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サガ フロンティア2 ピアノ即興2022(VUTTERリアル生放送第12回アーカイブ)

2022年7月23日「VUTTERリアル生放送第12回」で演奏した『サガ フロンティア2』のプログラムと各曲目について、要点を書き留めておきます。

大前提として

ゲーム音楽のアレンジに関しては既に星の数ほどの演奏が発表されており、清塚信也さんのようなプロのピアニストが参戦するまでになっています。その中で私のような我流ピアニストが一石を投じる理由があるならば、

  1. 楽曲の持つ様式感、音色、フレーズ等のうち、ピアノ・ソロにする過程で省略されがちなエッセンスを安易に除外しない(可能であれば倍加させる)こと。

  2. 音楽面だけでなく、ゲーム内シーンの一部としての音楽、すなわち場の空気感、背景、登場人物やプレイヤーの感情を(過剰になりすぎない範囲で)反映すること。

1.について。
サガフロ2に関していえば、原曲は大きく分けて2種類。オリジナル・サウンドトラックと、ピアノ小曲集"SF2"です。前者はサウンドトラック、後者は純音楽。
サウンドトラックをピアノ・ソロに変換することによる付加要素は何か。Romanのオリジナル・サウンドトラックに含まれる、打ち込み版だからこその表現である高音でのピアノ連打パッセージを、ピアノ・ソロで無理なく表現するには?あるいは、"Einsamkeit"を単にピアノ・ソロで演奏すると、SF2の"α1"そのものにしかならない。"Einsamkeit"の原曲(サウンドトラック)はピアノ・ソロではなく、次第にリズム・トラック、ストリングス、フルートと音が重なっていきます。繰り返し後に天井から降ってくるようなフルートの音片を、ピアノ・ソロで再現するには?この辺りに新奇性を求めることができるでしょう。

2.に関して。
これは、特に作曲者(浜渦さん)の意図には含まれないであろう、いわば楽曲の独り歩きのような部分と思います。だからこそ、いつも遠慮深くなりますし、安易に音楽を変えすぎてはならないのですが。
サウンドトラックの作曲というのは、基本的にシーンに沿った音楽を計算して練り上げるものであり、それは感情のままの音楽というよりは、緻密なコントロールのもと、ときに感情を殺して書かれることさえあるものです。しかし我々がその完成品を受容するということは、そのようなコントロールとは真逆に、たっぷりとシーンを見、聞き、感じ、考え、驚き、感情を動かされ、ときに涙する。石ころのような扱いを受ける。弟妹と十数年越しに再会する。仲間が非情の運命を辿る。命を落とす…。これらのストーリーを事前に知ることなく、初見時に大きく感情を突き動かされたからこそ生まれるインスピレーション、あるいは年数が経つにつれて深まるシーンへの理解。そういった感情を込めて演奏すると原曲の空気感からかけ離れることもしばしばですが、それは逆に言えば、原シーンに近づき得るということなのですときに私は音楽という道具を使って、そのシーンに含まれる音楽以外のものまで表現しようとしています。既プレイ者にとっても未プレイ者にとっても、単にサントラCDを聴くだけでは得られない空気までも表現し、どんなゲームなんだろう、シーンなんだろう。観てみたい、プレイしてみたい。そうだ、そんなシーンだった。またプレイしたい…。そんな想いにつながってくれればと思います。もちろん、楽曲そのものを好きになっていただけるだけでも御の字ですが。
自分の音楽性をアピールしたいという気持ちもゼロでこそ無いかもしれませんが、それは上に書いたような1.2.を具現化するための道具に過ぎないのです。まずはゲームとその作者たちに。次いで楽曲とその作曲者に。演奏者に対する興味はその後で良いですし、その後でないといけません。アレンジ演奏は原曲の魅力を倍加させることはあったとしても、その前に出ることは決してないのです。

