コットンと食用油と戦争と

終戦の日には読んでもらいたい怖い怖い真夏の怪談

最近の歴史学では『第0次世界大戦』とも呼ばれている日露戦争で世界の風景は一変した。この戦争は無煙火薬が本格的に実戦投入されて最初の大規模な戦争であり、この戦争以降、農業ビジネスは兵器産業と固く結び付くこととなった。無煙火薬の素材はニトロセルロースとニトログリセリンであり、前者は綿花、後者は植物油から製造されるからである。畑から無尽蔵に弾薬用の火薬が生み出される時代が来たのだ。

農業は食糧生産によって人間の死命を制するのみならず、実弾をもって人間の生命を直接奪う暴力の手段ともなったのである。だから、日露戦争以降の平時の世界の綿花生産と植物油生産の裏には、有事の軍需生産の影が濃密にまとわりつく事となったのである。

さて、農業積算の基礎を支える肥料の三大要素は『窒素・リン酸・カリウム』である。このうち、カリウムは比較的遍在性の高い資源であり、窒素はハーバー=ボッシュ法の開発によって化石資源さえ燃やせば大気中からほぼ無限に固定できるようになった。

ところが、リン酸の原料となるリン鉱石だけはとんでもなく偏在性が高い。

現代の中近東で石油の乏しいのに異様に高いプレゼンスを誇る二ヶ国がヨルダンとモロッコの二ヶ国であるが、それはこの二ヶ国が重要なリン鉱石輸出国であるからである。またこの二ヶ国の君主としてイスラーム圏で最高の『貴種』たる、ムハンマドの愛娘ファーティマとムハンマドの従弟アリーの直系子孫が据えられているのも、この二ヶ国の安定を強く国際社会が望んでの事であろう。

また、ベトナム戦争で鋭く西側諸国と対立し、旧東側諸国の中でも中国と激しく衝突したベトナムが非 速やかに国際社会に復帰して地位を回復させたのも、ベトナム国内に存在する、精密工業原料にも使える高純度のリン鉱石鉱床の存在と決して無縁ではないだろう。

しかし、こうした世界のリン鉱石鉱床のほとんどが、今世紀中に枯渇することが見込まれている。その中で唯一22世紀にも大量生産を維持する鉱業が続けられると見込まれているのが、中国四川省の巨大堆積鉱床である。つまり、順当にいけば、来世紀まで体制を持ちこたえさせさえすれば、来世紀の世界の食糧生産と農業ビジネスと結び付いた軍需産業の根幹を中国共産党と人民解放軍が掌握することが出来る寸法になる。

しかし、このような政体の国家が、この二つを掌握することを、オランダとアングロサクソン系の資本に系列化された軍産複合体とそこに紐付けられた『国際社会』が座して待つことはないだろう。そして、その事を中国共産党と人民開放軍もよく理解しているはずだ。

急速に不安定化しようとしている今の世界だが、その根底には今論じてきたような構図に発する緊張関係が根深く横たわっているはずだ。

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