#47 資金調達、高いバリュエーションと低いバリュエーション、どっちが良い？
あなたがスタートアップの創業者で、シードラウンドの資金調達をしていると仮定してみましょう。ある投資家はあなたの会社を10億円のバリュエーションがあると評価し、別の投資家は50億円のバリュエーションを評価しました。この二つのオプションの中、あなたはどちらのタームシートを選びますか？これは一見、簡単な質問に見えます。でも、50億円のタームシートを選択する前に、一度深呼吸をしてもう一度考えてみる必要があるかも知れません。ときには10億円バリュエーションのタームシートを選んだ方が賢明な場合があるのです。
ベンチャーキャピタルの仕組みを理解することはとても重要です。簡単に言えば、ベンチャーキャピタルはみんな100倍リターンを出すホームランを期待してスタートアップに投資する、というだけかもしれません。しかし、実際にはそれほど簡単ではありません。まず理解していただきたいのは、ベンチャーファンドのリターンの考え方です。ラウンドが早ければ早いほど、ベンチャーファンドが期待するリターンは高くなります。シード案件であればハイリスク・ハイリターンなのでより高いリターンを、後期ステージの案件であればローリスク・ローリターンなので比較的に低いリターンを期待します。例えば、シード案件であれば、30倍、40倍、あるいは100倍以上を期待することが普通です。
さて、先ほどの例に戻りますが、シードラウンドのバリュエーションが50億円のタームシートを受け取ったとしましょう。この場合、シードラウンドであるため、30倍、40倍、あるいは100倍でのリターンを期待されているわけで、あなたの会社は1,500、2,000、5,000億円の価値を持つ会社に成長する必要があるということになります。しかし、ここでは詳しい説明は割愛しますが、希薄化というものがあるので、100倍のリターンを得るためには、5,000億円以上の規模に成長する必要があります。
もうひとつ理解しておかなければならないのは、時間的制約です。VCファンドには、ファンドの「寿命」と「投資期間」という条項があります。一般的にVCファンドの寿命は10年です。そして、投資期間は、VCが投資を行う期間を規定するものです。通常は2～5年です。ですので、例えば、投資期間が3年で、寿命が10年のファンドがあったとする場合、そのファンドは最初の3年間ですべての初期投資を行い、残りの7年間で投資先企業が成長し、最終的にリターンが出るのを待ちます。
改めて最初のケースに戻りますが、VCファンドが投資期間の最終年である3年目にタームシートを提示したとします。この場合、そのVCファンドからすると7年以内にファンドをクローズする必要があるため、7年以内に5,000億円規模の企業に成長することが期待されているということになります。もし、あなたの会社がこれを達成できなければ、VCの視点では、あなたのスタートアップへの投資はファンドレベルでのホームランには見なされなくなる可能性もあります。
さらに、シードラウンドで50億円のバリュエーションで資金調達をした場合、シリーズAでさらに高いバリュエーションで資金調達をする必要が出てきます。そうじゃないと、市場にネガティブなシグナルを送ってしまうことになります。ですので、シリーズAではさらに高いバリュエーションで会社を評価してくれる投資家を見つけないといけなくなります。当然、高ければ高いほどその難易度は高くなります。この文脈から今年頭に４千億円以上のバリュエーションで資金調達をして一時的に注目を集めたクラブハウスが次のラウンドでそのようなバリュエーションが着く資金調達をするのか、とても気になるところです。
ここで私が言いたいのは常に10億円のバリュエーションのタームシートを選択べきだということではありません。しかし、バリュエーションが高いことは、その分期待値が高いことを意味していて、それに相応する結果を一定期間内に出さなければならないことになります。期待値が高ければ高いほど、それが達成できなかった時の失望も高くなります。ですので、最終的な決断を下す前に、一度深呼吸をしてもう一度冷静に考えてみましょう。場合によっては低いバリュエーションの方が良い時もあります。
References:
・Clubhouse closes an undisclosed $4B valuation Series C round, as tech giants’ clones circle - https://techcrunch.com/2021/04/19/clubhouse/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？