Magic Leapの過去と未来を徹底解説-羊の皮を被ったオオカミの正体を暴く-
Volumetric Video/ホログラム専門家の小池です。
#平成最後のビックニュース として、日本XR業界に"非常に興味深い動き"がありあました。
株式会社NTTドコモが、Magic Leapへ$280M(約312億円)出資した事が明らかになったのです。
これは、日系企業がXR領域で行った投資で史上2番目の規模です。
1位はソフトバンクが2017年Improbable対して行った$502M(約567億円※当時のレート)です。
ネット上では”賛否”様々な意見に別れているようですが、過去の情報を整理して、Magic Leapの全貌に迫りたいと思います。
前半がまとめ。後半が解説です。
Magic Leapが過去に発表した動画
世界中のMagic Leapへの期待/イメージは2017年のMRデバイス"Maig Leap One"発表を境に大きく変わりました。
2014年に公開されたコンセプト動画
2015年に公開されたコンセプト動画
2017年 Magic Leap One 発表
2018年に公開された実機のデモ動画
世界中の人々が失望し、シリコンバレーの歴史上最悪の失態、ネクスト・セラノス(女性版ジョブズと期待されたエリザベス・ホームズの血液検査ベンチャー=大規模詐欺行為)と揶揄されました。
実際のMagic Leap
2014年試作機 (クジラの頃)
まだ頭に乗せられない超大型装置。
2015年試作機 (シューティングゲームの頃)
一応、頭に乗りました。でも、ダンボールって・・・超笑顔だけど(^^;
2013年の資料(Pitch Deck)
197ページもあります(>_<)
ほぼ"未来はこうなります"アピールです。(解説は後半へ)
Magic Leapの年表
2011年5月Magic Leap創業。
2011年7月 コミコンでARゲーム"The Hour Blue"発表。
2013年7月 国防総省から15万ドルの奨学金を受給。(解説は後半へ)
2013年12月 Magic Leap創業者のロ二ーが当時経営していた整形外科用ロボットベンチャー(2004年設立、2008年上場)MAKO Surgicalを$1.65B(約1740億円)で医療機器大手Strykerに売却。→Magic Leapに本腰を入れる。
2014年2月 シリーズAで$50M(約51億)調達(出資者不明)
2014年10月 シリーズBで$542M(約655億円)調達
※このラウンドに入れた8社が兎に角ヤバイ!!(解説は後半へ)
2016年2月 シリーズCで$793.5M(約897億円)調達 アリババ、JPモルガン、モルガン・スタンレーなど。
2017年10月 シリーズDで$502M(約572億円)調達 シンガポール政府系VCテマセク・ホールディングス、JPモルガン・チェースなど。
2017年12月 MRデバイスのイメージ図を初披露(←ようやく脱ステルス)
2018年2月 NBA、TNTと3wayパートナーシップ締結 (解説は後半へ)
2018年3月 シリーズDで$461M(約493億円)調達 欧州最大規模のメディアAxel Springer Digital Venturesとサウジアラビア政府系ファンドPIFから。
2018年7月 米通信大手のAT&Tが独占販売契約 (解説は後半へ)
2018年10月 初の自社カンファレンス開催。Magicverse構想発表(解説は後半へ)
2019年4月 ドコモから$280M(約312億円)調達
前代未聞のシリーズB
正体不明のステレス企業がシリーズAで$50Mを調達した時には、業界の一部では話題になるものの、"シリコンバレーでは良くある事"として扱われていました(^^;
しかし、8ヶ月後のシリーズBで自体は一変します。
あらゆる事が規格外だったのです。シリコンバレーでも前例が無いほど、このシリーズBは異常事態だったのです。
まず出資した8社を見ていきます。
Google: 出資と同時にサンダー・ピチャイがMagic Leap取締役員就任(彼は2015年8月〜Google最高経営責任者を務める超大物です)
Kleiner Perkins: シニアパートナー:アル・ゴア(アメリカ元副大統領,ノーベル平和賞)主な投資先Google, Facebook, Amazon, Twitter, Snapchat, Uber, Slack, AirBnB, Square, Spotifyなど(Exit実績 216社)
Andreessen Horowitz:創業者マーク・アンドリーセンはネットスケープコミュニケーションズ共同創業者(SSL,JavaScriptの開発とか),Facebook社外取締役。主な投資先Instagram, Github, Lyft(Exit実績 109社)
Qualcomm Ventures: 5Gモデムチップ製造最大手(Appleも頭上がりません)
Vulcan Capital: 創業者ポールアレンは、マイクロソフト共同創業者
Obvious Ventures: 共同創業者エヴァン・ウィリアムズはTwitter共同創業者、現Medium代表取締役(←No.1のブログ会社)
Legendary Entertainment: ハリウッドNo.1映画製作プロダクション
K2 Global: 創業者ミナル・ハサンは弁護士としてTwitter, Uber, Squareのファイナンスを担当。K2 Globalはシリコンバレーで女性が作った史上最大のVCで、シンガポールとシリコンバレーの架け橋的なポジションらしいです。
人、ネットワーク、政界へのコネクション、信頼そのすべてを手に入れたのです。ステレス状態で、テック(グーフル/マイクロソフト/ツイッター/フェイスブック)、5G、ハリウッド、メディア、アジアへの影響力と墨付きを得ているんです!!
