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職業: 錬金術師の名刺は通用するか? -ニコラ・フラメル、パラケルスス、サンジェルマン伯爵を題材に-

まえがき

本稿は、「技術で根源にいたる」をテーマに集まったメンバー(錬金術師)による合同誌  アルケミスト・マガジン 創刊号 に参加しています。本稿とも関連が深い記事をまとめて購入可能でお得ですので、ぜひご検討ください。

どうも。デジタル召喚術師の@w256 です (´・ω・`)

本稿を読んでみようというあなたは「錬金術で生きていく」というワードに何らかのインスピレーションを感じているものだと思います。

それは、まぎれもなく素晴らしい志です。錬金を極めれば、以下のようなすばらしい世界が約束されるのですから。

圧倒的にモテる。不老不死となったり、フラスコから人間を化学合成できるため、理想的な配偶者や子供も持てる。
だるい通勤電車を避けてワープで出社する。もしくは、錬金によってもたらされる富で生活できるため、出社するかどうかは任意となる。

これらの記述に「非合理的なオカルトだ」「騙そうとしている」としか感じないのだとしたら、残念ですがあなたには錬金術の才はありません。この先を読み進めても、何も得るものはないことでしょう。
錬金術は「非常識や非合理」と「絶対的な真実」が支配する世界を前提とした技術です。既に大衆化に認められた知識を前提に置いた術ではありません。

一方で、もし「錬金」のコンセプトに名状しがたい魔の力を信じ、言葉では言い表せない「ときめき」みたいなもの少しでも感じたのだとしたなら、あなたは錬金術師になる準備ができているということです。

殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないでいる、素質あるあなたを歓迎しましょう。

少し前置きが長くなりました。

「職業: 錬金術師として生きていく方法」について、私の知っていることをお伝えしていきましょう。 

私の本分は”デジタル召喚術”ではありますが、同じくデジタルテクノロジーが支える「魔」を生業にするものとして、錬金術の世界に駆け出そうとするあなたの背中を押すやことぐらいはできるはずです。。。

錬金術師の名刺を差し出すということ


錬金術を身に着けたら何がしてみたいですか?

鉛を金に変えて売却しその販売差益を得ることで、”値札を見ない生活” に突入する
不老不死を体現して永久の時間を生きる

おそらく、そんなところでしょうか。

現代社会において、究極的に人を支配しているのは「金」と「時間」です。あなたの理想を端的に表現すれば、錬金術とは、望むだけ「金」と「時間」手に入れる術ということになるでしょう。いいですね。とても良いバイブスを感じます。

ところであなたが答えたように、「望むだけ「金」と「時間」手に入れる術を身に着けた存在」という印象は、世間一般が錬金術師に抱いている印象とも大差がないものです。
「職業: 錬金術師」の名刺を差し出しそれが通用するということは、そのように世間から見なされるということでもあります。以上の整理より...

A.  錬金の奥義を身につけ、活用している
B.「職業: 錬金術師」として世間から納得してもらう

これら、A・Bの要件を満たすことが錬金術師の名刺を通用させるために必要となる。といえるでしょう。

A. 錬金術の奥義を身につける


まず、錬金術師としての基本を抑えるため、Aの要件を満たすことを考えます。ところで「錬金術の奥義」とはどのようなものでしょうか?

錬金術には、「知恵の神」と呼ばれるヘルメス・トリスメギストスが残した最重要文書「ヘルメティカ」があり、これに「錬金術の奥義」を求めるのが通例です。

ヘルメティカには、この世を司る真理・根源となる原則、悟りを開いたネオ・エクスデスが悟るに至った「宇宙の法則」に似たものが記載されており、その「宇宙の法則的な原則」(以下、宇宙の法則) をうまく使いこなすことが錬金術の奥義であるとされています。

モノの本によれば、宇宙の法則を使いこなすということは未覚醒の人間には知覚できない根源的な世界に働きかける術を習得することでもあり、その根源世界上で操作をすることで、現実世界を意のままに動かすことができると言われています。

ここでいう、”思い通りに”とは自己啓発の文脈で言われる「気の持ちようで人生は生きやすくなる」という次元のものではなく、鉛から金を生み出したり、瞬間移動したり、タイムリープしたりといったことまでを含みます。

これが、スキルレベルMAXになった錬金術師の力です。錬金の道を歩んだことのない一般人には知覚することも理解することもできない根源世界の操作によって、現実世界での無双が可能になるということです。

