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アーカイブできなくなってしまう前に、早めの決断を!―アーカイブの専門家に聞く!#4

こんにちは、バリュープラス アーカイヴ プロジェクトです。

私たちバリュープラスと同じメモリーテックグループの株式会社クープ(qooop)では、映像/音響の編集のほか、フィルムやビデオテープのアーカイブ業務にも取り組んでいます。

今回は株式会社クープ ネットメディアの山崎岳史さんに、“旧メディア”と呼ばれるビデオテープのアーカイブや、その活用についてお話を伺いました!

※所属・肩書は取材当時のものです。


―クープではどのようなアーカイブ業務に取り組まれていますか?

山崎岳史さん(以下:山崎) 前回は赤坂の事業所をメインに酒見のインタビューでしたが、私の方は飯倉の事業所に所属しております。こちらでは、「1インチ」とか「D2」、「3/4」などと呼ばれる“旧メディア”から、最近まで使われていた「HDCAM」や「HDCAM-SR」などのデジタルテープを扱っています。

私たちはテープと同じ状態をアーカイブする「マスターアーカイブ」と、配信用に作ったデータをすぐに配信先に納品できるようにアーカイブしておくという「配信用アーカイブ」の二本立てで作業しています。

―テープと同じ状態をアーカイブすることと、配信用にアーカイブしておくことは、どう違うのでしょうか?

山崎 私たちは、テープ冒頭に記録されているカラーバーから丸ごと一本ファイル化することを「マスターアーカイブ」と呼んでいます。
一方で「配信用アーカイブ」は、カラーバーやクレジットなど視聴者には見せない部分を排除して、配信サイトで見られる状態にしたものをアーカイブし、すぐに納品できる状態にしています。

―カラーバーやクレジットも含めた「マスターアーカイブ」をしておくことのメリットは何でしょうか?

山崎 将来的に、放送用のフォーマットで再納品する必要が生じたときに、テープと同じ内容であれば、そのまま納品できます。もし配信用のデータしか残していなければ、新たにクレジット(作品名や放送日、制作プロダクション名などを画像にしてテープ冒頭に記録したもの)やクッション(番組の冒頭やCMの前後のコマを3〜5秒間の静止画にすること)も追加しなくてはいけない。そのような手間を省くために「マスターアーカイブ」は有効です。

株式会社クープ ネットメディアの山崎岳史さん

―素材を預かって作業をするポストプロダクションの視点から、旧メディアの取り扱いにあたってどのような点に留意していますか?

山崎 古いテープだと、ゴミやカビが発生していることがあります。ゴミやカビが付着しているテープをそのままVTR(Video Tape Recorder)にかけると、磁気ヘッドにゴミやカビが付着してしまい、正しく情報が引き出せなくなってしまいます。ですので、古いテープは、デジタル化の前にクリーニングにかけることをお勧めしています。ただ、プロの視点で見てみないとカビているかどうかわからないと思いますので、まず我々がお預かりしてテープの状況を調べて、このままVTRにかけても大丈夫か、クリーニングした方が良いかという判断をしてから、作業に移るようにしています。
また、テープは巻かれた状態で長い期間保管されていると圧力がかかっているので、貼り付いてしまうということもあります。そうすると磁性体と呼ばれる信号を保持していた粒子が剥がれてしまうことがあります。そうなると正しいデータを取り出すことができないので、ノイズが出たり、再生できなくなったりします。そのような貼り付きも、一度クリーニングにかけて優しく剥がすことで未然に防ぐこともできます。

VTRと呼ばれる業務用のビデオデッキ

―旧作コンテンツを旧メディアで持っている企業は、アーカイブに取り組む際にどのようなことから始めれば良いでしょうか?

山崎 まず、「何がどれくらいあるのか」を把握することから始めておくのがいいと思います。
「何が」というのは、例えば「1インチのテープ」や「Digital βCAM」など、そしてそれが「本当のマスター」なのか、「コピーされたもの」なのか。それらがわかれば、「コピーしたものならアーカイブする必要はない」といったような整理ができます。
ただ、どれが“本当のマスター”かというのは難しくて、テープのラベルには「マスター」「マザー」と書いてあったとしても、後に差し替えの修正をしている可能性もありますし、「コピーマザー」「ダビングマザー」と呼ばれるものもあるので、日付を見て一番古いものが“本当のマスター”なのではないか、ということを調べて突き止めます。
また、デジタル化したときに特定の箇所にどうしてもノイズが発生してしまって、その修復が難しいとなったときに、コピーマザーの同じ箇所にノイズがなければ差し替えることもできます。そういった「予備」があるのかどうかも含めて、まずはリスト化をすることから始めるのが良いと思います。
また、リスト化の際に「記録表」をPDF化することをおすすめします。記録表からは、映像の内容だけではなく、作品尺や音声のトラック数、言語がオリジナルなのか吹き替え版なのかなど、多くの情報を吸い上げることができます。記録表が手元にないと、確認するためにその都度倉庫からテープを取り寄せることになってしまうので、リスト化するタイミングで記録票をPDF化すると後々便利です。

―デジタルの映像ファイルにアーカイブするに当たって、形式や解像度などのおすすめはありますか?

