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さようならば、またいつか。
#テレ東ドラマシナリオ を書かないかと友人に誘われたので書いてみました。
【あらすじ】
「さようならば。また、明日」
さよならの語源では「さようならば」の後に言葉をつないだ。
さよならは決してそれっきりの別れの挨拶ではなく、この先も「縁を続けよう」という想いが込められている。
SNSのブロック機能が横行した2025年の政府は、人と人とのつながりを断ち切る「縁切り」をついに法律によって禁止した。
しかし裏では「そのさよなら、代行します」と名乗り、禁止された「縁切り」を秘密裏に実施する「さよならメッセンジャー」という組織が存在していた。
組織代表の縁渉(えにしわたる)は、婚約者と縁切りしたがる男の依頼を受ける。
【主要登場人物】
・縁渉(えにしわたる): 政府があえて秘密裏に設置している組織「さよならメッセンジャー」代表。
・新人(しんじん): 「さよならメッセンジャー」に配属された新人の女性国家公務員。さよならメッセンジャーという組織をおきながら、縁切り禁止法を制定したことに疑問を抱いている
【補足】
” ” … 紙などに記載された情報
【アバン】
”
「さようならば。また、明日」
大昔から、別れの挨拶の表現はいくつかあります。
・さようなら
・あばよ
・さらば
さよならは元々「さようならば」という接続詞で、その後に言葉をつないでいました。
あばよは元々「また逢はばや(また会おう)」という言葉が転じたという説があります。
別れの言葉は決してそれっきりの別れの挨拶ではなく、この先も「縁を続けよう」という想いが込められているのです。
別れの言葉を伝えることは、”縁”をつなぎ止め、未来につなげることにつながります。
もし、またいつかその人に会いたいと願うなら、略さずこう言ってください。
「さようならば、またいつか」
”
【シーン1】配属オリエンテーション
○会議室
レジメに目を通す新人
-レジメ-
”SNSで気軽に人とつながれるようになったこの国の人間関係は、悪化の一途をたどっている。
気軽につながれる一方で、すべてのSNSで他者をブロックし家族とも連絡を断ち切ることで自殺や孤独死する人が増加。遺体発見や遺族への連絡なども遅れ、社会問題となっている。
この状況を問題視した政府は2022年「縁切り禁止法」を制定した。”
〜オリエンテーション終了後〜
国家公務員上司A
「新人くん。明日から君は"さよなら代行"の職務についてもらう。だが、表向きは"SNS対策事務員"ということを忘れずに」
新人
「はい。承知しました」
国家公務員上司A
「2022年に制定された縁切り禁止法。運用されて3年の新しい法律だが、実際何人もこの法に触れて刑罰を受けている人がいる。君、納得いっていないだろう?」
新人
「……」
不服そうに目をそらす新人。
国家公務員上司A
「君に適正があると判断したのは、私ではない。恨むなら、さよならメッセンジャーの代表にいいたまえ。では、これで解散」
【シーン2】さよならメッセンジャーの仕事
○雑居ビル
翌日、新人は指定されたビルの軋むドアを開ける。
壁際のL字デスクに座っている縁渉。中肉中背。男性とも女性とも言えない中性的な顔立ち。さよなら代行時、対象者に脅威を与えないという点で効果がある。
全体的に黒の服でコーディネートされていて、立場上目立ちなくないのかもしれない。
恐る恐る進むと、縁渉が新人に気づき目を合わせる。
新人
「今日から入る新人の−−」
縁渉
「聞いてるよ。俺は縁渉(えにしわたる)。よろしく」
新人
「え、あ、はい」
名前を覚える気がないようで、新人は自己紹介する機会を失った。
『いや、私を推薦したのはこの男だったはずだ』と頭を巡らせる。
縁渉
「さっそくだが依頼が来ている。ここに所属しているのは僕と君の2人しかいない。仕事してもらうよ」
---
依頼は”婚約者との縁切り”という内容だった。
いつものことだと言わんばかりに淡々とメッセージの内容を読み上げる縁渉。対照的に、新人は表情を曇らせた。
新人
