![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/44614475/rectangle_large_type_2_965091aa3d142352d36ce43606490798.png?width=800)
バーチャル建築コンサルタントが、密閉空間を考察する~感染リスクを減らすには~
Noteをご覧の皆さん、こんにちは!
バーチャル建築コンサルタントの住場みやこです!
今回は、密閉空間を防ぐ建物の換気について書いていこうと思います。
というのも、新型コロナウイルス感染症の対策として、よく換気だの密だのと騒がれていて情報が溢れかえっており、真偽が良く分からないものも多いので、建築に関する部分で情報を整理し、本当に重要なことは何かを考察していこうと考えたからです。
特に、流行語大賞にもなりました「3密」のうちの「密閉」について、建築的にどのような状態を指すのか、どうすれば「密閉」かどうかを判断できるのか、といった具体的な内容について報道されるケースはほとんどなかったように思います。
なお、この記事の内容については、全て「新型コロナウイルス感染対策としての空調設備を中心とした設備の運用について(改訂二版)」(公益社団法人 空気調和・衛生工学会)(以下、運用)に基づいて書いていきますので、詳細が知りたい方は以下のアドレスを参照してください。
http://www.shasej.org/recommendation/covid-19/2020.09.07%20covid19%20kaitei.pdf
さらに、「商業施設・事務所に関係する皆様へ」(公益社団法人 空気調和・衛生工学会)として、商業施設等を利用する一般の方向けの情報を取りまとめて公表しています。こちらの方が簡潔で分かり易くまとめられていますので、より詳しく知りたい方はそちらもご確認ください。現時点では最新の知見が、こちらにまとめられています。
http://www.shasej.org/oshirase/2012/2020.12.09%20syougyo.pdf
なお、以下の情報はあくまで私個人の見解・考察ですし、新型コロナウイルスに関する知見は日々変化していますので、古い情報や誤った情報となっている場合があります。その際はお知らせ頂ければありがたいです。
「密閉」とは
最初に、密閉空間とは何を指すかについて説明します。正式には、「換気の悪い密閉空間」といい、具体的には一人当たり30m3 /hの換気量が確保されていない空間、がこれに当たるとされています。
これは、人間が1人当たり1時間に排出するCO2の量が根拠となっていて、通常1人当たり30m3 /hの汚れた空気を排出すると想定して、この空気を入れ替えて新しい空気にすれば換気が十分にされている、と考えたものです。
一人当たり30m3 /hのCO2を排出する、といってもピンと来ないと思います。具体例を挙げると、「1人が7.5帖の部屋にいる場合に、1時間で部屋の空気全体が呼気でいっぱいになる」、と考えられますので、「1人当たり1時間に1回、7.5帖の広さ分の空気を新しい空気に換気する」これが出来れば「換気の悪い密閉空間」には該当しないと言われています。
ただし、あくまで換気量の確保することで感染リスクを低減できるものであり、換気量を確保していれば100%感染を防げるものではありませんので、その点ご理解ください。
それではこの例をもとに、これから建物の換気について、密閉かどうかを考察していきます。
CASE1-1 ワンルームマンション
まず、もっとも単純なワンルームマンションを想定してみます。洋室8帖+キッチン+ユニットバスのよくある間取りです。
面積が25㎡、天井高さを2.4mと想定すると、空気の体積は25×2.4=60m3 となりますから、このマンションに1人でいる場合1時間に30m3の換気が必要なので、必要換気回数(1時間当たり部屋全体の空気が何回入れ替わるかを示した数値)は0.5回/hとなります。
2003年(平成15年)7月からは、24時間換気が義務付けられていて、換気回数を0.5回/hとなるように換気扇を設置することになっています。2003年7月以降に建てられたマンションであれば、特に窓を開けたりしなくても24時間換気で十分に必要な換気回数を満足でき、密閉にはあたらないと考えられます。
CASE1-2 一戸建ての住宅
次に戸建て住宅の、LDKについて想定してみます。16帖のLDKで、家族4人が食事をしているとしましょう。
CASE1-1と同じように計算していくと、面積26.5㎡×天井高さ2.4m=空気の体積63.6m3となります。
ここで、家族4人の場合必要な換気量は30×4=120m3となりますので、換気回数120÷63.6=1.89回/hとなり、24時間換気では0.5回/hしか換気量を確保できませんので、換気量が足りません。
つまり、この空間に4人いると「密閉」状態にあると言えます。
ですが、LDKであればレンジフードの換気扇があります。台所の換気扇は、機種にもよりますがおよそ400m3/h程度の能力がありますから、1時間のうち20分程度換気扇を付けることによって十分な換気量を確保できます。
CASE2 オフィス