この時、ロ二ーがMagic Leapに本腰を入れてたったの10ヶ月(笑)
そして、後続ラウンドで、中国、シンガポール、サウジアラビア、欧州、通信業界へとアプローチし、影響力を増して行きます。
なぜ巨額な資金が必要で、なぜここまで評価されるのか?
Q:何でそんなにお金が必要なのですか?
A:だってさ、全部やろうとしてるから!!
過去に行われたインタビューでロ二ーは"全部やろうとしている"と宣言しています(笑) 2013年の197ページに及ぶ資料にある"未来はこうなります"を、全部自社で実現しようとしているんです。
全部とは、下記の4つに集約できます。
①独自OSとアプリストア (XR版Windows/Android)
②ハードウェア(XR版Apple)
③Magicverse (XR版Google+Facebook)
④フル3Dホログラム配信 (XR版Youtube/Netflix)
①独自OSとアプリストア
Magic Leap Oneには独自OS:LuminOSが搭載されています。
個人的には、近い将来LuminOSをオープンにし、パソコンのWindows、スマホのAndroid、XRのLumin!!このポジションを狙ってくると踏んでいます。これがXR業界の大金鉱その①独自OSとアプリストアです。
また、マイクロソフトのホロレンズはウィンドウズを搭載しています。PC用のOSであり、XR専用OSではありません。LuminはXR専用OSです。
ウィンドウズモバイルで大ゴケした反省を活かしての、PC用OS搭載。
ここが吉とでるか凶と出るか?非常に興味深いですね!!
②ハードウェア
Magic Leapは元々"Ultra-high resolution scanning fiber display"=超高解像度光ファイバーディスプレイ/プロジェクター開発から始まっています。そして、このR&D費用を2013年にアメリカ国防総省から受給しています。
事実、マイクロソフトのホロレンズと比べると、発色に関しては圧倒的に綺麗ですし、関連する特許を"膨大な数"取得しています。
また、ホロレンズとの大きな違いに、コントローラーの有無がありますが、このコントローラー・操作に関する特許も多数取得しています。
ブランド価値はあるので、XR版iPhoneのポジションを全力で取りに行くでしょう。XR業界の大金鉱その②ハードウェアも狙えるんです!!
現在はどうしてもハードウェア開発が注目されますが、①でも少し触れた様に、今後数年でOSでのライセシングに切り替え、ディスプレイ部分に集中すると考えています。なぜなら、5G+Couldコンピューティングが普及しない限り、ハードがコンシューマー向けにバカ売れする事は有り得ません。
それまで暫く試作機としてR&Dを続ける程度でしょう。そして、実際に5G+Couldコンピューティングが普及した場合、XRデバイスは普段使いに遜色ない程オシャレになります!!
その場合、個性や選択肢が求められるので、1社で全てデザイン/製造するより、OSをオープンにした方が効率が良いのです。
③Magicverse
XRには業界特有の大金鉱がいくつか存在します。
AR業界のARクラウドとVR業界のMetaverseです。
ARクラウド="デジタルツイン"とも呼ばれ、現実世界をマッピングしデジタルで再現/再構築したものです。
ARは”ARクラウド上に記録し共有”されます。まさにARの根幹技術であり、"Google検索よりも価値がある”と言われる程、超ホットな領域です。
感覚としては土地→ネットのドメイン→ARクラウド的なイメージです。現実世界がサーバー化するって事ですね(笑)
Metaverseは、映画"レディ・プレイヤー1"の"オアシス(VR世界)"みたいなイメージです。VR空間で人々が集まるコミュニティ/ソーシャルみたいなところです。
Magic Leapは、このARクラウドとMetaverseを組み合わせて、超壮大なプラトフォームの構築を構想しています。
ここに、AT&Tとドコモが興味を惹かれたのだと推測しています。
Magic Leapが狙うARクラウド
世界中でLuminOSを搭載したグラスを付けた人々が街中に溢れると、世界中を絶えずスキャンし続けてくれるので、リアルタイムでデジタルツインが更新され続けます。(GoogleMapストリートビューの車が人のメガネになって、リアルタイムに最新のストリートビューが生成され続けるイメージです)
Magic Leapが狙うMetaverse
世界中の様々な情報をリアルタイムにARクラウドに反映させ、街全体/街自体をMetaverse化させる。現実とバーチャルの隔たりを無くし、融合させていくイメージだと思います。まさにMixed Realityですね。
本来、別々に構築されるサービスを同時に提供する!!恐らくこれがMagicverseです。
スマホ時代の"誰でも、いつでも、どこでもインターネットが利用できる"世界から、5Gによって、様々な物が常にインターネットに接続され、コントロールが自動化(IoT,自動運転など)される世界が実現すると。XRもそのレイヤーの1つであり、人々がウェアラブル(XR)によって常にネットに接続された状態=人々はリアルタイムにアップデート・コントロールされ続けるデジタルの一部となる。って感じなのかな?