以下のリンクから全曲再生できます↓

各曲(シーン)について

①はほぼ唯一、このゲームの「内側」ではなく「外側」にある楽曲群です。Vorspiel(前奏曲)は、PlayStationをONにして最初に流れるタイトルシーンの音楽。ゲームオーバー時にも、ここに戻ることになりますが。Aussenwelt(外界)は、シナリオ選択画面。
これらの楽曲はあくまで導入ですが、ピアノが特徴的なサガ フロンティア2の音楽世界にプレイヤーを誘うという面で、小さくない意味を持ちます。特にVorspielの浮遊感・透明感のある音楽は、タイトルバックの草原のビジュアルとも相まって、世界観の骨子といえるでしょう。

②はウィルの旅立ちと銘打ちました。Romanはギュスターヴ編でもヤーデから流れますが、このゲームのRPG的側面である街→ダンジョン→戦闘といったメイン・フローを最初に体験できるのはウィル編のヴェスティアの街ということで。Romanについては冒頭から、前述の通り、美しいメロディーを歌うことよりも原曲のピアノ連打パッセージを無理なく再現することを優先した、少々尖ったアレンジとなっています。15歳の旅立ちは高揚感、期待感のほか青さがあるはずで(だからこそ先輩ナルセスさんに嫌味を言われるわけですが)、そんな雰囲気までも伝わる演奏になれば良いなと思います。
Freudenbezeigungは戦闘勝利ジングル。初めて弾きましたが、リアル生放送で思いのほか好評をいただいたことを思い出しました。物珍しさのほかに、実は後半が結構クールという側面もあったかもしれません。

③はギュスターヴ編。どちらもゲーム序盤で頻繁に耳にする楽曲ですが、印象深いシーンとしてThemaはギュスターヴ12歳(グリューゲル)、Variationはギュスターヴと鍛冶屋(ヤーデ)と銘打ちました。石ころと呼ばれ懊悩する主人公と、母の叱咤。術不能者の生きる術を鋼鉄に見出す、ヤーデでの鍛冶見習い期。明と暗、さまざまな感情が両曲に含まれています。
ところでThemaとVariationを並べると「主題と変奏」という言葉が頭に浮かびますが、ここでのVariationは変化(成長)あたりの意味合いではないかと思います。

④でギュスターヴ編も戦闘を伴うシーンに入ります。体験版のダンジョンBGMとしても印象深かったAbweichung、ギュスターヴ少年の無鉄砲ぶりが楽曲から滲み出ています。そして同じヤーデの洞窟で流れるものの雰囲気が全く異なるEinsamkeit。病床の母への想いと迷い。初めて流れるFeldschlacht IIIが非常に印象的なシーンでもあり、同曲をここに組み込むかは最後まで悩みました。

⑤のテルムと夜の街は最初からメドレーに組み込んでいたプログラムではなく、リアル生放送3枠目フリーリクエスト枠で弾かせていただいた数曲から抜き出したもの。他の楽曲に比べて練習して臨んだ曲ではないので少々粗が目立ちますが、とかく思いの強いプログラムが並ぶなかで息のつける時間がほしくなり、街マドレーとして気軽に聞ける位置づけに配置してみました。夜の街はゲーム中あまり安心できる場面ではありませんが、音楽自体は割合落ち着いた雰囲気なのが面白い。

今回の一連のプログラムに標題をつけるなら、間違いなくVerborgenheitとなるでしょう。それくらい、思い入れの強い演奏になりました。不安感を煽る導入に対して、後半の和声の美しさは筆舌に尽くしがたい。恐怖の存在であるエッグのテーマ楽曲を美しく弾くというのはプレイヤーの感情としては矛盾を孕むというか、なかなか平静な演奏ができなくなってしまいますが、逆に言えばこの感情は、必ずや上手く制御して楽曲に盛り込みたいアイテムです。何度でも弾き試したくなる心情からか、2ループに拡大して演奏しています。その分後半は繰り返しを省きながら、1回目とは違う情感の込め方に。ラストの荒々しいペダリングに注目です。

