something about me 1-5
something about me カレーとシチュー
「星を眺めたりするの?」 「たまにね」
男の母は男が生まれてすぐに死んでしまった。
だから男には母の記憶はない。父と息子の二人暮らしはとても静かなものだった。家庭の静けさの反動なのか男は家から出るとよく話した。
そのせいでトラブルに関わることにもなったが
黙っているよりもマシだとも思っていた。
男は公立の高校を出るとすぐに会社に勤めた。
小さな印刷会社だったが、納品が早いと評判で食っていけるだけの給料はもらえたし、男はよく話したので営業成績も良くて、すぐに出世した。
35歳の時、営業先で事務をやっていた女と結婚した。外見にとりたてて目立つところはなかったが男の話をいつも楽しそうに聴いてくれた。
2年後に子供が生まれた。女の子だった。その前の年に父は死んでしまった。孫を見せたかったと男は思っていた。
娘が中学を卒業した。そのとき娘からもらった手紙を読んで男は泣いた。そのことを知られたくなかった。男は1人でベランダに出て星を眺めた。 父は無口だった。しかし知っておくべき事は全部教えてくれた。男の誕生日には不器用ながらにケーキを作ってくれた。そしてここぞとばかりにカレーとシチューを同時に机に並べたりもした。男は父との生活が好きだった。しかし父は母がいない事で男が寂しい思いをしていると思っていた。
ベランダで男は星のひとつに父の名前をつけてみたりした。ベランダに妻と娘が出てきていった。 「星を眺めたりするの?」
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