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【アーカイブ記事(2016/08/28公開記事)】「#眞鍋JAPAN総括 ④ 〜眞鍋監督が変えた『バレーボールとデータの距離感』〜」 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール

 既に眞鍋JAPANに関する包括的な総括は何本か出てきていますので、各論について掘り下げた議論が必要かと思います。そこで本稿では、眞鍋JAPANにおける「データ重視の戦略」について、テーマを絞った総括をしたいと思います。

 眞鍋監督がデータを重視する戦略を前面に押し出していたことは有名で、チームの特色の1つといえるでしょう。この戦略によって「もたらされた功績」とバレーボールとデータのあり方についての「今後の展望」が、本稿のテーマとなります。


◎ データ重視の戦略がもたらしたもの

 結論から言ってしまえば、眞鍋監督によるこの戦略による功績は、戦績とは別にバレーボールとのデータの距離感を縮めたことにあると考えています。

 例えば、「こういうデータがあるよ」と情報を提示されれば、多くの人は「へーそうなんだ」という反応になるのではないでしょうか。このように、データを出すとすんなりと受け入れてもらえる環境を作ったことが、眞鍋監督の功績ではないかと考えています。

 もちろん、眞鍋監督が就任する前からデータの重要性を認識していた人もいますし、未だにデータに懐疑的な人もいます。そういう人達もいる中で、「多くの人がデータを受け入れやすい環境を作ること」に貢献したのではないか、ということです。なんでもないようなことですが、実はこれが結構大変なことだったりします。


◎ データを導入する際に避けて通れない “保守的な抵抗”

 人は元々保守的であり、自分の身の回りに新しいものが入ってくることを歓迎しません。データは数値で表現されるためか、無味乾燥で冷たいイメージを持つ人も多く、特に、実際に競技している人から見れば、受け入れがたいものに感じられることも珍しくありません。


 例えば、野球の話ですが、映画にもなった「マネー・ボール」。

 これはメジャーリーグのオークランド・アスレチックスが、データを活用し躍進を遂げたことをテーマにしたノンフィクションです。この作品の中で、チームがデータを導入する際に受けた現場からの保守的な抵抗が描かれています。

 これがスポーツにデータを導入した際の普通の反応というもので、このハードルを乗り越えるのは容易なことではありません。いくら正論を述べても、素晴らしいデータを用意しても、データを受け入れるかどうかは人間の感情に左右される問題なので、すんなりとは受け入れてはもらえないからです。

 一方、バレーボールにおいては、眞鍋監督がデータを重視することを前面に押し出していたことで、比較的スムーズに受け入れられていると思います。

 現在、様々なスポーツでデータの導入が進んでおり、その潮流がバレーボールにも来たということも影響しているとは思いますが、やはり眞鍋監督の影響は小さくはないでしょう。

 こうしたデータに対する意識や感覚というものは、一度変化してしまうとそれが当たり前のことになってしまい、改めて気付くことが難しいものです。なんだかヨイショしているみたいでちょっと気持ち悪いのですが、これはこれで眞鍋JAPANの二期8年間の取り組みによる功績として、忘れずに評価されておくべきことだと思います。


◎ データは眞鍋JAPANに勝利をもたらしたか?

 さて、データに対する意識を変えた功績に対し、戦績の面では果たしてどうだったのでしょうか。

 残念ながら、データがどのようにチームに組み込まれているかは企業秘密なので、それを知る由もありません。ただ、リオ・オリンピックの最終的な結果を不本意なものと評価するのならば、眞鍋JAPANにとってデータは、勝利をもたらすほど十分には機能していなかったといえるでしょう。

 しかし、この最終的な結果だけを持って「データを重視する眞鍋JAPANの戦略は誤りだった。バレーボールにおいてはデータを導入する必要などない」と判断してしまうのは早計です。また、現状の課題の原因と責任を眞鍋JAPANのスタッフだけに求めることが、今後の改善につながるわけではありません。


◎ バレーボールにおけるデータの「現状の課題」

 「アナリスト」という職業があります。彼らは試合に帯同しデータを収集・分析し、チームに報告します。眞鍋監督がデータ重視の戦略を打ち出すことで脚光を浴びることになりましたが、その仕事自体は古くからあるものです。

 こうしたアナリストの活動に注目が集まる一方で、データを分析し活用するというノウハウは、それほど蓄積されていません。 

 例えば、
どのようなデータが勝利のためには重要なのか?
どんな選手が優秀といえるのか?
ある状況において、適切なプレーは何か?

