見出し画像

打倒GAFAではないWeb3の世界、ビジネスモデルを考える(コラム)

初学者には特に、「Web3はWeb 2.0を象徴する巨大プラットフォーム企業を打倒するような技術」と理解をしている人もいますが、ブロックチェーンビジネスの現場ではそのような二項対立的な熱量を感じることは少なく、むしろ、新たな選択肢が増えたという考え方を持っている人が多いようです。Web3業界で活躍されている暗号屋の紫竹(しちく)佑騎代表社員と舘(たて)龍太業務執行役員に「Web3の定義」について話を聞きました。(関連単元:Web 3.0の基礎知識 - Web3との違い

個人がデータを所有し、分散型IDの時代へ

――Web3の登場で実現可能になったことは具体的にどんなことだと思いますか。

舘:まずはBitcoin(ビットコイン)です。それまでにもクーポンやポイントなど、デジタル上で通貨の代わりを担うものはありましたが、それらはある企業が作った限定的なものでした。一方、Bitcoinは論文を書いた人が正体不明というトリッキーな状態から始まり、世界中に広く知れ渡るようになりました。その後に Ethereum (イーサリアム)ができ、 NFT の登場で扱える対象が増え、その中でコミュニティ活動ができ、契約書や証明書などがある意味ではデータベースを使わずに意味を持つようになったことが、すごく画期的なところだと思っています。

紫竹:概念的な話をすると、管理者・仲介者の排除による手続きの効率化だと思います。国際送金を例にすると、銀行を介すると1週間程度かかったり、手数料が高かったりしますし、為替の問題もあります。ですが暗号資産(仮想通貨)は ピアツーピア のため、より速くより低コストで送金できます。この国際送金の例を抽象化すると、個人がデータや資産をデジタルで所有できるようになったということです。個人のIDを企業が持つのではなく、IDを自分の手で管理する分散型ID(DID)を基準にしてやり取りができるようになったことは、web3でできるようになったことの一つだと思います。


Web 2.0が向いているもの

――Web 2.0が向いているものとWeb3が向いているもの、それぞれどんなものがあると思いますか。

舘:web3はブロックチェーン上に記録させることに強みがありますが、情報流通や情報拡散という観点で言えば、web 2.0のようなプラットフォームの方が効率的です。また、デジタル上での価値の移動や交換、取引は明らかにweb3の方が向いていると思いますが、現実世界の物、例えばTシャツを買うとかであれば、10年先は分からないですけど、今はまだweb 2.0の方が向いていると言えます。暗号資産を持って、 ウォレット を接続してTシャツを買わなくても、クレジットカードですぐ買えた方が便利でしょうから。一方で、分散的に管理していないとその価値が消えてしまったら困るものは、web3の方が向いていると思います。その意味で、web 2.0とweb3は対立関係ではない、と個人的には思っています。

紫竹:私も認識はおおむね同じですが、サポートを受けたいのであれば、web 2.0のように中央集権的なものに任せるのはありですが、勝手に使われたら困るものはweb 2.0には向いていません。預けた資金や情報などが勝手に使われないように法律で定められてはいますが、それよりも自分が管理した方が楽だと思うなら、web3の方が向いていると言えるでしょう。お金やアートなどをデジタルをデジタルに紐づけられることが、web3によって生まれた新たな価値ですが、デジタルに価値があることをイメージできない人は結構います。電子マネーに対しても、使いすぎてしまいそうだから現金がいいと思っている人がいるぐらいですから。自分の線引きの下で、web 2.0とweb3、どっちを選ぶかを判断したらいいと思います。