「理由までは細かく明記されていませんね。さよなら代行するにも、審査が必要と聞きました」
縁渉
「一方的に縁切り行為はできない。まずは依頼者との面談。そして対象者から承諾書をもらう。それで成立」
新人
「面談ですか。おおよその予想はつきますけどね。法を犯してまで縁を切りたい、となれば……。自身の余命宣告、あるいは人生設計変更……とか?」
縁渉は新人の推理に対して何も反応をみせない。新人の独り言と化した。
縁渉
「そろそろ来るぞ。もうアポは取ってある」
新人
「え!?今からですか?この汚い部屋に……あっ、えっとなんでもないです」
縁渉
「……。この国じゃ縁切りはもう3年も前から犯罪だ。外でこんな話できるわけないだろう」
新人
「確かに……。わかりました、急いで準備します」
【シーン3】縁切りの重さ
○雑居ビル パーティションで区切られた会議室
到着した依頼者は男性。17時頃、スーツ姿でやってきた。
仕事の合間なのか、ネクタイもしっかり締めて身なりが整っている。
新人は3名分の水(ペットボトル)を机に置く。
依頼者による婚約者とのエピソードを聞いた。
〜1時間後〜
依頼者
「あの人は本当にいい人で。僕にはもったいない。ずっと、幸せな家庭を持ちたいって言ってたんです」
しん、とする会議室。依頼者にはのっぴきならない事情がありそうだと予感する。
しかし、新人にはどうしてもわからないことがあった。
新人
「では、なぜ縁切りを?」
ぴくりと依頼者の眉が反応する。
言うのを躊躇っているようだったが、縁渉と新人の顔を交互に見て『ここでは言わなければ依頼は実行できないよな』と思い直す。
依頼者
「この間、健康診断を受けたんです。結婚前にと。……僕の不妊が判明しました。でも、彼女は……子供を欲しがっている」
婚約者との別れ希望は、自身の余命や人生設計の話だろうと思っていた新人は動揺した。
余命どころか目立った病気はお互い持っていないらしい。ということは実生活は問題ないということになる。
依頼者
「意外とね。多いみたいですよ、こういうのは。それこそSNSで探せばいくらでも同じ人を見つけることができます」
新人
「誰が悪いわけでもない。なのに、ここで終わりにしてしまうんですか?」
依頼者
「そう。悪いとかじゃないんです。でもね、僕にも彼女にも、この先長い長い未来がある」
新人
「未来?その未来は、これから2人でつくるんじゃないんですか」
だんだん声に感情が乗る新人。
依頼者
「その道もあるかもしれない。けれど、もし間違えたら取り返しがつかない。この国ではもう、離縁は重罪です。紙一枚役所に出すだけで別れることができた時代じゃないんです」
依頼者は組んだ両手を額に当てた。苦しそうに声を絞る。
新人
「だから、リスクがない今のうちにと?」
依頼者
「彼女にもバツはつきませんしね。それに、あなた方に頼めば”最初からなかったこと”になると聞きました」
縁渉は表情を変えず、ずっと黙って話を聞いている。
一方の新人は『”最初からなかったこと”になる』という発言に血が上る。
新人
「さよならメッセンジャーの”縁切り”の実態は”出会いをなかったことにする”というわけではなく、”出会った形跡を表側から削除し、国から追跡できなくする”というだけです。もし縁切りを実行しても、あなたから彼女の記憶は消えることはないんですよ?」
依頼者
「ええ。知ってます。それもわかったつもりで、ここに。たとえ縁切りが犯罪でも……。それでもね。僕と彼女が出会ったこと、別れること、それが罪にならない……悪いことじゃなかったんだって言えることが大切なんです」
依頼者の声は涙ぐんで震えていた。新人も、それ以上を言うことはできなかった。
【シーン4】さよならの意味
○雑居ビル
面会は終了。縁渉は縁切り実施の判定を出した。実行準備に移ろうと書類を揃え始める。
納得が行かず、食い止めようと説得を試みる新人。
新人
「どうしてそこまでするんでしょうか。わざわざ縁を切らなくとも、無言で立ち去ればいい。そうすれば法律にも違反しませんよ」
縁渉は手を止める。立ち上がって、新人としっかり目を合わせた。
縁渉
「さよならはね、もともと今生の別れを意味するんじゃないって、知ってるか」