住宅に続いて、次はオフィスを見てみましょう。ここで注意したいのが、住宅以外の必要な24時間換気量は3.3時間に1回の換気量となっていて、住宅よりもさらに換気量は低いことです。
この場合、例えば8m四方のオフィスの一室に6人いた場合、面積64㎡×天井高さ2.7m=172.8m3、これに対し6人で必要な換気量は30m3×6=180m3となり、換気回数172.8÷180=0.96回/hを確保できない場合「密閉」となります。
ただし、オフィスビルの場合であれば、建物全体で換気・冷暖房をまとめて行っている「中央空調方式」となっていることが多いと思いますので、その場合は十分な換気量を確保できていると考えられますが、建物が古い場合は室内に換気扇が付いていない場合もありますので、その場合は窓を開けて換気しなければ有効に換気されていないことになります。
なお、運用の中で感染リスクを示す式が挙げられていて、感染リスクを示す確率を決定する要素は①感染者数、②感染者が発生させる飛沫量、③非感染者の呼吸量、④滞在時間、⑤換気量の5項目とされています。
Wells-Rileyモデル式
オフィスの滞在時間は一般的にかなり長く、有効に換気がされていない場合は感染リスクが高まりやすい環境にあるといえます。
建物が適切な換気が出来ているかどうかを確認し、建物によってそれぞれ適切な換気をすることが、リスクを減らすことにつながります。
CASE3 飲食店
さてここからは、いろいろと槍玉に挙げられ、コロナ禍にあっては高リスクのレッテルを貼られてしまった飲食店について考察していきます。
飲食店は住宅やオフィスと違い、業種で必要となる設備が大きく違ってくるので、面積と人数だけで検討できないため、業種ごとに細かく分けて考察することにします。
CASE3-1 焼肉店
コロナ禍の中にあっても、比較的ダメージが小さいイメージの焼肉店ですが、よく「換気が十分にされていて安全」と言われています。業務用メーカーではこんな感じで、換気量をアピールしていますが、本当でしょうか。
結論から言うと、本当と考えられます。1テーブルだけで見ても、換気量はおおよそ400m3/hですから、1テーブル10人を超える人数で密集しない限り必要な換気量は満たしていると言えます。
ただし、ここで比較されている「飲食店」がどのようなジャンルかが分からないので、他の飲食店との比較というよりは、焼肉店の換気設備の性能と、加えて重要なのがテーブルごとに換気されている、という点を考慮したうえで、安全性は高いと判断できます。
Figure. Sketch showing arrangement of restaurant tables and air conditioning airflow at site of outbreak of 2019 novel coronavirus disease, Guangzhou, China, 2020. Red circles indicate seating of future case-patients; yellow-filled red circle indicates index case-patient.
上の図は、クラスターが発生したレストランで、エアコンによって店の奥側にウイルスが飛散し、結果としてクラスター発生の原因となったことを示す研究結果です。これによると、感染者A1のテーブル以外にも、エアコンの気流によってウイルスが飛散し、他のテーブルの利用者に感染したことが分かります。
この研究が示唆しているのは、通常の生活では空気感染しないと考えられるものの、循環する気流によって長時間ウイルス汚染された空気に触れ続けた場合、感染する恐れがあるということです。
この点についてはまだ十分な知見が得られていないのですが、このような危険性もあることを知っていただければと思います。
エアコンの気流については、先に挙げた住宅やオフィスでも同様と考えられますので、エアコンの気流に長時間当たらないようテーブルや机等の配置も考えることが重要ではないか、と思います。
話が少しそれましたが、テーブルごとに換気できる焼肉店では、他のテーブルからの空気汚染リスクは低いと考えられ、飲食店の中では換気という観点においては安全性が高いと考えられるといえます。
CASE3-2 ラーメン・そば・うどん等の麺料理店
次に、ラーメン・そば・うどん等の麺料理店について考察してみます。私が調べた限り、これらの店でクラスターが発生した事例はなく、安全性が比較的高いのかどうか、どのような理由か考察してみます。
例として、カウンターのみの小さいラーメン店を考察します。
8席にスタッフ2人の計10人が居るとします。面積32㎡×天井高さ2.7m=86.4m3となり、3人以上居るだけで密と判断されてしまう空間です。
密度としては完全にアウトと考えられますが、ここで注目したいのが厨房の換気扇の性能です。
一般的な厨房用の換気扇を1,200m3/h程度の換気ができるように設計すると仮定すれば、必要な換気量30m3/h×10人=300m3/hの4倍、すなわち換気回数4回/hの性能があり、十分に換気されていると考えられます。