 こうした疑問に対し、経験や勘ではなく、データを用いた客観的な分析によって事実が検証され、運用されているのかというと、まだまだそうなってはいないのが現状です。

 したがって、バレーボールにおいて「集めたデータをいかに活用するのか」という研究分野は、まだまだ黎明期にあるといえるでしょう。


◎「データ『活用法』研究」の担い手は誰か?

 黎明期とはいえ、日本にも少なくはない人数のアナリストがいて、おそらく彼らは、独自のノウハウを積み上げていると思います。そうしたやり方を否定するつもりはありませんし、中には職人や名人と呼ばれるような優秀な人もいるでしょう。しかし、個人や一門といった規模でノウハウを蓄積していくやり方には限界があります。

 先ほど紹介した「マネー・ボール」に登場したアスレチックスが躍進を遂げたのは2000年代初頭ですが、その背景には、1977年にビル・ジェイムズという1人の野球ファンが、『Baseball Abstract』という1冊の本を自費出版したことに端を発する、20年に渡る野球における「データ『活用法』研究」の歴史があります。

 この分野の研究の発展を支えたのは、“物好きな” 野球ファン達でした。多くの疑問やテーマがファンの間で共有され、分析と議論が進むことによって様々なことがわかるようになっていきました。さらに、“物好きな” ファンの中での議論を超えて、データ収集と分析を専門とする企業が発足し、メジャーリーグのチームに導入されたのがアスレチックスだったわけです。

 そして現在、メジャーリーグの多くのチームは専門専属の分析家を雇い、少しでも有利な情報を得るためにしのぎを削っています。

 このように野球においてデータの活用が大きく発展した理由は、たくさんのファンによる 「“開かれた” 議論と分析」が行われたことにあります。個人や一門といった狭い範囲で同じことをやった場合と比較すれば、発展のスピードと得られる成果は雲泥の差になります。


 バレーボールに話を戻しましょう。今後データを活用することで利得(勝利)を得たいのであれば、データ収集や分析の担い手を一部の人に任せるだけでは、多くの成果を期待するのは難しいでしょう。野球で成功したように、ファンを含めた多くの人が参加し、広く議論していくなかでノウハウを蓄積していくことが、「バレーボールにおけるデータ活用」という分野の成長にとって必要なのではないでしょうか。

 バレーボールにおけるデータの活用方法を研究する担い手は、一部の関係者だけではなく、広くファンにも開かれている(同時に責任の一端もある)ということです。現状の課題の原因と責任を、眞鍋JAPANのスタッフだけに求めることが今後の改善につながるわけではない、と指摘したのはこのためです。

 ちなみに、日本バレーボール協会は2020年東京オリンピックに向けて、Project COREという計画を組み強化を目指していますが、このプロジェクトの中には「データの活用」は含まれていません。野球もそうでしたが 、“御上(おかみ)” はなかなか動いてはくれないものです。

 良くも悪くも現状がこうなので、今後のバレーボールにおける「データ活用法の研究」に、ファンが果たすべき役割も必然的に大きくなるでしょう。データによって日本を強くしたいのであれば、現場の誰かが何とかしなくてはいけない問題ではなく、私たちファン1人1人が関わることで初めて改善できる問題だと考え、積極的に参加することが重要ではないでしょうか。

photo by FIVB

文責:佐藤文彦
https://note.com/student_report | note


※バレーボール・スクエア編集部より追記
 バレーボール・スクエアとしても、今後「“開かれた” 議論と分析」が盛んになることを期待しております。
 その際には、発表と議論の場としてバレーボール・スクエアを利用していただきたいと思います。

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