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#16 SpotifyがFinTech企業になる日

4月20日のAppleのオンラインイベントの中で、CEOのTim Cook氏がiTunes 4.9のポッドキャストの有料サブスクリプション機能を紹介しました。今は有料ポッドキャストをサブスクするためにはアプリの外で追加手順を実行する必要があり、少し面倒です。今後、ユーザーはiTunes上でコンテンツを購入する時のように有料ポッドキャストをサブスクできるようになります。同様にSpotifyでもクリエイターが有料ポッドキャストを展開できるようになります。この新しい機能は今週の公開に向けて、今年の2月にベータテストを開始しています。

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有料ポッドキャストはこれらの会社にとって新しい収入源となりますが、新たな収入源を作るのがこのような新しい機能を公開する主な理由であるとは思いません。Edison Researchによると、アメリカで毎週ポッドキャストを聞く人は6,800万人いるんだそうです。このリスナーたちの10%が一つの有料番組をサブスクし(当分実際の数字はこれよりも低いと思います)、月に500円、年に6,000円支払うと仮定した場合、全体のマーケットサイズ408億円になります。 Appleは有料ポッドキャストのサブスク料金の30%を受け取るとしているので(Spotifyはまだ詳細を明かしてないですが、大体同じレベルになるでしょう)、マーケット全体を取ったとしたらAppleは122.4億円を稼ぐことになります。直近の四半期だけで約12兆円を稼いだアップルからすると、122.4億円は決して魅力的な収益源にはなりません。実際、今回のオンラインイベントの長さは61分だったのですが、有料ポッドキャストの発表が占めしたのはたった75秒にすぎません。

さらに、ユーザーからしてもポッドキャストにお金を使うという行為はまだ広く採用されているものではありません。いつかは定着していくと思いますが、ユーザーの行動変容が必要なため、定着するまでには時間がかかると思います。ですので、当分の間は本当に熱心な「ファン」だけが、彼らの好きな番組にだけにお金を払うことになるでしょう。私は自分のポッドキャスト番組も持っていて、かつ熱心なポッドキャストリスナーとして30以上の番組をサブスクしているのですが、それでも、お金を払ってサブスクしている番組は1つしかありません。

では、なぜAppleやSpotifyはこういう有料ポッドキャストの機能を紹介しているのでしょうか。その答えは、彼らはあらゆる手段を使ってクリエイターたちを惹きつけ、その関係性を維持したいからです。クリエイターがいなければ、良いコンテンツも生まれません。メディアに関しては、テクノロジーはあまり重要ではありません。コンテンツが面白くなければ、ユーザーは何があっても来てくれません。良いコンテンツは最も重要な必要条件であり、したがってクリエイターたちを惹きつける必要があるのです。

一旦多くのクリエイターたちと彼らが作る面白いコンテンツが豊富に集まれば、さまざまな方法で収益化できます。広告は、特にSpotifyにとって魅力的な収入源です。Spotifyの「Streaming Ad Insertion」ツールを使うと、広告をポッドキャストの再生中に動的に挿入できるなど、より多くのターゲティングが可能になります。また、実際に広告を聞いた人の年齢、性別、デバイスタイプなどのデータを測定することもできます。現在、Spotifyが制作している番組のみで利用できますが、Spotify上のすべてのポッドキャストで利用できるようになると、非常に強力な広告マシーンになります。これらを成し遂げるために同社は昨年、ポッドキャストコンテンツのターゲティングおよび測定ソリューションを提供すMegaphoneというスタートアップを1億9500万ドルで買収しました。実際、2020年第4四半期のポッドキャストの広告関連収益は前年比で100%増加しています。

前述したように、サブスクからの売り上げはAppleやSpotifyのような会社からすると大きなインパクトはありませんが、以前私の「Passion Economy、「私」をマネタイズする」の記事でも述べたように、これはクリエイターにとっては非常に重要な収入源になります。Substackを使うとブログの有料コンテンツを簡単に作成・管理できます。そして今サブスタックはMediumの墜落を尻目に、最もポピュラーなブログプラットフォームなっています。AppleやSpotifyは自分たちがお金を稼ぐためではなく、これはクリエイターたちに取って重要だからこそ必要な機能を提供しているのです。

有料サブスク以外にもクリエイターたちが必要とする機能やサービスはたくさんあります。そしてクリエイター・エコノミーが大きくなるにつれて、そのような機能やサービスを提供するスタートアップが急増してきています。例えば、Stirは、クリエイターがコラボレーター間で収益を分割できる機能など、クリエイターに特化した財務・ビジネスツールを提供します。Memberfulを使うと、クリエイターたちは複数のプラットフォームをまたがって自分たちのメンバーシップ管理を行うことができます。Creative Juiceはクリエイターたちが他のクリエイターにお金を投資できる投資ネットワークを提供します。その他、Oxygenは会社設立、請求書処理、保険などを銀行サービスと一緒に提供していて、クリエイターたちもターゲットユーザーとしています。

近年、Spotifyはポッドキャスト事業のために、Megaphone, Gimlet, Anchor, Parcastなどの企業を積極的に買収していて、今後もそのような買収は続くと思います。クリエイターたちに必要な機能を提供すべく、SpotifyがStirのようなFinTech企業を買収してFinTech会社になるのももしかしたらさほど遠い未来ではないかもしれません。#EveryCompanyIsFinTechCompany

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References:

1. Podcast Subscriptions vs. the App Store - https://stratechery.com/2021/podcast-subscriptions-vs-the-app-store/
2. Spotify to test paid podcast subscriptions this spring via new Anchor feature - https://techcrunch.com/2021/02/22/spotify-to-test-paid-podcast-subscriptions-this-spring-via-new-anchor-feature/
3. 2021 Podcast Stats & Facts (New Research From Apr 2021) - https://www.podcastinsights.com/podcast-statistics/
4. Apple FY 21 First Quarter Results - https://s2.q4cdn.com/470004039/files/doc_financials/2021/q1/FY21-Q1-Consolidated-Financial-Statements.pdf
5. Spotify made huge investments in podcasts — here’s how it plans to make them pay off - https://www.cnbc.com/2020/12/19/how-spotify-plans-to-make-money-from-podcasts.html
6. Spotify Technology S.A. Announces Financial Results for Fourth Quarter 2020 - https://www.businesswire.com/news/home/20210203005304/en/Spotify-7. Technology-S.A.-Announces-Financial-Results-for-Fourth-Quarter-2020
7. Fintech cozies up to the creator economy - https://a16z.com/2021/01/21/fintech-newsletter-january-2021/

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