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#20 ベンチャー投資で熱視線を集めるSPV

ベンチャーキャピタル投資の文脈で、SPVやSpecial Purpose Vehicle、サイドカーなどを最近少しずつ耳にするようになったのではないでしょうか。基本的にSPVは、1つの企業を「ポートフォリオ」とする投資ファンドであり、年々と注目を集めています。今日は、SPVとは何か、そしてなぜこれが人気を集めているのかを説明したいと思います。

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SPVとは?
SPV(Special Purpose Vehicle)とは、その名の通り、特別な目的のために設立された投資ビークルのことです。ここで「特別な目的」の意味をもう少し絞り込むと、特定の発行体の証券に投資するために資本をプールするために作られる投資ビークルです。SPVは不動産投資で最も広く使われていますが、ベンチャーキャピタル投資の世界でも活用されるようになってきています。

例えば、2015年にピンタレスト(Pinterest)が5億ドル(約500億円)を調達した際、VCのFirstMarkはこのラウンドに参加したいと考えていました。しかし、ファンドの規模が小さく、十分な金額の投資ができなかったため、彼らはSPVを通じて他の投資家から資金を集めるという契約をピンタレストと結ぶことになりました。その数日後、FirstMarkは、FirstMarkの投資家(LP)から2億ドル(約200億円)を調達し、自分のファンドからも少額の資金を入れることでそのディールを成立させることができました。

SPVを活用するベンチャーキャピタルファンドやLPが増えてきている中、ファンドマネジメントのサービスを提供するCartaやAssureは、彼ら独自のプラットフォームを通じて、SPVの設立、管理、清算をより簡単かつ安価で提供し、SPVの利用拡大をさらに後押ししています。

なぜSVPなのか?
1. より良い投資パフォーマンスを提供
プライベートマーケットの資産運用会社であるCapital Dynamics社の調査によると、SPVのような共同投資ファンドは、ブラインドファンド(複数の投資先企業を持つ典型的なファンド)よりもパフォーマンスが高いと言います。1998年から2016年の間に立ち上げられたすべてのファンドにおいて、共同投資ファンドの60%がブラインドファンドよりも高い内部収益率を実現しています。単純に考えれば、上記のピンタレストのケースで見たように、ベンチャーキャピタルファンドは、自分たちの投資家に対して当然悪いディールではなく、自分たちも一緒に投資したい良いディールをオファーします。

2. 小規模なベンチャーキャピタルファンドが増えている
この記事で紹介したように、ソロGP、ナノファンド、マイクロファンドなど、小規模なベンチャーキャピタルファンドが最近増えています。彼らは投資先からアロケーションは確保できるものの、投資できる十分な資金がないケースが多いです。スタートアップのバリュエーションが日々高くなってきている一方、ファンドの規模は小さいからです。ただ、彼らと彼らのLPを出資者としてSPVを設立し、スタートアップ企業に投資することで、アロケーションをフル活用することができます。また、良いディールに直接投資する機会を提供することで、LPとも良好な関係を築くこともできます。

3. SPVは、VCとLPの両方にとって、より安価で簡単である
・VCの観点:ブラインドファンドの場合、ファンドを組成するのに6ヶ月から2年かかるのが一般的ですが、SPVの組成までかかる日数の中央値はわずか26日という調査もあるほど、SPVはその期間を遥かに短くできます。また、前述したように、SPV用のサービス・プロバイダーが多く存在し、それらのサービスを利用することで、VCはブラインドファンドよりもはるかに安くSPVを設立することができます。

・LPの観点:一般的なVCの手数料体系は、運用報酬が2%、キャリーが20%ですが、SPVは運用報酬1%、キャリーが10%です。また、このビークルは単一のポートフォリオしか持たないため、ポートフォリオ構築において自由度がほぼないブラインドファンドに長期的にコミットする準備ができていないLPにとっては、コミットしやすいと言えます。

4. SPVは流動性の提供に利用できる
以前のいくつかの記事でも述べたように、スタートアップ企業が上場もしくはバイアウトするまでの期間が長くなるにつれ、そのスタートアップに長く投資をしている投資家や従業員から流動性に対する要求が高まっていきます。そこで、SPVを設立、既存投資家や従業員から株式を購入し、セカンダリーマーケットから新たな投資家を募ったりする、流動性イベントを作り、該当スタートアップに流動性を提供することもできます。

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日本でのSPVの活用はまだ米国ほど一般的ではないように感じます。もちろん、アメリカの市場とは異なる点もたくさんあります。例えば、日本ではIPOサイクルが非常に短いため、流動性イベントに対する需要は米国ほど強くありません。また、私がまだ調べていない規制の違いもあるかもしれません。いずれにしても、ベンチャーキャピタル市場が成熟し、ベンチャー投資自体がグローバル化していく中で、SPVを通じた共同投資の機会は、GPとLPの双方がより多様な投資戦略を構築する上で、日本でもより重要な役割を果たすようになると思います。

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References:
・Browse The Anatomy Of a Capital-Raising SPV - https://structured.assure.co/anatomy-of-an-spv  
・Why Co-investment Funds Outperform in Private Equity - https://www.institutionalinvestor.com/article/b1k7nr7rs0nwqy/Why-Co-investment-Funds-Outperform-in-Private-Equity
・Benchmarks: Demystifying VC co-investing with data from >5,000 SPVs - https://oper8r.substack.com/p/benchmarks-demystifying-vc-co-investing
・Small Funds and the Pro Rata Right - https://www.industryventures.com/small-funds-and-the-pro-rata-right/
・What is a special purpose vehicle (SPV)? - https://carta.com/blog/special-purpose-vehicle-spv/
・The Most Typical Holding in a Special Purpose Vehicle - https://www.investopedia.com/ask/answers/030515/what-most-typical-holding-spv.asp
・In Silicon Valley Frenzy, VCs Create New Inside Track - https://www.wsj.com/articles/in-silicon-valley-frenzy-vcs-create-new-inside-track-1427992176

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