新人
「それはどういう……」
新人が戸惑うと、また縁渉は目を合わせず手を動かし始めた。
縁渉
「何にせよ多かれ少なかれ、人には別れが来る」
新人
「でも……。彼らは健康上問題はなかった。それなのに今、さよならを言わなければならないんですか?」
縁渉
「今の日本の法律では、親族になった後の縁切りはより重い刑罰を受ける。それは君自身がよくわかっているはずだが?」
新人
「っ……そういうことじゃなくて……それはそうですけど……」
新人は結局、縁渉の言葉の意味と依頼者の行動を理解することができなかった。
【シーン5】さよならの承諾
○パーティションが多めのカフェ。他の客の会話は聞こえない
依頼者が指定した場所に対象者を呼び出してもらった。
「雑居ビルでしかできないんじゃなかったんですか?」「対象者に怪しまれず会おうというときに、あんなビルに呼び出すやつがいるか」というやりとりを済ませる。
縁渉と新人は時間より少し遅れてそのカフェを訪れた。
対象者
「あなたは……?」
縁渉
「申し遅れました。さよならメッセンジャー代表の縁渉です」
新人
「新人の−−」
縁渉
「驚かないのですね」
新人が名乗ろうとしたが、遮るように口を開く。
対象者
「ええ。なんとなく、そんな気はしてました。あなたのような存在も都市伝説程度には。でも彼の気持ちを、私は結局わかってあげられなかったんですね」
新人
「依頼者からの依頼内容は、あなたとの縁切りです。理由は……」
対象者
「理由は、私もわかっています」
縁渉
「この縁切りは一方的にはできない規則です。対象者であるあなたからの承諾書が必要です。もし、拒否するならおっしゃってください」
対象者は承諾書をざっと見る。
対象者
「いえ……承諾します」
バンと机を叩くようにして椅子から立ち上がる新人。大きな音が出るも気にしない。
新人
「どうして!?拒否すれば、まだ道はあるかも知れないのに……」
対象者
「……」
新人
「私の立場で言うのもおかしいですけど……。そんな簡単に、人との縁を切らないでください……」
涙を浮かべる新人。その鬼気迫る雰囲気に対象者は優しく笑う。
対象者
「あなたは強いのね」
新人
「え……?」
対象者
「きっと、彼も私も……これ以上一緒にいても苦しくなるだろうなって、心のどこかで思ってたんだ。だからあなたたちを見ても、私は驚かなかった。さっき自分でも気がついちゃったんだよ。私も、彼と同じ気持ちなんだって」
今にも壊れてしまいそうな微笑みをみせる。壊れないように、必死で取り繕っている。
新人
「私は……強くないです。ただ、”誰かと出会ったことそのものをなかったことにする”のが、寂しいと思っているだけです」
対象者
「不思議な人ですね。さよなら代行の人がそんなことをいうなんて」
縁渉
「こいつは先日配属されたばかりの新人でして。すみません、失礼なことを」
対象者
「でも、気持ちはわかります。彼と歩んだ時間は、私にとって一生忘れることはできないです。”なかったこと”にもしたくない」
新人
「だったら……!」
対象者
「きちんとお別れするから、忘れずに生きていけるんです。もう会えなくなるから、この心に刻むんです。”絶対に、幸せになるから”と」
対象者の強い瞳に、新人はあっけに取られてストンと椅子に腰を落とした。
『きちんとお別れするから、忘れずに生きていける』という言葉を聞いて、新人は縁渉の『さよならはね、もともと今生の別れを意味するんじゃないって、知ってるか』という言葉が自然頭をよぎった。
対象者はコーヒーを一度口につけ、縁渉を見た。
対象者
「執行猶予って、ありますか?」
縁渉
「執行という言葉は似合いません。これは刑罰ではないのですから。彼に会う時間を取ることは可能です」
対象者
「では、明日。一日だけ時間をください」
縁渉
「かしこまりました」
【シーン6】さよなら代行
○誰もいない公園
縁渉と新人が先に待っていた。対象者が来て挨拶する。
縁渉
「こんにちは」
対象者
「こんにちは」
対象者は覚悟が決まった顔をしていた。新人は相変わらず寂しそうな顔をしている。
対象者
「幸い、一緒に住んではいなかったので、こちらはもう準備完了です」
