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タイコーヒーとカルチャーが無限に交わる寄合所 墨田区森下「COFFEE SESSION」

微笑みの国タイ。近年は若い世代が自国のカルチャーを再発見し、洗練された独創的なプロダクトを生み出していることをご存知だろうか。

そんなタイ、実はコーヒーの産地でもある。私自身、シングルオリジンコーヒーを愛飲してきたがタイ産の豆の経験は数えられるほどしかなかった。

今回は日本でも珍しいタイコーヒーを専門に扱い、タイのカルチャーと一見関連しそうにないものを掛け合わせるネオ・バンコクなコーヒースタンド「COFFEE SESSION」のオーナー・モリジ氏をご紹介する。

出していただいた水出しコーヒー。カップにはタイ語でメッセージが書かれている


- COFFEE SESSIONのコンセプトを教えてください。

『Thai Coffeeを通じて、想いのあるヒト・モノ・コトが繋がりセッションする』がコンセプトです。私がタイのコーヒー生産者と繋がりがあるので、現地の生産者と日本のロースター・バリスタや消費者を繋げていきたいです。

さらに大きな意味として『THAILAND COFFEE×???』で、クエスチョンに色んなヒト・モノ・コトを当てはめたイベントや企画をしています。音楽でセッションするように楽譜もなく、その場の雰囲気で出来上がっていく空気感が楽しいし、大切にしています。

- タイのコーヒー豆の特徴について教えてください。

私自身が扱う豆はwashedプロセスが多く、クリーンでクリアな味わいのものが多いです。個人的には各生産地のコーヒーの味が1番わかる気がしています。 もちろん。他の精選方法のコーヒーも好きです(笑)

Washedプロセス :コーヒーの精製方法の一つで、コーヒー果実を水洗いし果肉を取り除いてから乾燥させる手法

またタイのコーヒーカルチャーはアレンジ性と自由度が魅力です。私自身も影響を受けていて、オレンジジュースにエスプレッソの『オレンジエスプレッソ』やココナッツジュースにエスプレッソの『ココナッツエスプレッソ』などがタイでは定番であります。 そこに刺激を受けて日本の食材×タイの食材のメニューも考案中です。

お客さんのお子さんがスライムで作ってくれた商品サンプル(写真右)
タイ在住の日本人アーティストが制作したタイのお守りである「プラクルアン」を元ネタにした作品。コーヒーセッションオープン時に制作された非売品。

- お店の雰囲気がネオ・バンコクのようですよね。最近バンコクに行ってきましたが、ここまでの雰囲気のある場所はなかったです(笑)

意識しているので凄く嬉しいです。逆にバンコクの方がシックで洗練されていると思います(笑)ずっとチェンマイなどコーヒーにまつわる地方に通っていたので、都会のバンコクに憧れがあって、それが出ちゃってますね(笑)

内装は、たまたま知り合った内装屋さんに相談したら「是非やりましょう!」と言ってくれて。色んな現場で行き場のなくなった材料を使って、でもダサくならないように作ることができました。親バカですけど本当に良い店なんですよ。ただ自我が強すぎますよね(笑)

お客さんによって注目する場所が違うのも面白くて、一人の時にいろんな場所に座ってお客さんからの見え方を確かめています。

カウンター上にかけられたハシゴにはタイ人のお客さんのサインが書かれている(写真上)
扉に貼られたステッカーはライブハウスをイメージ。ここだけでも会話が生まれるのが楽しく、子供がアンパンマンシールを貼るのも全然OKとのこと。

- タイの都会に憧れを持つこと自体が面白いですね(笑)

バンコクのカッコいいカルチャーに触れたのは、実は最近なんです。バンコクで見たものを繋ぎ合わせた結果がこの店です。東京とは異なる一歩抜けたプロダクトや魅せ方がバンコクにはありますよね。バンコクの最先端のお店やプロダクトなど、日本人には作れない感性にインスパイアを受けています。

- ロゴも可愛いですよね。タイ語やドラゴンの意味を教えてください。

書かれているタイ語は「เชื่อม มิตร(チュアン・ミッ)」と書いてあるのですが、「友達を繋ぐ」という意味です。まさにやりたいことで、全てのセッションに共通しています。

龍はパヤナークというタイのお寺でよく装飾されている龍神(蛇神)が元ネタです。タイには曜日占いの文化があって、自分の生まれた曜日で色や守護動物が決まっているんです。タイの人はそれを凄く気にしていて、自分の曜日の色のポロシャツを着るのが正装なのですが、私は土曜日生まれの紫で、守護動物が蛇なんですよ。

- 片方の龍がレコードを持っていますが、それはどういった背景なんですか?