エメラルド・タブレット

膨大な量があるヘルメティカですが、「宇宙の法則」は、エメラルドの石碑にヘルメス・トリスメギストスが直接刻んだ、エメラルド・タブレットと呼ばれる文書に記載されています。

しかし、ひとつ重大な問題があります。

エメラルド・タブレットの現物は、(公式には) まだ発見されていないということです。さらに、エメラルド・タブレットの写筆として知られる文章にも、象徴や暗喩がふんだんに駆使されており、錬金術についての知識を経験がなければ理解できるものではありません。

一例として、錬金術の基本原理とされる1文を引用しましょう。

下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし

この一文の解釈は、ミクロコスモスとマクロコスモスの照応と捉えるのが定説です。しかし、ミクロコスモスとマクロコスモスのような、現代的・科学的な知を逸脱した経験をしていなければなければ何かを知ることはできないということが感じられることでしょう。

ハインリヒ・クンラートによるエメラルド・タブレットの想像画

余談とはなりますが、そうした設定についての私の感想は「それはそう」というところです。民度の低い人々が宇宙の法則身につけてしまえば、世界の秩序は簡単に崩壊してしまうに違いありません。

もし、出まかせであったとしたとすれば、「秘密にしておくから価値がある情報」ということになります。

何れにせよ、無知な一般大衆からは秘匿されるべき類の知識ということです。

多くのスピリチュアルリーダーが「オレがモノホン」であると主張し、しのぎを削る末法の世にあって、誰が本当に宇宙の法則を悟っており、高い倫理感を備えて私達を幸福へと導いてくださると言えるのか? 秘匿された知識にに触れる資格たる素養を身につけるには、どのような修養を積めば良いのか? など興味は尽きないところです。

しかし、本稿ではいったんそれらの問題を脇へと置き、歴史的観点から錬金術の奥義の定義を求めることにします。

キミアの伝統


古代から中世末期まで、錬金術と科学には境界はなくキミアと呼ばれていました。

1つの数式によって人類史を大きく進歩させた、中世末期の天才科学者: アイザック・ニュートンも錬金術と科学が未分化の時代の学者ですが、錬金術に関する文献も大量に残していることでも知られています。

例えば、王水の発見も賢者の石(後述)の生成のための試行錯誤の副産物であると言う逸話はよく知られているところです。

そんなキミアが伝統的に目指してきた究極目的は、以下の2つです。

A1. 賢者の石を手に入れる
A2. 不老不死を実現する方法を見つける

以上の整理から、いずれかを実現できれば歴史的な観点から錬金術の奥義を極めたと言っても差し支えないでしょう。

それでは、1つづつ検討していきます。

不老不死は人類史に名を残す無数の天才達の挑戦を退けてきた超難題です。しかし、異端の生物学者: オーブリー・デ・グレイが10年以内に科学的に実現できると発表をしているなど、将来的には当たり前の科学技術となる可能性があります。

科学によるアプローチは急速に展開して行くものと思われ、ここ数十年のうちには不老不死は錬金術師ではなく、科学者の掲げるテーマとなる可能性があります。

グレイ氏のなにかやってくれそうなとても怪しいオーラ、研究の進展に期待しつつ、本稿ではもう一つの道を模索することにします。

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錬金術のもう1つの奥義は「賢者の石を手にすること」ですが、まず「賢者の石」という言葉が象徴として語られている点に着目し、何を手にするべきであるのかについて考察を進めましょう。

歴史上、賢者の石の正体は「鉛を金に変えるときに使う触媒」「削り出して、粉にすることで奇蹟を起こすことができる石」「巨万の富を得ることができる叡智」などであると考えられてきました。しかしその姿・形は公になってはいません。

そこで、かつて賢者の石を手にし、錬金術師を肩書とした先達、ニコラ・フラメル、パラケルスス、サンジェルマン伯爵の生涯を紹介し、彼らが手にしていたとされる賢者の石の正体について検討を進めていくことにします。

【成功者】 ニコラ・フラメル : 1330-1418

特筆すべきスキル
  文献学
  カバラ
  ヘブライ語

ニコラ・フラメルは、フランスの伝説的な錬金術師です。

特に有名な業績としては、賢者の石の製造手法を1枚の図に示しその奥義に至った経緯を記したとされる、錬金術師必携書: 象形寓意図の書を執筆したということです。( 象形寓意図の書は普通に翻訳が出ているので興味があれば、Amazonなどでどうぞ。期待通り怪しさ満点な感じなんですが、日記風で読みやすく内容的にも楽しめるものです。)

