しんばし×アキバ カコ↓イマ↑ミライ展に行ってきた
2024/01/19~2024/01/31に行われた「しんばし×アキバ カコ↓イマ↑ミライ展〜過去を知って、今を感じて、未来を描く〜」に行ってきたぞー!
イベント説明
渡辺浩弐さん (X (Twitter) note)の作品が発表されているということでウキウキで行ってきました! 会場は新橋会場がニュー新橋ビル、秋葉原会場がラジオセンターです。
とは言っても渡辺さんの作品は会期が始まる前の01/18頃からnote上で発表されていました。なかなか東京にこられない地方の方にも優しい仕様。
note上に発表されていないものとしては「過去と今、今と未来が重なる街。」と題されたコラム的文章がありました。折角会場まで行くのだから新規文章も読みたいという人も満足できる仕様です。(この文章も会場に行った一般のお客さんがXなどで写真をアップしているのを確認しました。そういう意味では渡辺文章のすべてはネット上で読めるのでひと安心!)
作品リストは以下の通り。
イベントパンフレットも各会場で無料配布されていました。渡辺さん関係では秋葉原とニュー新橋ビルの各第1話と、先程の「過去と今、今と未来が重なる街。」が掲載されていました。
各会場では秋葉原とニュー新橋ビルの第1話が展示されていました(どちらの会場でも1話ずつ、合計2話が展示されていたという意味です)。第2話以降に関しては各作品に宛てられたイラストとQRコードが展示されており、それを読み込んでnoteに飛んでくださいね、という仕様。
作品感想
まず第一に言いたいのは全作品ともに驚きの白さということです! いつもダークなオチを書いている渡辺さん。だけど実在する場所の人から依頼を受けると白い作品も書くんだな!?
あとは、各作品ともにぞれぞれ実在の場所を舞台にしていることも特徴ですね。さらに、コラム文の言葉を借りるなら「メタバース」、「デジタルツイン」といった技術の影響下にある作品とも読むことができます。その文脈では渡辺さんの最新刊『2030年のゲーム・キッズ』の周辺作としても楽しめました。
「メタバース」、「デジタルツイン」という語を意識しているか否かで作品の読み方がガラッと変わってきます、なので「noteで作品を読む→コラム文を読む→作品再読」という順番で読めた人が一番おいしかったのではと思います。
以下、各作品に対して一言感想です。
秋葉原-第1話「おじいさんのラジオ」
初読はロジックが支配する作品はない、いわゆる「すこしふしぎ作品」作品として読みましたが、メタバース概念を取り込むならばループ作品としても読めるのかな。「不思議なことに、ちっとも疲れない」は階段を上るほどに時代が遡って「自分」が過去に戻っていくことも表していそう。
お店のゴミゴミとした描写は、「あの時代の秋葉原」を知っていると、これだよこれ、ってなるのだろうなという説得力を感じます。そして「あの時代の秋葉原」は会場であるラジオセンターにまだ残っているってのがニクい演出です。会場まで行ってよかった。
秋葉原-第2話「メイドさんのお仕事」
デジタルツインとしての秋葉原の物語。VR空間のなかに一ヶ所だけ記録されていない箇所があるという話。
というこの設定を聞くとコミックアンソロジー『プラトニックチェーン Selected Stories Vol.02』収録の「集団自撮」を思い出してしまいます。(原作の「集団自撮」とはストーリーが異なり、緒方剛志さんによるオリジナルストーリーと思われるもの)
意識してなのかそうではないのかは分かりませんが、同じテーマに対して、作家が違う結果を出力するっていうのが読者にとっては面白いです。
あと、「秋葉原。とんでもなく面白い街だと、思わない?」が『2999年のゲーム・キッズ』の「世界じゅうが、花だらけになったら、すてきだと思わない?」に呼応しているように感じられて、これまたいいんですよ。『2999年のゲーム・キッズ』。名作。
