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石田柊馬R.I.P川柳群作「NO KNIFE NO LIFE」

題「小町が行くぼくは一本の泡立つナイフ/石田柊馬」

はるか茜にうだるマチズモ/高澤聡美

―――「海馬万句合」第三回 ¹


題「ナイフくださいもうすぐワルツです/榊陽子」²

Cannot undo draw four times



題「ナイフの良心は発音しないk/白水ま衣」³

仕舞っても地底厭離のニューナレッジ



題「どんなに切れるナイフでも切れないこの深い川/西脇祥貴」

踏切になれたら川を浮かびたい

haunted by
階段になれたら虹を流れたい/平岡直子 ⁵



題「言語野にレターナイフをひからせる/上崎」

逆算で来て兆まれた文面へ



個人的な考えとして、短歌をナイフとするならば、川柳は吹き矢だと思っている。(中略)短歌を作るときは、どれくらいの速度でナイフを押し込むか、どうすればきれいな傷口になるか、みたいな気遣いが必要だし、川柳を作るときは、いかに正確に首元を狙えるか、つよいつよい毒を塗れているか、が重要になるような気がしている。

初谷むい「ときめきに死す!」、『ねむらない樹 vol.6』 ⁷

「着古した服に似ている神秘に出会う人よ スプーンとスプーンとナイフ/瀬戸夏子」

NO KNIFE, NO LIFE.
YES POISON, YES PRIZE.
OLD-FASHION, COLD PASSION.



題「人格のひとつペーパーナイフ手に/川合大祐」

両手の世界燃やされ線を手錠とすれば



題「女の歩幅割るケーキをピラミッドをナイフで/黒川排除」¹⁰

九龍城で負のVサイン引く七五三縄の綱



題「パンでナイフを切ってください/嘔吐彗星」¹¹

軸吟の中折れスタンディングスターベーション

haunted by
どらやきのかいわいなかだししちゅえいしょん/藤井皐 ¹²



題「当分は千のナイフを斥ける/ササキリユウイチ」¹³

いっせーの一遇千妻制の



題「話しかけんな遊具たちのアジール/高澤聡美」¹⁴

まばゆいぞとばかり私語のドップラー



しかし、もっと問題含みなのは、「第一句集と比較して、どんなところにそれが表れていますか」との荻原の質問に対する石田の返答である。

石田 第一句集は、いわゆるそこらへんのカルチャーセンターにお通いになっているおばちゃんが、その面白さに目覚めていろいろやった、第二句集は方向性が急速に作者に見えてきてまとまったといふうに見ました。彼女にとって、川柳が川柳であるための川柳性とはなんだというところにぶつかったんだと思います。(112)

座談会という場の限界があるのかもしれないが、これでは「どんなところに」という問いに答えられていない。なかはらが「どういう過程で」そこに辿り着いたかの、かなり大ざっぱな説明に終わっている。また、「川柳が川柳であるための川柳性」は石田の評論でよく使われるフレーズであるが、問いかけを放っている外部者に向けての批評の言葉とは言えないだろう。なかはらの句集が示す方向性とは何なのか、それが「川柳が川柳であるための川柳性」とどう切り結んでいるのか、座談会の初期の段階とはいえ、ここで語られるべきではなかったかと思う(また、これ以後でも十全な対応がなされているとは思えない)。

『s/c』、「現代川柳とは何か?―「なかはられいこと川柳の現在」を読む― 湊圭史」¹⁵
(強調引用者)

再聖域 趨っと躱し素で跋っし



題「水平線ですかナイフの傷ですか/石田柊馬」¹⁶

みすらない波も瞼もひられひか



R.I.P 石田柊馬 2023.6.11



引用元一覧

  1. 海馬 umiuma「「海馬万句合」第三回―選句結果(作者名あり)」より
    ③ 題「小町が行くぼくは一本の泡立つナイフ/石田柊馬」高澤聡美の秀句
    https://note.com/umiumasenryu/n/nd3cee788c9fa

  2. 小池正博編『はじめまして現代川柳』、書肆侃侃房、2020年、「榊陽子」、p246

  3. 白水ま衣「川柳13句 Twitter句会『さみしい夜の句会』投稿作品 【2022/9/19-9/25】」
    https://note.com/shirohzumai/n/nbc4a9b532da6

  4. 西脇祥貴「川柳連作‐Apple Venus」
    https://note.com/nyankichi4ever/n/n341d7bb0ec51

  5. 平岡直子『Ladies and』、左右社、2022年、p53

  6. 上崎「川柳十句『拝啓』」
    https://twitter.com/uesaki_sen/status/1658431958463168513?s=20

  7. 初谷むい「ときめきに死す!」、『ねむらない樹 vol.6』書肆侃侃房、2021年、p124-p125

  8. 瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end.』書肆侃侃房、2016年、p19

  9. 川合大祐「ホワイトスネイク 川柳70句 」
    https://note.com/16monkawai/n/ne0f0d8a4985b

  10. 黒川排除『二乗千年』、「2018-05-06」
    https://oldsoup.hatenablog.com/entry/2018/05/06/000000

  11. 川柳諸島がらぱごす2022年春号より嘔吐彗星「Power Reducer」
    https://note.com/senryugalapagos/n/nef43a71ed0b8

  12. 海馬 umiuma「「海馬万句合」第三回―選句結果(作者名あり)」より
    ④ 題「界」(川合大祐選)藤井皐の秀句
    https://note.com/umiumasenryu/n/nd3cee788c9fa

  13. ササキリユウイチ『飽くなき予報』、私家版、2023年、p147

  14. ラジオポトフの川柳ネットプリント『ラジオポトフ2022』より高澤聡美「ナイフ/少女」
    https://note.com/radio_potofu/n/n7e9928d5f857

  15. 『s/c』、「現代川柳とは何か?―「なかはられいこと川柳の現在」を読む― 湊圭史」
    https://sctanshi.wordpress.com/critici/ron2/

  16. 小池正博編『はじめまして現代川柳』、書肆侃侃房、2020年、「石田柊馬」、p16


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