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イーサリアムの新レイヤー2「Astar zkEVM」はどんなブロックチェーンか(コラム)

日本発のパブリックブロックチェーンAstar Network(ネイティブトークン:ASTR)を展開するStake Technologies(ステイクテクノロジーズ、本社:シンガポール)は、2024年第一四半期に「Astar zkEVM Powered by Polygon(以下、Astar zkEVM:アスター ジーケーイーブイエム)」メインネットのローンチを予定しています。このAstar zkEVMの開発に当たり、Astar NetworkとPolygon Labsは日本におけるWeb3のマスアダプションに向けて連携しています。

Astar zkEVMはゼロ知識証明を活用したPolygon CDK(CDK =Chain Developer Kit:ポリゴンブロックチェーンの開発ツール)を採用して開発された、Ethereum(イーサリアム)ブロックチェーンのレイヤー2ソリューションです。簡単に説明すると、より速く、より手数料を抑えたブロックチェーンを目指したものですが、ゼロ知識証明やレイヤー2など専門用語の説明も含め、実際にどんな仕組みになっており、どう活用できるのかを解説します。


「レイヤー2」と「ゼロ知識証明」の関係

まず、「Astar zkEVM Powered by Polygon」のネーミングから構造を紐解いてみましょう。

Astar……Astar Network
zk……ZKP(Zero Knowledge Proof)
EVM……EVM(Ethereum Virtual Machine)
Powered by Polygon……Polygon Labs

「zkEVM」とは上記の通り、Ethereumチェーン上でスマートコントラクトを実行し、互換性を持たせるためのソフトウェア環境であるEVM (Ethereum仮想マシン)と、ZKP(ゼロ知識証明)を併せ持った技術のことです。ZKPは1980年代に発表された技術であり、「自分だけが知っている秘密の情報を他人に伝えることなくそれが本当であると証明する手法」と言えます。この技術はEthereumのレイヤー2と深く関係しています。

Ethereumのレイヤー2とは、オフチェーンでトランザクションの処理を行い、その検証をオンチェーンで可能にする技術のことで、ブロックチェーンのスケーラビリティ問題によって引き起こされる処理速度の低下や送金遅延を改善するスケーリングソリューションのことです(関連単元:Web3に残る問題点 - 技術と構造の両面から考える)。

レイヤー2でトランザクションを処理する技術を「Rollup(ロールアップ)」と呼びます。オフチェーンで処理されたトランザクションのデータを一つにまとめてレイヤー1に書き込む様子からネーミングされています。オフチェーンで処理されることからこのRollupの正当性を検証する方法はいくつかあり、Ethereumの代表的な例がOptimistic Rollup(オプティミスティック ロールアップ)とZK-Rollup(ZK=Zero Knowledge、ゼロ知識ロールアップ)です。両者については「ブロックチェーンの課題解決になるか - レイヤー2編」でも解説しています。

■Optimistic Rollup

EthereumのOptimistic(楽観的)なロールアップでは、レイヤー1に書き込まれた情報は全て正しいという仮定で進みます。検証者は不正なトランザクションがないか監視し、異議を申し立てることができます。

■ZK-Rollup

EthereumのZK(ゼロ知識)ロールアップは、ZKPを用いたレイヤー2技術です。ZKPでは、秘密にしたい情報を開示せずに、その情報が正しいことを確かめることができます。例えばデジタル署名は、秘密鍵を開示せずに署名者が秘密鍵を持っていることを証明するものであり、ZKPの一種であると言えます。ZK-Rollupでは、オフチェーンで実行される多数のトランザクションの証拠を集約してレイヤー1に書き込むことができるため、情報が正しいという仮定に頼らず、全体を常に検証しながら進行できます。

Astar zkEVMではこのZK-Rollupが採用されています。

Astar Networkにレイヤー1とレイヤー2がそろう

Astar zkEVM の特長について触れる前に、Astar Networkについて簡単に解説します。

Astar Networkは日本発のパブリックブロックチェーンとして2022年に誕生しました。現在は「Astar Substrate Powered by Polkadot」(以下、Astar Substrate:アスター サブストレート)」と「Astar zkEVM Powered by Polygon」の二つのブロックチェーンで構成されています。