縁渉
「お気遣いありがとうございます」
一礼すると、縁渉は落ち着いた声で言った。
縁渉
「さよなら代行のための注意書き、読んでいただけてますか?」
対象者
「ええ。隅から隅まで。ふふ、とてもいい注意書きでした」
注意書き?と新人かしげる。注意書きを確認していないミスも自覚して、すこし気まずい顔をする。
縁渉
「では。依頼者の依頼に従い、さよならを代行します」
縁渉は目を閉じる。呼吸を整えると、不思議と彼の姿が依頼者の姿と重なって見えた。
縁渉・依頼者
「「さようなら。君は必ず幸せになれる。また、いつか」」
対象者
「はい。"さようならば、またいつか"」
【シーン7】さよならメッセンジャー
○雑居ビル
縁渉と新人が帰社。
新人
「さよならって、未来につなぐ言葉なんですね」
荷物を下ろすなり新人は言った。
縁渉
「注意書き、読んだのか」
新人
「”「さようならば。また、明日」
大昔から、別れの挨拶の表現はいくつかあります。
・さようなら
・あばよ
・さらば
さよならは元々「さようならば」という接続詞で、その後に言葉をつないでいました。
あばよは元々「また逢はばや(また会おう)」という言葉が転じたという説があります。
別れの言葉は決してそれっきりの別れの挨拶ではなく、この先も「縁を続けよう」という想いが込められているのです。
別れの言葉を伝えることは、”縁”をつなぎ止め、未来につなげることにつながります。
もし、またいつかその人に会いたいと願うなら、略さずこう言ってください。
「さようならば、またいつか」”」
縁渉は『音読しろとは言ってないぞ』とため息をついた。
縁渉
「さようならば、は接続詞。そのあとに続く言葉が本命だ」
新人
「あの注意書き、いつも入れているんですか?」
縁渉
「ああ。あれがないと、俺たちは代行業として成立しない」
新人
「どういうことです?」
縁渉
「”出会った形跡を表側から削除し、国から追跡できなくする”と言っていただろう。あれは正確じゃない。正確には”本人たちは縁を切ったように感じている”だけだ」
新人
「え?ええ?でも、連絡先もSNSも遮断して住所を変えたらあっという間に罰せされるじゃないですか」
縁渉
「”さようならば、またいつか”。この言葉がそれを防いでいる」
新人
「なんっっですかそれ。いつか会う約束をしたことになるからOKてことですか?信じられない。明確に会う約束をしていない時点で絶対ムリじゃないですか。てか法律ガバガバすぎ」
急に早口で荒い言葉遣いになる新人に苦笑いを浮かべる縁渉。
縁渉
「縁を切るって、そんな簡単じゃないってことだ。たとえ法律でもね。君も、経験しただろう」
新人
「でもだからって……」
縁渉
「ルールの脇が甘いか?でもな、これがこの法の限界なんだよ」
新人
「……」
縁渉
「それに、”さよなら”を伝えられた人たちは、必ずまたどこかで会える」
新人
「さよならは、縁をつなぐ言葉だから?」
縁渉
「口に出せば耳に残って、心に残って、その人の人生に残る。その思いは、いつか形になって返ってくるものということだ。
君が最初に言ったとおり、無言で立ち去ることも出来るかもしれない。けれど、その人達はきっと本当に二度と会うことはないだろうね」
新人
「……」
『政府は。
そういう”本当に出会うことがなくなってしまう人たち”をなくしたかったんじゃないだろうか』と新人は思った。
『彼らはもしかしたら、お互いの気持ちの整理がついて、またどこかで出会うかも知れない。無言で立ち去らなかったからこそ、その確率はきっと上がる』と。
---
縁渉
「さて、初仕事お疲れ様。この仕事、嫌いならいつでもやめてくれて結構」
新人
「そうですか。じゃ、さよなら」
新人は即答した。縁渉も『いつものことだ』と言わんばかりに無表情で椅子に座る。
新人
「また明日もお願いしますね。縁さん」
縁渉
「は?」
新人
「さよならは接続詞、ですよね」
してやったり顔で縁渉を見る。やれやれと肩を竦める縁渉。
縁渉
「さようならば、また明日もよろしく頼むとしようか。新人くん」
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