⑤⑥はウィル編の要素が色濃く、⑦でまたギュスターヴ編に帰ってきます。Reminiszenzは原曲もSF2も完成されたピアノ小品で、ここであえて取り上げる意義は薄いといえなくもないですが、ストーリー中でも重要なシーンであり、かつErfolgとはやはり切っても切れない関係にあると思うのです。兄妹再会からの兄弟再会。短いシナリオながら、主人公を含む登場人物たちのさまざまな思いがこれでもかと交錯します。
Erfolgの原曲はここまでドラマチックな演奏ではないですが、シーンを享受した上で表現するとどうしてもこうなってしまいますね。コーダも拡大して、たっぷりと余韻を持たせています。静かな終結の裏で、ギュスターヴとフリンのやり取りを頭に思い浮かべていただけたなら成功です。

Hauptmannはチェンバロ音色を伴うドラマチックな楽曲で、そのバロック成分を重視するならもっと淡々と弾く術もあると思うのですが、ここでもドラマチックが表出しています。終わり方はあたかもドラゴンクエストの楽曲のように、静かで厳かに曲を閉じます。
Weihalterの原曲は分厚い白玉ストリングスによる不穏な楽曲ですが、ピアノで表現すると音の減衰に抗えない。そこで、ペダルの踏み替えを意図的に省いた箇所があります。怖いくらいに音がぶつかりますが、不穏楽曲の演出には有用な衝突ということです。
この楽曲で第1部が終わりとなります。非常に突き放すような終わり方でしたが、リアル生放送時には「サガフロ2である以上こういうのは覚悟していました」という趣旨の感想をいただいたことを覚えています。

一気にストーリーの年代が進みました。リッチ編つながりでFreiluftmusikを混ぜたかったなと一時期強く思ったのですが、散水塔は番外感の強いシナリオですので、入れられなかったくらいで丁度良いのかもしれません。逆に言えば、機会あらば単体で取り上げても成立する楽曲といえるでしょう。
余談ですが樹海のダンジョンは体験版でAbweichungが流れていましたね。製品版をプレイして樹海でWasserjungferが流れたとき、あ!ちゃんとより樹海に相応しい楽曲が当てられている!と、謎の安心をした覚えがあります。

リッチ編の化石洞窟と虫のメガリス、ダンジョン楽曲の二連です。ミスティにまつわるシーンの連なりは、神秘的なZaubermärchen、危うさを孕んだTrotzkopfと、付随する楽曲たちもこちらの心情とのシンクロを高めてきます。どちらも非常にピアノが印象的な楽曲ですが、演奏される機会は極めて少ない。それだけで演奏する価値がありますが、個人的に好きな楽曲なこともあり、まだまだ完成度を高めたいと思わせてくれます。そしてピアノが効果的に使われているダンジョンということは、流れる戦闘曲もピアノを用いたものになります(サガフロ2のダンジョンと戦闘曲は、基本的に音色編成が統一されている)。すなわち、直ちに⑪につながります。

サガフロ2の楽曲はクセが強く、初めてプレイしたときに直ちに楽曲の良さが理解できたものは決して多くなかったのですが、その中にあってFeldschlacht IIIは最初から魅力的と感じられる数少ない楽曲でした。既にバックサウンド付きのアレンジを発表していましたが、満を持してピアノ・ソロでの演奏ということになります。

比較的人気が高い(と思っている)サルゴンですが、Festungが好きという人はあまり居ないかもしれません。Weihalterと僅かにモティーフを共有するという音楽オタク的注目点はさておき、Festungの後半部分(三連符を伴って上昇する旋律)は妙に胸を打つのですよね。キラー・チューンであるFeldschlacht IVを目立つ形で始めることなく、シームレスにつなげてしまうのがいかにも私らしいところですが、IIIを単体で取り上げたこともあり、こちらはあまり強調しない取り上げ方にしてみました。サルゴン関連はまだまだ魅力的な楽曲があり、機会があればもう少し掘り下げたいところです。

デーヴィド編は一見してシーンが分かりにくいかもしれませんが、Schlachtenlenkerは「ハン・ノヴァの戦い」で父チャールズ敗北の報を受け取るシーン。「カンタールの死」でも使われている曲ですが、あえてこちら側で取り上げました。実はこの曲で注目すべきポイントは、終結部にAussenweltのモティーフが現れる点。最初に述べたようにストーリーの「外側」にあるはずのモティーフがここで現れるというのは、描かれている一つの歴史が終わりつつある、内から外に抜け出ていく過程にあるということを暗示しているかどうかは、何とも言えないところですが。
Rosenkranzは「サウスマウンドトップの戦い」後の演説シーン。グリューゲルのBotschaftと同じ曲ですが、前者はレガート、後者は歯切れの良い楽曲。Rosenkranzでありながら、僅かに歯切れ良さも追加してみました。ノンレガートの終わり方は言わずもがな、SF2からの着想。