この辺りは全然情報無いのですが、XR業界の大金鉱その③ARクラウド+Metaverseを狙っているのは間違いありません!!
一応、2018年10月にComputesを買収していたりします。世界初分散メッシュコンピューティングの提供を名乗っていたスタートアップです。
④フル3Dホログラム配信
ここでは単純に、XRの実写コンテンツ=ホログラムと認識してください。
(※一旦360°動画は無視してください)
2017年2月、TNTで放映するNBAの試合を2024年までに、リアルタイムでホログラムストリーミング配信すると発表しました。
ここで面白いのが、Magic Leapが制作したホログラムコンテンツにマイクロソフトが協力したと、最近"マイクロソフトから暴露"されました(笑)競合のはずなのに、何故協力したの?と思いませんか(^^;?
そこはさておき、ホログラム(XRの実写コンテンツ)は、5GxXR時代の次世代メディアとして大注目されています。
XR業界の大金鉱その④メディア&ゲームを自前で制作すると言う事です。ゲームに関しては、Fuzzycube Softwareを買収していたり、インディーズ開発を支援していたりします。
ちなみに、Magic Leapの共同設立者リチャードはハリウッドのトップVFX集団WETAの共同創業者です。
Magic Leapは2011年にARゲーム"The Hour Blue"を発表したり、ハリウッドNo1プロダクション"Legendary"がシリーズBで投資している通り、コンテンツ制作には並々ならぬ情熱がある会社なのです。(※ソフトバンクは当時Legendaryの株主だったんですよ。笑)
なにを隠そう、Magic Leapは、法人化前は"Magic Leap Studios"を名乗っていて、"The Hour Blue"の漫画を出版してたり、インディーズ音楽レーベル的な活動をしていたり(笑)
ちなみにロニーはボーカル兼ギター兼バスでレコーディングしています(笑)
元々はエンタメ企業で、実は全然テックじゃないんです(^^;
どうでしょう?謎めいたMagic Leapの全貌が少しづつ見えてきましたか?
まさにMagic LeapはMR"デバイス開発"企業という羊の皮を被ったオオカミだったのです!!
本当に全部を自前でやろうとしていて、恐ろしい程巨大な企業に成長するポテンシャルを秘めているんです!! 数年後には、GAMFAを超える可能性も十分にあるんですよ。
Magic Leapの特許戦略
下記は自身のNewsPicksのある記事へのコメントの抜粋です。
マジックリープはXR関連の特許を約600件取得しています。
(1位マイクロソフト約1400件、2位サムスン約1200件、3位ソニー約800件)
これは、グーグルやフェイスブック(Oculus)よりも遥かに多く、
現時点で6位です&絶賛増加中です!! そして、今回初めて公に独自OSの開発を認めました!!Magic Leap Oneは単なるプロトタイプであって、特許のライセシングとか、OS提供とかで儲けて行く可能性の方が高いのでは無いかと思っています。(2018.3.8)
※Magic Leapは2014年ごろ、AndroidOSで開発を進めていました。
Magic Leapは2010年末からXR関連の特許を申請し続け、それに基づいたR&Dをし、資金調達をしていたのです。
2014年はステレスで行動していましたが、調達額に見合った実力は兼ね備えていたと推測します。
参考までに最新情報も調べてみました。
申請数が2017年以降の伸び率がすごいです。
Magic Leap入ってないです(^^; レポート読んでないので、調べてまたの機会にでも書きます(笑)
Next Magic Leap現る?
2015年創業のスタートアップMojo Visionです。
2018年11月シリーズAで$50M
2019年3月シリーズBで$58M
ローンチ前のアーリーが半年間で$108M集めています。
まさに、Next Magic Leapと呼ぶに相応しい期待の新星が現れています!!
2019.4.29 Hiroki Koike.