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アシンメトリーの果てに・デビュー編

・毎週日曜日は総本山

小さい頃から、ほぼ毎週日曜日は父に連れられて
奈良県内某所にある、その宗教の総本山なる所へ
大阪から車で片道3時間位かけて明け方から林道を
ひたすらに走り走って抜けた集落みたいな所にある
そこによく行ったものだ。
俺が物心ついた時から割とそれが普通だったし、
周囲の友達との違いは把握しつつ、
年齢を経るにつれて友達づきあいや部活や受験
でその頻度が減っていったとしても、
確か高1の夏くらいまでは行っていた気がする。

建築関係や外装業、内装業、水道屋や電気屋や
ガス屋やその他土木工事にかかわる仕事の男性が
多かったから総本山の土地に関する全般に対して
管理を、その奥さん達や女性陣は園芸等の
軽作業や洗濯、掃除、炊事をそれぞれ、
宗教及び教祖さんへの奉仕作業とした。
俺も男性陣の方に加わり、自分のできる範囲で
土木作業に四苦八苦しながら従事した。

・アシンメトリーの台頭の波

そんな高1の夏のことだ。16歳。

2000年代が後半に差し掛かると、木村カエラや
堂本剛あたりの個性派ファッションの有名人が
筆頭になって流行をみせていた、左右非対称に
デザインしたヘアスタイルが爆発的に当時の
若者達のお洒落な髪型の方向性を決定づけていた。
前髪を揃えて大胆に斜めに切り落とし、サイドは
片側だけメリハリのある短さをつけたり
刈り上げたり、またその上からカラーを
のせたりして左右で全くディティールの異なる
スタイルは、他人と差をつけたい若者から
男女関係なく注目を集めた。

少し大袈裟な言い草だったかも知れないが、
左右非対称=アシンメトリーなデザインは
洋服にまで波及し、個性的にお洒落をしたい
若者にとっては、LとRで長さ大きさや色が
違うものが格好いいという価値観が今よりもっと
あった。そう見えた。
また「アシンメトリー」「ツーブロック」という
言葉はこの頃あたりから市民権を得始めた。

…と思う。

とにかく、髪の片側は残し、もう片側の
もみあげからこめかみの前後まで刈り上げて、
長く残したパーツはボリュームを出してワックスでスタイリングをしておけば流行の髪型には
ある程度なれることは出来た。

…と思う。

・俺だってアシンメトリー

俺自身も例外ではなかった。
よくファッション雑誌に目を通し、自分なりに
ファッションを求めてアメ村に足繁く通った。
そして髪型の話だが、片側ツーブロックの
アシンメトリーヘアに自分も近付けようと、
ある程度の長さまで全体を伸ばして、もみあげから
こめかみ手前、耳の上あたりにかけて
ハサミで落としてみた。
バリカンは手元に無かったがすぐにそうしたくなり
2分の1程度の衝動に押されて挑戦してみた。

今にして思えば、自分で自分の髪を切るのは
初めてで長さはまばらで、お世辞にも綺麗な
片側ツーブロックとは言えなかったかも知れない。
それでも満足だった。
1000円カットくらい行きゃいいじゃん。
まぁ細かいことはさておき、当時から好きだった
パンクロックの※DIY精神に則ることにした。
俺カッコイイと思えばカッコイイ。
汚くなった感じはさすがにちょっと気にはしつつ
それでもお洒落にひとつ近付いた気がして
意気揚々としていた。

※“Do It Yourself”の略。
「大事なことは人任せにすんじゃねー。
自分のことは自分でやれ!デストロイ!」
…的な意味。

・アシンメトリー、総本山へ行く

話を戻して、その高1の夏、いつもの様に
父と共に宗教の総本山に行った。

同じくそこに来ていた信者の大人達
(その時子どもは俺しか来ていなかった)は、
物珍しそうに俺を見ている。
まぁ当然だねー。完璧なスタイルじゃないけど
まがりなりにも若者のトレンドなんだよ?
右側だけ刈り上げた髪型なんて奇抜だから
ついていけないっしょ?
まぁ大人達よ、若者の流行ってのは
理解出来ないよね。うんうん。
アンタ達がティーンの頃にもあったよね?
別に俺は理解されなくてもいいけどね。
アンタ達が知らないだけで流行ってるしね。
もっと広い視野でものを見なよ。

…とまぁそれくらい必要以上に憎たらしく
得意気になっていた。以上の言葉を口に出して
言った訳ではないけどそう言わんばかりの態度。
10代ってそういう生き物だ。

「頭の横を怪我したからそこだけ剃ったんか?」


とか言われたけどそこは抑えて
「いやコレはまぁそういう髪型ですよ(笑)」
とかそんな感じで返していた。

・バリカン持ってこい

昼過ぎ、その髪型を教祖さんが眺めていた。

昼食を全員で摂ったあとは決まって教祖さんが
自分の経験や聞いた話を基にして、堅苦しくない
法話のようにして教えを説き、それを各々じっと
聞き入ったりメモをしたりするのがルーティン。
最中、自分の話を一段落させたところで
ひと口茶をすすり、怪訝な顔をしながら
俺にやはり怪我したのかどうとか質問をしてから、
特にそうじゃないですとかいう俺の回答を聞くと
別の信者の大人に

「ちょっとバリカン持ってこい」

と命じた。


………


嫌な予感しかしない…。
この続きは次の記事にて。

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