もともと彼は、文献整理・出版・写植を仕事にしていたようです。当時それらの仕事は、知的エリートが就く職業であったため、周囲からは現在の研究職のような立場と見なされていたはずです。

彼はある日、旅人から奇書:「アブラハムの書」を受け取ります。そして読解を試みたところ、それは 神の言語 : 古典ヘブライ語・ギリシャ語で書かれた数秘術(カバラ)の奥義が書かれた書であるということを悟ります。

興味を持った彼は詳細に読解を試みますが、真理に至りえないところが多く20年近く苦闘しましたが内容を理解することはできませんでした。

そこで意を決した彼は、この書を読解するためキリスト教三大聖地の1つ、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の旅に出かけます。彼が、49才のときのことです。

この真理を求める旅は21年間にもおよび、フランスに戻った彼は70才になっていました。 しかし、彼は研究の末、賢者の石の製法に行き着いて、錬金の奥義を体得していたとされています。

フランスに戻った彼は、その奥義を用いて巨万の富を築いてパリの開発に貢献したことが公文書にも残されています。しかし、彼は賢者の石の製法を直接的に書き残すことをせず、象徴寓意図の中に象徴を用いて秘匿し世を去っています。

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ここからは私論ではありますが、ニコラは当時の人々がほとんど知ることのない「有益な秘密」知ったこと自体は、事実であると思います。20年旅人を続けて70才で帰国し、急に資産家となったことが記録に残っているのですから、少なくとも何かしらのゴキゲンな能力を身に着けて錬金に成功したと考えるのが自然です。

しかし、彼はその「有益な秘密」を秘匿しました。これはなぜでしょうか?

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当時のヨーロッパは、17世紀科学革命まで300年を残しており「神」を絶対とした時代です。科学的・統計的とかといった前提が通用する世界ではありません。

同時代のフランスに生きた有名人に、聖女: ジャンヌ・ダルクがいますが悲劇的結末を迎えた彼女の生涯のことを鑑みても、魔女狩りなどは日常的に行われていたことが推測されます。

しかし当時のフランスは、何かのきっかけで神に不敬を働く異端者であると断罪されれば、火炙りにされてしまう世界です。

もし、"大衆から見れば"「神の御業」にしか見えないことを「人」である彼やってのけ、その種明かしまでしてしまえば、キリスト教関係者などの諸々の大人の事情に大いに抵触し、異端のそしりは免れないことでしょう。

ニコラ・フラメルの秘密は、"現代人から見れば"科学的に説明しうる、皆が認めた事実であるのかもしれません。( 個人的にはニコラが知ることになったのは、古代カバラの神秘基づくガチ錬金秘術であってほしいのですがw ) 

次に紹介するパラケルススの生涯は、(残念なことに) さらにこのような考察の妥当性が高いものです。賢者の石とは何であるのか? さらに考察を深めていきましょう。

【人外】 パラケルスス 1493-1541

特筆すべきスキル
   医術
   薬草術
   鉱物学

パラケルススは、ニコラ・フラメルの時代から少し下った時代の、放浪の医者です。とくに、外科と薬術に優れていたとされ、フリーハンドで針を目に挿して抜くだけで失明を治すという、古代の名医:ガレノスが残した誰もできないとされた超絶技巧を「ね、簡単でしょう? 」的なノリで行ったり、世界初のアヘンの科学的な合成に成功した人物として知られています。

パラケルススが生きた次代のヨーロッパの医術は、ヒポクラテスやガレノスの時代から受け継がれた四体液説をベースとしたものでした。四体液説とは、ざっくりといえば、全ての物質は火、空気、水、土からできているというアレです。

ヒポクラテスはBC400、ガレノスはAD200ぐらいの人ですから、ざっと、1300年ほどヨーロッパ医術理論は、科学的な意味でほとんど進歩していなかったということになります。

なお、ガレノスは呪術的・宗教的な要素と医学を分離を試みるという科学的な態度で伝説的な治療実績を残しましたが、パラケルススの生きた時代は、依然として神が絶対的な権力を持った時代でもあります。