Ovationはジニーのテーマといって差し支えないでしょう。重厚な楽曲が多いサガフロ2楽曲群において、突き抜けて明るい気分にさせてくれるほぼ唯一の楽曲といえるかもしれません。BGMとしては騒々しいほどの音数ですが、ストーリーのなかでは救いのような存在として聞けるから不思議です。奔放なジニーのキャラクターあってのものでしょう。
Elfenköniginも原曲・SF2ともピアノ・ソロ版が既に存在していますが、いずれもイントロの不協和音がノンレガートであり、特にSF2では極端なまでに乾いた音で演奏されているため、ペダルを使って豊かな響きにしてみました。豊かと書きましたが、この曲の場合は不協和音が減衰せずに伸びていくということで、不穏感はむしろ高まるのですが。繰り返し後、ソステヌート・ペダル(真ん中のペダル)を使ってWet音とDry音を離散的に混合させ、ますます独特な雰囲気を高めていきます。せっかくハンマーが見える絵面にしていますので、部分的な音だけが持ち上げられたままになっているところを注視してください。

Manifestは氷のメガリスでも流れますが、やはり最後のメガリスの印象が強いでしょう。中間部ではペダルの踏み替え音を強調して不安感を高める試み。最後は低音をペダルで伸ばしたまま、左右の手を交差して演奏。

Nachtigallはラストバトル前のシーンが非常に印象的で、一方でエンディングでも流れるのですよね。ストーリー上で重要なシーンは後者だと思いますが、この穏やかな楽曲がエッグ出現により中断され直ちにMissgestaltになだれ込む流れこそ肝要でしょうから、この並びを崩すことはいつもしていません。ただ、今回はNachtigallを少し長めに弾いた点が特徴的です。
Todesengelで最も激しく盛り上がる箇所のバス音はFなのですが、以前の演奏会ではGの音で奏していました。勢いこそ当初版の方が上ですが、今回和声面で原曲に寄せた演奏がようやくできたかなと思っています。PostludiumではSchlachtenlenkerに続いてAussenweltのモティーフが現れ、楽曲と物語を同時に閉じます。

セットリスト

  • タイトル/シナリオ選択

    • Vorspiel

    • Außenwelt

  • ヴェスティア(ウィルの旅立ち)/野戦1

    • Roman

    • Feldschlacht I

    • Freundenbezeigung

  • ギュスターヴ12歳/ギュスターヴと鍛冶屋

    • Thema

    • Variation

  • ヤーデの洞窟(ギュスターヴ15歳/病床の母)

    • Abweichung

    • Einsamkeit

  • テルム/夜の街/グラン・ヴァレ

    • Dithyrambus

    • Zauberreich

    • Zufall

  • エッグ感知

    • Verborgenheit

  • 兄弟再会

    • Reminiszenz

    • Erfolg

  • ファイアブランドの悲劇

    • Hauptmann

    • Weihaltar

  • 樹海

    • Wasserjungfer

  • 化石洞窟(ミスティの企み)/虫のメガリス

    • Zaubermärchen

    • Trotzkopf

  • 野戦3

    • Feldschlacht III

  • 石切場跡(エーデルリッター)/野戦4

    • Festung

    • Feldschlacht IV

  • デーヴィド(ハン・ノヴァ/サウスマウンドトップの戦い)

    • Schlachtenlenker

    • Rosenkranz

  • ノースゲート(ジニーの旅立ち)/連続戦闘メニュー

    • Ovation

    • Elfenkönigin

  • 最後のメガリス

    • Manifest

  • エッグ戦/スタッフロール

    • Nachtigall

    • Mißgestalt

    • Todesengel

    • Postludium


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