というように作品を読むことで、過去の名作を想起させるこの構造が作品内容ともリンクしているように思えるのですが、考えすぎかな。
秋葉原-第3話「秋葉原探索ゲーム」
第1話、第2話は機器を使っての時間旅行をしていた。第3話はそんなことをせずとも秋葉原にはいろんな時代が混じりあっているというお話なのかな。
秋葉原の人々のあたたかさも素敵ですね。商売っ気にあふれていないからこそ残り続けているものがあるのでしょう。
ニュー新橋ビル-第1話「あの日のオムライス」
会場に行ったとき、私もニュー新橋ビルの1階でオムライス食べてきましたよ! 酸味があるケチャップでお昼に食べたら刺激をもらえるタイプ。最初なので無難にオムライスにしたけど、オムドライも食べてみたい。
税務記録から材料を確定させるところに、プラトニックチェーンっぽさがあったりして楽しいですね。
2024年に生きる我々はこの作品を現代を舞台にした作品とも読んじゃうのですが、なかには「あの懐かしの令和時代の、オムライスが」なんて文章も。気がつけば未来の物語を現代の物語として読んでいることに衝撃を受けました。先の「メイドさんのお仕事」に出てきた主人公みたいに時間旅行していることに気づいてなかったわ。
ニュー新橋ビル-第2話「常連さんお断り」
今回の作品群のなかで唯一の黒寄り作品?
とは言っても「今回はバッドエンドでした」が「こうすればハッピーエンドですよ」という反語になっているので、やっぱりこれ自体も白作品なのかな。
「メイドさんのお仕事」と対になっているとおぼしき作品。あちらが開かれた情報から作られたデジタルツインだとしたら、この作品は個人収蔵のデータのみから作られたデジタルツイン?
行動経済学的にいうと、自分の行動は自分がよいと思っているから取られているもの。なので自分の経験に入り浸るってことは基本的には心地よいことなんですよね。
自分の経験は『2030年』的にはNFTの概念と繋がってきますし。秘匿された個人の体験を「思い出ハッカー」が奪いに来るような未来もくるのかな。
ニュー新橋ビル-第3話「タイムマシンビル」
「秋葉原探索ゲーム」が街に様々な時代が溶け込んでいるとしたら、こちらは一つの建物が様々な時代へ繋がっている話かな。
基本的に世界はいい方へいい方へと動いていっている、ってのは大体の人が納得するものだと思います。
かといって「スペースインベイダー」に熱中している少年に「スト2」の方が面白いに決まってるよな、と問いかけるのは暴力性も感じます。結局文化的な背景やその人が体験してきた人生によって良い悪いは決まります。この主人公もこの世界線を経験してきたからこそ、この「ニュー新橋ビル」を選んだことは間違いないわけです。
全球全歴史を網羅したデジタルツインが仮にできたら、自分はどう生きるか。
そこで何をしても好きに生きていいよと言われたら、そもそも精神が耐えられるのか。自分とはなにか。みたいなことがテーマになっているとしたら渡辺作品が今まで言ってきたことと繋がるのかな、と思いました。
なお、私はいまだにオープンワールドのゲームすら楽しめないので脱落筆頭の模様。なにしてもいいよって言われたら、なんにもできない!
おわりに
単行本や雑誌の発売でもないのに一挙6作品公開。しかも無料! ってことで大いに楽しめました。
今回関わりが大きかったデジタルツイン、メタバースといった概念は、今後の渡辺作品にも大きく影響があると思っています。なのでその技術の基礎編、応用編をフリーアクセスで公開してくれたのはとっても素敵なことだと考えています。できればコラム文もオフィシャルなテキストとして出してくれるといいな。あと折角noteで公開しているならマガジン機能でまとめてほしい。(最後の1行作品も……)
今回の企画者(?)であるshibubillさんは過去にも秋葉原、ニュー新橋ビル、中野ブロードウェイを舞台にした企画を催していたようです。今回の小説が面白かったので、次回のイベント時にも渡辺浩弐さんが起用されるといいなー。いいなー。面白かったなー(ファンによる営業活動)。