1300年の時を経てはいますが、そのような風潮に少なからず医術も影響を受けて、「ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろ!」-> 「 @w256はまいそうされます 」というようなウィザードリィな価値観に基づく医術も受け入れられていたものと推測されています。

少なくとも、一般大衆は病気や怪我の発生や治癒は全て神の思し召しと深い関連があるものと捉えていたはずです。

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パラケルススは「医術によって人を助ける」ということに対して、きわめて真摯な、ときに行き過ぎるほどの情熱のあった人です。

以下は私論になりますが、パラケルススが放浪を続けていた理由は2つあると考えています。

ひとつは、その真理を誠実に求める性格ゆえに神の絶対を前提とした世論とは相いれず、生きにくい状況に追い込まれがちであったため。もうひとつは、各地の”効果がある民間療法”についての知見を集めていたためです。( 土着の薬草療法などは民間療法とはいえ、ウイザードリィ医術よりもましなものがあったはずです。)

彼が、当時主流でった医術がむしろ状態を悪化させることを揶揄して「人間には自然治癒力がある。刀傷を治すには刀に薬を塗ると良い。」という発言したり、バーゼル大学の教授となったとき、古いパラダイムに基づいて書かれた大学の蔵書を勝手に焚書にしてクビになったといったエピソードからもそのような人格をうかがい知ることができます。

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パラケルススは、医学に化学を導入した人物とされています。しかし近代化学の祖とされる面々、ロバート・ボイル(1627-1691)やアントワーヌ・ラヴォアジェ(1743-1794)が活躍するのはまだ150年も後のことです。

彼は自らの研究に基いて200年も後の時代の医術を「有益な秘密」として先取りし、圧倒的な治療実績をあげていました。

一方で、彼の名は当時から広く知られていたにもかかわらず、案の定行く先々で世間に叩かれ続け、不幸な人生を歩むことになってしまいました。

なお、「ホムンクルス(小人)の作り方」など現代知識においても、不可解としか捉えきれない象徴を駆使した記述も大量に残しており「これは、分かる人がわかればいいよね」という分別まったく持たなかったわけでもないようです。(今後、彼の真意解き明かす人物が現れ、生きた小人が科学的に合成されるようになり「美少女フィギュアが生きている」時代が来るのかもしれません。)

オーブリー・デ・グレイ氏にはぜひ頑張って頂き、私にもそのような世界を目にしたいものです。

【神】 サンジェルマン伯爵 1691-1784


特筆すべきスキル
  人身掌握詐術
  人並み外れた機転と機知
  人並み外れた語学・歴史の知識

サンジェルマン伯爵は、ルネサンスを迎えたヨーロッパに現れた謎の人物です。彼が錬金術を体得した経緯は明らかにされていませんが、基本スペックとして、タイムトラベルを繰り返す能力があり、不老不死であったともされています。そして、それを裏付ける数々の逸話も残しています。また、数十カ国語を自在に使いこなしたとされ、化学や音楽の知識も豊富であったとされています。

当時のヨーロッパでは、ニュートンやボイルなどが一定の評価を獲得したり、百科全書派が活動していた時代でもあり、科学的な思考も世に広まり始めていました。しかし、科学はまだ理論的にも実践的にも未成熟であり、科学的を補完するものとして錬金術も改めて流行していました。


そんな世にあってサンジェルマンは、フランス国王: ルイ15世に錬金術の研究所としてシャンボール城を助手や使用人と共にあてがわれています。

百科全書派1人でで当時の第一級の知識人: ヴォルテールにして「決して死ぬことがなく、すべてを知っている人物」であると評されるなどその能力は認められていたようです。

ルイ15世があてがったジャンポール城

以下は私見となりますが、サンジェルマン伯爵は貴族達の退屈に付き合って、彼らの好奇心を引き出し、うまく取り入った人物と見ています。

ルイ15世の時代は貴族的な統治の末期にあり傲慢と退廃に満ちた世界でした。( 次代の王ルイ16世は、マリー・アントワネットと共に断頭台に送られます。)

グリゴリー・ラスプーチンや道鏡のような人物が支持を得たように、彼も人間に支持を得ていき、その人脈を用いて錬金を行ったというのが実際のところでしょう。彼にとっての「賢者の石」はその卓越した社交術であったということでしょう。

現代における賢者の石

3人の生涯に触れることで賢者の石とは「時代によって異なった実体を持つ、大衆には理解されない技術的な秘密」であることがわかりました。

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