見直しをするよう、区に求める住民裁判が係争中だ。
本来なら、裁判をせずとも、区長が新しくなった時点でその方針を打ち出しても良いはずだ。
次号では、複数地域の再開発問題と、都の関わりを詳報する。


(吉田 千亜)


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