また、滞在時間が短く、会話しながら食べる時間が少ないと考えられますので、そういった点からも感染リスクは比較的低く抑えられているのではないでしょうか。
CASE3-3 カラオケ喫茶・スナック
次は、全国的にクラスター発生事例が多い、昼はカラオケ喫茶・夜はスナックとして営業している店について考察します。
まず換気量についてですが、このようにカラオケを提供する飲食店は、音漏れしないように密閉された空間になっています。そして、他の飲食店のような業務用の厨房設備など必要ないため、家庭用と同等のレンジフードしかない場合が多く、かつ室内の人数も多くなるため、十分な換気量が確保しにくいと考えられます。
例として、8m×8mの室内に、最大20人まで入れると仮定します。面積64㎡×天井高さ2.7m=172.8m3の容積に、20人入ると20人×30m3=600m3の換気量が必要となり、600÷172.8=3.47回/hの換気回数がないと「密閉」となってしまいます。
レンジフードの換気量400m3/hでも20人収容時の600m3/hには届きませんから、常時レンジフードで換気したとしても、とても換気量が足りないことが分かります。
そして、滞在時間も長いことに加えて、カラオケで発生する飛沫量も、普通に飲食をする他の飲食店と比べて多いと考えられます。
さらに、飲酒する場合も通常の飲食より飛沫発生量が多くなることが分かっています。
これらの要因から、カラオケ喫茶・スナック等については密閉空間になりやすく滞在時間が長い、飛沫量が多いといった、感染リスクが高い空間と考えられます。
なお、3パターンについて考察してみましたが、これらはあくまで通常想定される飲食店との比較として考えています。
まとめると、
通常想定される飲食店(定食屋、ファミレス等)→換気:普通、滞在時間:普通、飛沫量:普通
焼肉店→換気:特大、滞在時間:普通~長い、飛沫量:普通
ラーメン店等→換気:大、滞在時間:短い、飛沫量:少ない~普通
カラオケ喫茶・スナック等→換気:小、滞在時間:長い、飛沫量:多い
このように、飲食店を利用するリスクについて、換気量・滞在時間・飛沫量の3要素を見て考えると、店の安全度をイメージしやすいのではないでしょうか。
以上、換気について考察してきましたが、いままでに分かっている重要なポイントについてもまとめておきます。
①2020年12月時点の知見では、飛沫感染を防ぐことはもとより、密閉空間で長期間ウイルス汚染された空気に暴露した場合空気感染する可能性もあるため、換気量を確保することが重要。
②特に冬季、室内の温度と湿度を適切に保つことが必要。推奨は温度22℃かつ湿度40~60%。温度を上げすぎると、空気中に含むことができる水分量が大きくなり、相対湿度が低下する。(温度22℃→25℃にした場合、相対湿度は8%減少する)
③空気清浄機を使用する、エアコンフィルターを高性能なものにすることで、リスクが低減される。もちろん過信は禁物。
④空気が有効に換気されているかどうかを可視化するため、CO2濃度計を活用する。1000ppm以下で密閉されていない空間の目安となる。
⑤トイレのふたを閉めて流す、排水溝の封水をきちんと補充する。
建物に関しては、この5項目を押さえておけば感染リスクの低減につながると思います。
とにかく声を大にして言いたいのは、まず換気扇を付けろ!!!!!無ければ窓を開けろ!!!!!ということです。
冬季は寒いですから、長時間窓を開けることが難しいと思います。換気扇があれば、換気量を確保しつつも温度の下がり方は窓を開けるよりゆっくりです。是非活用しましょう!
あとがき
繰り返しになりますが、現時点における日本建築学会や空気調和・衛生工学会などの公式な提言や運用、また各種研究中の内容を基にして密閉空間における感染リスクを考察してきました。
いまだ研究中の内容であり、今後の研究によっては内容に不確実性を伴う可能性もあります。加えて、私個人の見解を含んでいますので、くれぐれも情報を鵜呑みにせず、リスクの判断の一要素ということにご留意いただければと思います。
まだまだ落ち着きが見られず、皆さん大変な状況にあられるかと思いますが、こうやって建物のリスクについても日々知見が得られています。
今一度身近な感染リスクとなりうる建物の換気についてまとめさせていただきました。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
以下宣伝
最近ようやく配信環境が整ってきましたので、不定期に21:00頃から作業の様子をyoutubeで配信しています!unityやblender、その他もろもろを練習しています。興味ある方は覗いてみてください!
あと、この記事のCASEについて、空気の流れを実際にシミュレーションしてみたいと考えてます。動画にしてyoutubeでアップしたいと思ってますので、興味がある方は是非チャンネル登録をお願いします!
Youtube:https://www.youtube.com/channel/UChIJi5CyhQ0oYD1_LsAY0Jg
Twitter:https://twitter.com/vtuber_ch385
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?