――全てが、Web3がWeb 2.0にとって代わる、というわけではないんですね。

紫竹:その意味では、TwitterのCEOであるイーロン・マスク氏がTwitterでやろうとしていることと、Twitter元CEOのジャック・ドーシー氏が進める分散型ソーシャルネットワーク「Bluesky」が目指すことは、web 2.0もweb3もどっちもうまくいんじゃないかと思わせてくれる議題だと思います。Twitterは全世界の人たちに一つの利用規約を定めていますが、Blueskyは一つの利用規約では全ての人が納得いくものはできないという前提のもと、運営元を分散できるTwitterプロトコルを展開しています。Blueskyがいくつもの青空に羽ばたいていくイメージなのに対して、Twitterは世界でたった一つの人工の空を作っているようなイメージです。その一方でTwitterも、イーロン・マスク氏がCEOになってからはTwitterの内部情報を公開するなど、明らかに雰囲気が変わりました。人工の空であっても、厚い雲に覆われた空ではなく、青く澄んだ空を目指すような。中央集権型でもオープンにしていくことで信頼を獲得していこうとするイーロン・マスク氏と、分割することで様々な思想を満たそうとするジャック・ドーシー氏、今後どうなっていくのか面白い議題だと思います。

Web3はムーブメント

――実際にブロックチェーン技術を用いたプロジェクトを提供している事業者から見て、Web3はどのように定義され、どのような期待を寄せていますか。

舘:大枠、個人発信じゃないかなと思います。私自身、もともとはクリエイティブやマーケティング、広告の業界にいて、自分でも音楽を作っていることもあり、二次創作が可能なコミュニティ形成に興味があります。二次創作がイメージしにくいかもですが、YouTubeの切り抜き動画は二次創作の例と言えます。YouTubeでは著作権者が許可した上で切り抜き動画を配信でき、著作権者と切り抜き師に収益が分配されるようになっています。YouTubeでは著作権が著作権者から切り抜き師に移ることはありませんが、NFTだとコミュニティに著作権を渡して二次創作や宣伝をするなど、コミュニティ全体でコンテンツの価値を高めるということが起きています。音楽を例にすると、「このアーティストはここが魅力だよね」などとファンの中である程度共通認識されていたのが、別に共通認識などいらず、ファン一人ひとりが好きなようにアーティストをデザインできるような世界観に変わっていくのがエキサイティングだなと思いますし、そんなことが今後起こっていくといいなと思いながら業界を見ています。

紫竹:web3とは何なのか?という話でいつも思うことが、そもそもweb 2.0が何なのかを理解している人はどれだけいるだろう、ということです。web 2.0を端的に言えば「読み書き可能なウェブ」なのかもしれませんが、実際に利用している人たちはその定義を認識した上で利用しているわけではないですし、例えばプラットフォームなどはweb 2.0にもweb3にもあるもので、明確にこれがweb 2.0、これがweb3と区別することは難しいです。あえてweb3を定義するなら「ムーブメント、流行り」だと思います。便利なものを新しい技術と新ルールの中で作っていく業界内のムーブメントであり、個人の発信力が高まったムーブメントです。何がweb3なのか、考えすぎてしまっている人も多いと思いますが、便利なものが当たり前に使われるようになれば、web3もweb 2.0のように定義を意識することなく当たり前に存在するものになっていくと思います。


取材協力:合同会社暗号屋

福岡と東京をべースに、ブロックチェーン技術が拓く、新しい経済活動を産み出し社会実装するために創られた技術組織です。同社はブロックチェーン技術が普及することによる「あたらしいインターネット時代」の到来に熱狂し、様々な問題解決を行うことに注力しています。2022年10月には、NFTを持っている人だけがデジタルコンテンツにアクセスできるデジタルメディアプロトコル「VWBL(ビュアブル)」をリリース。ブロックチェーンのメリットを最大限活用したプロダクトを創るにはその思想の理解と幅広い技術選定の知識が必要不可欠です。課題に対して仮説を立て、実験を行いながら新しい価値の創造に取り組んでいます。

Web3ポケットキャンパスはスマホアプリでも学習ができます。
アプリではnote版にはない「クイズ」と「学習履歴」の機能もあり、
よりWeb3学習を楽しく続けられます。

ぜひご利用ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?