山崎 私の個人的な意見になりますが、解像度に関してはオリジナル、作られた当時と同じで残しておくのが一番良いと思います。
現在はHDや4Kが主流ですが、数年後にはそれらを8Kにアップコンバートする必要があるかもしれません。言い方は悪いですが、現在の技術で中途半端にアップコンバートしたものを残しておくよりは、将来的にその時代の最新の技術で必要な解像度に高画質化した方が、良い品質になると思います。現時点でHDの素材を4Kにしたものだけ残しておいたら、将来8Kにするときには二段階で変換をかけていることになります。それよりもオリジナルの状態から、一回で必要なものを作った方が画質やコストの面からも良いのではないかと思っています。

―高画質な映像データは、容量も大きくなってしまいますね。

山崎 コーデック(圧縮形式)については難しい問題ですね。良い状態で残しておきたいとなると、究極は「非圧縮」でとなってしまうのですが、ではその非圧縮のデータを使うのかというと、おそらく使用頻度は低いと思います。大事なのは「バランス」だと思いますね。
例えば、古い素材でSD解像度のものは、非圧縮のデータでもそこまで容量は大きくならないです。SDの非圧縮と、HDのApple Prores422HQの容量って、ほぼ一緒なんです。ですので、SDについては非圧縮がおすすめです。
ではHDはというと、これが非圧縮になると大幅にファイルサイズが大きくなってしまうので、あまりおすすめできないです。HDについては、Apple Prores422HQやProres4444などの高品質な圧縮をかけるのが良いのではないでしょうか。もちろん非圧縮でアーカイブすることもできますが、二次利用を考えると、データ量が大きくなりすぎて使いにくくなってしまうと思います。
良く誤解をされてる方が多いのですが、「HDCAM」や「HDCAM-SR」といったデジタルHDテープも実は圧縮して記録しています。ですのでむやみに「非圧縮」でアーカイブする事で無駄が発生しているとも考えられます。

―コンテンツを持っている会社が、アーカイブした素材をスムーズに活用するために、大事なことは何でしょうか?

山崎 作業するポストプロダクションと連携し、作成したファイルのネーミングルール(命名規則)を統一しておいた方が、将来的にデータを扱う担当者にとっても有効です。例えば、ネーミングルールには、もちろん作品名はファイル名に入れた方がいいですし、解像度(映像のサイズ)やフレームレート(1秒間のコマ数)などの情報もいいかもしれません。音声がオリジナル言語なのか吹き替えなのかもファイル名に入れるだけで一目瞭然なので、二次使用の際には便利だと思います。(ex. abcdef_EN-JA_51_HD_24.mov)
会社様によっては作品にアルファベットや連番数字などのIDが振られていて、そのIDをファイル名にしたいというところもありますが、これは便利なようで意外と不便なのです。そのIDを打ち込んだり探したりするのは人間なので、数字やアルファベットが並んでいるとけっこう見間違えたりします。作品名などにした方が、直感的に探しやすいですよね。
ユニークなところでは、ファイル名で並び替えると作品ごとにアイウエオ順に並べることができるように、ファイル名の最初に作品名の頭文字を「ひらがな」で振られている会社もありました。(ex. と_時をかける少年)

―一度決めたルールを途中で変更するのは大変なので、最初に慎重に検討した方がよさそうですね。

山崎 規格がSDだけの時代はフレームレートも一つだったのですが、HDになって59.94iや23.98pが出てきて、また映画では24Pもありますから、それらが混在してきたときにルールをどうするかは悩みます。
また、DCP(Digital Cinema Package)のルールは各社で統一されていて、解像度やフレームレート、音声の情報を記載しているので、その分ファイル名は長くなりますが、二次使用を想定すると参考になると思います。

―フォルダ分けについてはいかがでしょうか?

山崎 人間がファイルを探すためにはフォルダ分けをしておくと楽ですね。作品名を一番親となるフォルダにしておいて、その中に各バージョンのデータを入れていくのが良いと思います。
記録表や完成台本を同じフォルダにアーカイブしておくものメリットがありますが、ポストプロダクションに外注してLTO(Linear Tape Open)に保存する場合は、PDF化した資料のような小さなファイルを取り出すときも中一日くらい時間がかかったりするので、注意が必要です。PDFや資料はすぐに呼び出せるクラウドなどにも保存しておくのが良いと思います。

大容量のデータを長期保存できるLTO

山崎 古いメディアは対応しているVTRのメンテナンスが終了し、台数もとても少なくなっています。さらに、それを扱える技術者が高齢化して、作業を受けられるポストプロダクションが減ってきています。特にアナログのメディアに関しては早めに決断しないと、アーカイブしたくても出来ない、或いは莫大な費用がかかってしまう可能性もあります。
まずは、自社が権利を持っている作品が、どれくらいの分量あり、どれくらい古いメディアに保管されているか確認して、アーカイブするものとしないものを分けて、必要なものは早めに着手した方がいいと思います。
おそらく、コストは年々上がっていきますので。

―本日はありがとうございました。

取材・構成 バリュープラスアーカイヴプロジェクト


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