2020年の火山活動から見る様々な噴火

皆さんこんにちは、もしくは初めまして。私は火山たんです。普段はTwitterで火山などについて様々な情報発信をしています。

この記事は学術教育サイエンスコミュニケーション系 Advent Calendar 2020 への寄稿記事です。


さて、年末のこの時期にどんな内容で書こうかと思った瞬間に「2020年の火山活動を振り返ろう」と決めました。その年に噴火した火山についてツイートで解説するということはこれまでもやってきたので、慣れているものを選びました。いやまぁ、裏事情としては文章を書く時間がなかなか取れないので考える必要の少ないものならいけるのではないかという目論見があるのです。案の定、参加を決めてから私の記事公開まで2週間あったのですが、課題は期限ギリギリまでやらないアカウントは12月17日の午前中にこの部分を執筆しています。基本的に文章を順番通りに書いていくスタイルなので(そうしなかったのは修論くらい)、現時点でまったく白紙です。さてはて、明日のうちに間に合うのか。

とはいえ、書くからには面白いものにしたいですよね。いったんは火山活動を振り返るだけの記事を頭の中で組み立てたのですが、あまりにも味気ないので却下しました。情報としては興味深いので、誰かがそれを書いてくれるのなら私のような火山オタクは読みますが、この記事はアドヴェントカレンダー用のもの。地学に触れてこなかった人でも読んで何かを得られるようにしたいのです。ということで、火山活動の振り返りをしながら様々な噴火スタイルを見ていきたいと思います。


噴火

私たち人間は気軽に「噴火」という言葉を使います。しかし、地球としてはそんなものを意識しているわけではありません。先ほど「噴火スタイル」と言いましたが、それは人間が理解しやすいように区分した便宜上のもの。実際には個々の火山ごとに……もっと言えば、1回の活動ごとに現象は異なってきます。写真や映像、もしくは肉眼で見る火山活動は全てオリジナルなのです。これが火山を見る醍醐味でもあり、防災を行う上で厄介な点でもあります。

少し横道に逸れましたが、噴火のスタイルや様式というものは「だいたいこんな傾向があるよ」という程度のものだということを前提として、本題に入っていきます。


水蒸気噴火

噴火とは、大雑把に言ってしまえば地下の岩石が何らかの力で地上に出てくる現象です。その力の要因は溶けた岩石であるマグマの中に含まれるガスだったり、マグマによって暖められた水蒸気だったりします。火にかけたヤカンや鍋の蓋にある穴からは水蒸気が勢いよく吹き出しますよね。あのジェットによって土や石が飛ばされることがあります。水蒸気噴火というタイプの噴火です。昔は水蒸気爆発とも言ったのですが、最近は水蒸気噴火の書き方をよく見ますね。

2020年に起きた火山活動では、薩摩硫黄島での4月29日と10月6日の噴火が水蒸気噴火です。


この火山は島内に硫黄岳と稲村岳という2つの峰があるのですが、噴気を上げて盛んに活動しているのは硫黄岳の方です。粘り気の強い溶岩が盛り上がった白いドーム状の山で、岩の割れ目から蒸気が出てきています。たまに水蒸気の勢いが強くなると周りの土砂が空に舞い上がるんですね。とはいっても今年の噴火では火口から1000mちょっと上がった程度です。大した量でもないので、噴火と呼ばれる現象の中では最低限のレベルですね。この火山は時々こういった噴火を起こすので、現段階では頭の片隅に入れておく感じでいいでしょう。


ブルカノ式噴火

水蒸気によって岩石の欠片が飛び散るタイプの噴火に対して、マグマの中にあるガスの気泡が膨張して、体積が大きくなり地上にマグマが出てくる噴火もあります。これはそのまま、マグマ噴火と呼ばれますね。赤い溶岩が火口から噴き出したり、溶岩流を出してくるのはこちらです。今年もいくつかの火山がマグマ噴火を起こしました。

まずは噴火と言えば…なこの火山。言わずと知れた桜島です。



10年くらい前には年間1000回噴火とかも記録しましたが、今年は400回を超える程度です。それでも、これほど活動が盛んな火山が鹿児島という大きな都市のすぐ隣にあるのは、世界的に見ると珍しいんですよね。
そんな桜島は、火山学者が使う用語では「ブルカノ式噴火」というタイプの活動を起こしやすいことで知られています。これは何かというと、楽器で表現するなら太鼓なんですね。バーンと一発、大きな爆発を起こす。その衝撃を地震計で観測すると、最初の一瞬でエネルギーが解放されているのがよくわかります。
ブルカノ式噴火の爆発は持続的ではありませんが、爆発の勢いは侮ることができません。今年6月には、噴火で飛び出た大きな岩が火口から3km離れた民家のあるエリアに着弾しました。もし乗用車に当たったら一撃でスクラップにするような破壊力です。今回は運良く被害がありませんでしたが、このような噴火が頻発するようになると危険ですね。