実家がレコード屋なんです。スーツを着ないお父さんで、ちょっと働いてからアメリカでずっと放浪するような自由人で、帰国してレコード屋を開いたんです。私の音楽のルーツは全てお父さんからですね。

オヤジバンドもやってて、友達もロン毛、アフロ、全身レザーみたいな。実家が毎週バンドの練習場所&飲みの場だったので、その辺にいないおじさん達に囲まれてました。間違えなく自分もそっちの道に近づいているので、人のこと言えないなと思いますが(笑)

思春期にはお父さんに認めてもらいたくて、当時流行っていた曲もディグって一緒に聴いていましたね。友達みたいな関係でした。

店内にはタイのレコードも並べられている。

- 最高の環境じゃないですか!羨ましいです。

ピアノをやっていて、オヤジバンドに時々入れてもらったことも「セッション」という店名のルーツになっています。COFFEE SESSIONの名前も20代の頃から温めていましたね。

- 背景が強すぎますね!そこからなぜタイなんですか?

本当にたまたまです。国際系に強い大学で、一年生の時にタイワークキャンプという電気もない山奥で、現地の大学生と教会を作るボランティアに参加して身近に感じたのがキッカケです。大学三年生の時に自分で研究テーマを決めて、タイでレポートを書けば半年分の単位がもらえるということで、再びタイに行きました。

- そうだったんですね!お父さんと繋がりのあることかと思いきや(笑)

お父さんも「タイ行きたい!」って言ってましたね(笑)国際系の学部だったので「人身売買」「エイズ」「ゴミ問題」「スラム」など暗いテーマが多かったんですが、私はそれが嫌で。当時スタバが好きで「フェアトレードコーヒー」の概念を知ったんです。身近で、暗くなくて、自分で貢献できる可能性があるテーマだと思って「コーヒー」を研究テーマに決めました。

- 実際行ってみていかがでしたか?

すごく楽しかったです。最初の一ヶ月は交換留学生としてチェンマイ大学に通いながら、人身売買など共通のフィールドワークに参加しました。二ヶ月目以降にそれぞれの研究テーマに沿った活動としてコーヒー関連のNGOに入りました。

タイのコーヒー生産地って、第二次世界大戦前までは芥子(アヘンの原料)を作っていた場所だったんです。大戦後に前国王が国策としてコーヒーの生産地に変えさせたんですが、生産者からすればアヘンより儲からないこともあり、私が行っていた当時はまだタイのコーヒーは盛り上がっていませんでした。

店内にディスプレイされている虎の置物。モリジ氏の干支が寅年だからだそう。

- そんな背景があったんですね。

でもフェアトレードとかどうでもよくなるぐらい、村の人たちが面白くて。ホームステイ先がカレン族の家族だったんですが、そこのお父さんがコーヒーの先生で各地の生産者に回るので、片っ端からついて行って。日本語はもちろん英語も、高齢者の方はタイ語も喋れないので、一緒にコーヒー作るぐらいしかやることがないんです(笑)作業しながらコーヒーのことを聞いていくうちに、彼らの生産者としてのプロの姿勢に惚れ込みました。

ただ収穫したコーヒーを本人達が飲んでいないことに矛盾を感じて。焙煎する前の生豆の状態をスタバなどに販売して、彼らはブレンディーのような甘い市販のコーヒーを飲んでいたんです。

- 現地に深く関わることでしか実感できないことですよね。

同じ釜の飯を食べると、どの村でも娘のように可愛がってくれるんです。この人達と継続的な関係を築くためにどうしたらよいかと考えた時に「嫁ぐ」か「仕事する」かの二択しかないなと考えたんです(笑)ただ、どんなに尊敬していても私はカレン族になれないことを痛感したので、日本人のアイデンティティを活かして関わっていくためにも、自分自身がコーヒーのプロにならないといけないと思ったんです。

- コーヒーの道は大学時代に決まっていたんですね。

そこから時間がかかりました。COFFEE SESSIONというテーマは決まっていたんですが、どのタイミングどう関わればいいかわからなくて。

とりあえず大手であるスターバックスに就職して四年ほど働きました。バリスタとしてプロになりたいとスタバを辞めたのですが、未経験を雇ってくれるところがなく、一年ぐらいバイトして過ごしました。

例えば、ボブ・マーリーの息子がやっているマーリーコーヒーのブログを書いたりしていたんですが、必ずボブ・マーリーの歌詞に絡めて、最後は「One Love」で締めないといけないみたいなルールがありました(笑)他にもイエメン専門のコーヒー豆を扱うMocha Bear Coffeeでも働いたりしましたね。

そのときに見つけたのがブルーボトルコーヒーの日本一号店の求人でした。ブランドを立ち上げる経験をしてみたかったので、ダメ元で応募したら受かったんです。

過去にコラボしたアイテムを紹介するモリジ氏

- ブルーボトルコーヒーのオープニングにいらっしゃったんですか!?オープン当初に行っているので会っているかもしれませんね。

そうかもしれませんね!そこからバリスタ人生が始まって、四~五年ぐらい働かせてもらいました。その間もプライベートではずっとタイに通っていました。実は大学卒業後、留学中のホームステイ先だったカレン族の家族と音信不通になってしまって。一年に一回、彼らを探しに行ってたんです。大学時代はFacebookもLINEもないので連絡手段もなく、Google mapもなかったので、連絡先も分からなければ、自分が大学時代にどの村に行っていたかわからなくなってしまったんです。