Astar Substrateは、Polkadot(ポルカドット)に接続されているレイヤー1ブロックチェーンです。Polkadotに接続されている他のブロックチェーンを、EthereumやCosmos(コスモス)などのブロックチェーンに繋げる「マルチチェーン時代のスマートコントラクトプラットフォーム」としての役割を担っています。今ではPolkadotで最大の規模を誇るブロックチェーンとして認知されています。

Astar zkEVMは、ゼロ知識証明を活用したEthereumブロックチェーンのレイヤー2ソリューションです。詳細については後述します。

この通り、二つの異なる特徴を持ったブロックチェーンにより、開発者はより多くの環境とツールを使って開発・構築することができるようになります。

ブロックチェーンを選ぶポイント

Ethereumレイヤー2ソリューションであるAstar zkEVMはどんな特長があるブロックチェーンなのでしょうか。ここでは具体的にブロックチェーンの優劣を取り上げるのではなく、まず、技術的・ビジネス的な観点からブロックチェーンを選ぶポイントを示した上で、Astar zkEVMの特長を解説します。

■(1)技術的な四つの観点

セキュリティ……システム不正への耐性はブロックチェーンの本質である「誰も不正できないシステム」に直結する大事なポイントです。プルーフ・オブ・ステークを採用しているEthereumでは、「セキュリティ=時価総額の大きさ」と単純化して考えると後から改善するのが難しく、セキュリティは最重要基準と言えるでしょう

パフォーマンス……汎用性や機能性の高さ、魅力的なユーザー体験など、プロダクトを生み出す上でパフォーマンスの高さは大事なポイントです。既存のブロックチェーンにはセキュリティを犠牲にしてパフォーマンスを高めているものも少なからずあり、セキュリティも踏まえて検討する必要があります

コスト……トランザクションを行うのにどれだけコストがかかるのか、プロダクトをより多くの人により多くの体験をしてもらうために外せない視点です。コストに関しても、セキュリティを犠牲にしてコストを下げているブロックチェーンもあるため、注意が必要です

開発環境……そのブロックチェーンにどんな開発ツールが採用されており、どれだけエコシステムが充実しているのか、開発のしやすさという点で見極める必要があります。すでに参入している開発者の数も参考にするといいでしょう

■(2)ビジネス的な二つの観点

コミュニティ……アプリケーションエコシステムの充実度とともに、ユーザー数と資金の量を確認しましょう

サポート体制……開発に利用するグローバルなツールやマーケティングについて気軽に相談できるという意味で、日本語でのサポートの有無は一つの判断基準と言えます

Astar zkEVMの特長

上記の観点を踏まえて、Astar zkEVMの特長を考えてみましょう。まず、ブロックチェーン最大規模のユーザー数を有するEthereumの拡張機能であるレイヤー2技術を実装しており、EVM環境と同等のEVM等価性を保持していることが挙げられます。Astar zkEVMのベースとなっているPolygon CDKはオープンソース化され、かつ50以上のグローバル企業や主要プロトコルが開発に参加しています。また、Astar zkEVMはAstar Networkのエコシステムが提供してきた相互運用性に加えて、ネットワーク上の取引処理を行う際にZKPを活用することにより、より高度なスケーラビリティ・安全性・UXの実現が目されています。こうした観点からAstar Japan Labは、Astar zkEVMは技術的・ビジネス的な観点で選ばれるブロックチェーンであることを強調しています。

更にAstar zkEVMはグローバルなWeb3ツールに対応し、ガスレストランザクション(Gas-Less Transaction:ガス代不要)やアカウントアブストラクション(Account Abstraction:アカウントの抽象化)などマスアダプションに向けたソリューションの提供を予定しています。


Astar Japan Labとは
Astar Networkを利用したサービス開発やビジネス創出に関わる事業者の情報の調査・研究、知見の集約、意見交換を行い、Astar Network経済圏の更なる発展を目指すために設立されたコンソーシアムです。2023年12月現在、148社が加盟しており、加盟企業はWeb2の大企業からWeb3のスタートアップまた地方行政まで多岐にわたります。


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