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『最愛』 装丁・解説

ムルの解釈について

 本のことを話す前に、ムルをどういうふうに捉えてこの本を作ったのかのお話を少し…

 ムルについて考える時はいつも、モチーフとして「蝶」を思い浮かべます。理由は以下3点。

 ①蝶は幼虫から蛹という形の死をもって、成虫(蝶)へ生まれ直すこと
 ②Spring ephemeral という種があること
 ③ギリシャ語で、蝶と魂は同一の単語であること

 ①について
 真ムルが魂が砕けるという形の死をもって、今のムルと欠片ムルに生まれ直したことは蝶の成長過程を想起させる

 ②について
 Spring ephemeralとは長い年月の眠りを経て、春に目を覚ます生物のこと(ギフチョウ、カタクリなど)
 ムルにとっての春(=厄災の近づく日)に目を覚ました欠片ムルのイメージ
 またephemeralには「仮初の」という意味がある


綴じ方について

 「accordion spine」という綴じ方

 ・表紙から封筒、裏表紙までを繋ぐ蛇腹の背には「かぐや」という月のクレーター模様の紙を使用
 ・本そのもので、厄災で命を紡がれているムルを表現


本の形式について

・取るに足らない紙片や手紙のことをエフェメラ(ephemera)と言う
 ・先述のSpring ephemeralと掛けて、手紙(=エフェメラ)を束ねた形の本にしようと考えた

各話解説


表紙

使用紙:GAファイル 620kg チャコールグレー
・プリンターで印刷できる厚さでなかったため、タイトルは白インクのスタンプで

1枚目
・手紙であることを明示したくて入れたエピグラフ
・「俺」の伏線

2枚目
・文章中の「流星群」はヴィネイター流星群のこと
 →ヴィネイター流星群は厄災が接近を終え、遠ざかるときに現れる
・ムルは近づいてきた月でなく、遠ざかっていく月の引力に心臓ごと持っていかれるように恋をしたのではと思いこのように

3枚目
・「理知」と「才気」はムルの元ネタ「牡猫ムルの人生観」内の牡猫ムルの瞳の描写より採用

4枚目
・ムルのマナエリアでの過ごし方
・ムルが厄災を見つめるときの様子は以下を参考に

「この牡猫ムルは、しばしば夢みるような、うっとりした状態へ、要するに、あの眠りと眼ざめとの間の、奇妙な状態へ入り込んで行くんだよ。」

「牡猫ムルの人生観」 42p

5枚目
・魂が砕ける夜の話
・百人一首の「わが身ひとつの 秋にはあらねど」をベースに
・厄災はただムルひとりのために近づいてくる訳ではない
・それをわかっていてもなお、恋焦がれる様子を描く

6枚目
・ここで、「彼」と「俺」が指すものを明らかにする
 彼=真ムル(砕ける前のムル)、俺=欠片ムル
・真ムルが砕けた直後の絵にも、欠片ムルが生まれていく絵にも見えるように
・花は月見草
・ムルの魂が砕けた事実は、月(=最愛)がムルに干渉したことの証拠でもある
・「見つける」は「見て」というよりは「認識する」「干渉する」という意味で用いた

7枚目
・砕けたムルとはまた違った意味で「きみがぜんぶ」である欠片ムルを書きたかった
・欠片ムルにとっての月は創造主 そこへ向ける愛の形は少し宗教めくというか、ただ恋焦がれていたときとは一線を画す繋がりを得たからこその盲目さや熱心さがあるのではないかなと(言語化難しい……)
・そういう信仰的なほどの感情を描きたかったため、色や光のかんじに宗教画っぽさを出した

封筒
・ムルの欠片(=パープルサファイア)のカード
・「俺」=欠片ムルであったことを改めて示す
・エレベータームルは向こうの世界とこちらの世界の狭間にいたので、この欠片のムルも、もしかしたらこちらの世界に紛れ込んでいるかもしれない..という余地を残したかった 

裏表紙

・表紙の「最愛」の文字の反面に「Leubh」がくるように
・『Leubh』はloveやbelieveの由来となった原始インド・ヨーロッパ語
・ただ愛するだけでなく、愛の起源(宗教的な愛)に立ち戻るような、ムルの愛し方の変化を表したかった
・ふとなぞりたくなるような加工だなと前々から思っていたので、エンボス加工をした
・愛しいものに手を伸ばしたくなるという追体験ができるように

終わりに

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