転機は2018年にブルーボトルコーヒーの近所にある、ARiSE COFFEEがタイのコーヒーフェスに日本代表として出店したことでした。私はもともとARiSE COFFEEの常連客で、オーナーの林さんには普段から「タイのコーヒーと関わっていきたい」という話をしていたこともあり、コーヒーフェスの参加が決まった際に「手伝いにこない?」と誘ってくれたんです。会場でもカレン族の家族のことを聞いてまわっていたら、奇跡的に「この生産者の村にピックにし行ったよ」という人が現れて。すぐに連絡をとってもらって、10年ぶりに再会できたんです。

- 行動し続けたからこそですね。

彼らも私が大学時代にコーヒー屋をやりたいと話していたことを覚えてくれていました。その時にはNGOからファミリービジネスとして独立していて、様々な農園を回り、焙煎して卸す事業を立ち上げていました。その話を聞いて私自身も独立を迷いましたが、ブルーボトルもちょうど楽しくなってきたタイミングだったこともあり、悩みました。

- 決断に迷うところですね。

そうなんですよ。どうしても再会したかった生産者にも彼らが連れて行ってくれました。生産者も覚えてくれていて、「以前からレベルアップした豆を日本でも取り扱ってほしい」と言われました。

また、留学中に関係性のあったアカ族の生産者にもどうしても再会したくて(笑)さすがにカレン族の時のようなミラクルは起きないだろうと思っていたんですが、アカ族のコーヒーを専門に扱うアカアマコーヒーの現地クルーと会う機会があって、その時にダメ元で聞いてみたら「待って。それ私のおばさん!」って(笑)

なんと彼らにも再会できたので、いよいよ理想的な仕入れ環境も整い、これは独立するしかないと思ったんですが、その前にARiSEにスタッフとして誘っていただいたこともあり、二年弱働いたうえで独立に至りました。

- 再会には運命的なものを感じますね。

独立してから三年間は間借りでした。というのも、タイコーヒーを自分が信頼のおけるバリスタに扱ってもらい、日本中どこでも飲めるようになる未来を目指しているので、自分の店舗を持つビジョンはなかったんです。

ただ、タイに行くと「お前の店はどこにあるの?」って聞かれるし、タイの生産者やバリスタが会いきて、ゲストバリスタとして店頭に立ってもらえたらお客さんにとってすごく良いことですし、生産者にとっても自分の作った豆を飲むお客さんの表情を見ることができるので、拠点は必要だなと。

それとタイから大量の豆が届くことも理由ですね(笑)カフェではなくスタンドにしているのも、自分の作業場が必要という理由です。また「街の寄合所」として、ふらっと来て、たわいもない会話をするような場所が理想だと思っています。

- そんなコーヒースタンドが近所にあれば最高ですよね。

私がカウンターの中にいてコーヒーを抽出している時に知らない人同士が勝手に会話し始める光景が一番好きですね。

- 将来的にはどうなっていたいですか?

想像がつかないですね。オープンしてから「なんでもっと早くやらなかったんだろ?」って、見えなかったことが具体化してくることが楽しいです。やりたいことが一つずつ掴める距離にあるなと感じていますし、年々面白い人に出会う率が高くなっています。

あと、お世話になった人への恩返しも考えてますが、とても返しきれないので、「コーヒーってもっと楽しくて自由でいいんだ」ってことを下の世代に伝えていきたいなとは思いますね。逆に下の世代から学ぶことも本当に多くて、刺激を受けますし尊敬しています。

- コーヒー業界への貢献も考えているんですね。

こういうコーヒーじゃないといけないって考えをお店側が持ってしまうのはもったい無いなと思います。お互い真面目にコーヒーに向き合っているバリスタ同士が、考えの違いが故に認め合えないのは悲しいですよね。

あと、若いオーナーが増えていることは素晴らしいことですが、バリスタはコーヒーがお客さんの手元に届くまでの工程を考えたときに、一番最後の美味しいポジションなので、生産地のことを説明できるなど最低限の知識は持っておいてほしいなと思います。学ぶ機会がないことも理由だと思うので、生産者と繋がっている自分だからこそできる、若いバリスタが学べる仕組みを作りたいとうっすら考えています。

- モリジさん自身が先輩方に恵まれてきたことも大きいですよね。

本当にそうです。寄合所の理想系はARiSEです。常連じゃない方から外国人まで巻き込んでしまうオーナーの林さんが作る空間は本当にすごい。林さんからの受け売りなんですが「自分のコレというものを極め続けなさい。オタクであり続けなさい。」「語れないものは着るな。」ということは守り続けて、店にあるものは全て語れますし、タイのものは何かしら身につけるようにしています。

- 最後にこれからいらっしゃるお客様へのメッセージをお願いします。

気軽に来てほしいですね。タイが好き、コーヒーが好きでなくとも寄合所として、ここに来れば何かあるかも?って感じでふらっと来てほしいです。


コーヒー セッション เชื่อม มิตร
東京都墨田区千歳3-7-12 八木ハイツ101
営業時間:日月休み
Instagram:https://www.instagram.com/coffee_session_/

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