ストロンボリ式噴火

お次は同じマグマ噴火でも、ちょっとタイプの違うものです。数年前からの活動が穏やかになったり激しくなったりしながら今年も続きました。フィリピン海の灯台、西之島です。




この火山は2013年の暮れに海底噴火を始めて、すぐに溶岩流を流して陸上の噴火に移行しました。実は、よく私たちが目にする陸上にある火山の噴火と、海底で起きる噴火は別のスタイルになるのです。何が違うかというと、水がたくさんあるかどうかですね。浅い海や湖で高温の溶岩が噴出すると、それによって水が直接温められて急に膨張します。その勢いが爆発となって土砂を激しく吹き飛ばします。これはマグマ水蒸気噴火と呼ばれ、噴出してきたマグマの量が少なくてもより爆発的になるので注意しないといけません。この辺り、リンクを貼っておいた海上保安庁のサイトにたくさん写真があるので見てくださいね。いい写真が多いんですよ。
さて、数年間に渡る噴火活動で西之島は立派な島になりました。ここ5年は基本的に落ち着いていて、たまに噴火する程度でした。去年末から始まった噴火は、基本的には山頂からストロンボリ式噴火という溶岩を盛んに噴出するタイプです。ブルカノ式を太鼓とするなら、ストロンボリ式は笛です。連続的な噴出をするというのが特徴ですね。マグマの中に含まれるガスが火口から放出される勢いで、溶岩の飛沫も地上に撒き散らされます。噴火としてよくイメージされる、真っ赤な溶岩が空高く噴出するあの光景そのものです。
大地を造る笛の音色は今年になっても響き続けました。西之島は噴火の勢いが強くなると溶岩流を形成することも特徴です。島は海を埋め、溶岩の飛沫が積み重なった山はさらに高くなりました。ストロンボリ式噴火は綺麗な円錐形の小高い丘を作ります。スコリアという赤黒くて小さな穴の多い岩石が形作るのでスコリア丘といいます。ちょうどアポロチョコの形ですね。このまま大きくなっていくと思っていました。人間の予測なんて通用しないのが火山です。
ストロンボリ式噴火は火山灰を出さない噴火だなんて解説されることがあります。名前の由来となったイタリアのストロンボリ火山ではだいたいそうなんですが(それでも最近はブルカノ式噴火を起こしたりもしてます)、日本の火山の場合は火山灰を放出することが多いです。この違いは何かと言うと、噴火の際にマグマの飛沫がどれだけ砕かれるかによります。火山灰とは言いますが、実際は細かな岩石です。火山学では、直径が2mmより小さくなると火山灰と呼びます。マグマの粘り気などの関係で、日本にある火山は噴石と火山灰を一緒に噴き出すことが多いです。その火山灰がどこまで舞い上がるかを、一般的には「噴煙の高さ」という指標で表現します。
今年の西之島は噴煙の高さが火口から1000m台くらいが5月までの限度でした。ところが、6月に入るとそれが2000mを超える日が出てきます。かなり活発になったなと思っていたら勢いはさらに増して、7月上旬には噴煙の高さ4000m超が当たり前になっていました。これほど激しい噴火が1ヶ月単位で続くのは、ここ数十年の日本ではなかなか無いことです。
変化は山体にも現れました。新たな写真が撮影される度に、火口が大きくなっていったのです。最終的には円錐形の中央部がくり抜かれたようになりました。おそらく噴煙が出てくる時に山を削ったのでしょう。西之島がこうなったと知った時はかなり衝撃を受けました。

激しい噴火は8月に入ると急速に衰え、12月には白い噴気を上げるだけとなっています。この先、西之島がどのような活動を見せるかは誰にも分かりません。もう私たちが生きているうちに噴火しないかもしれないし、また来年も噴火するかもしれません。それが、火山という現象です。


プリニー式噴火

さて、西之島は激しい噴火を見せました。しかしこれは、決して火山の限界ではありません。あの噴煙がさらに高くなり火山灰は成層圏にまで届く可能性だってあったのです。連続的な噴火でも、そうなってくるともはやストロンボリ式噴火とは呼ばれません。明確な定義は難しいですが、噴煙の高さが1万mを超えるような噴火が1日続くとかになると、プリニー式噴火と呼ばれるようになります。幸いにも、今年の日本ではそのような噴火は起きませんでした。それどころか、過去90年以上も日本が経験していないタイプのものです。しかし多量の降灰や火砕流など、私たちが本当に気をつけないといけない噴火でもあります。

この記事の最後として、そんな大噴火を見ていきましょう。今年の火山活動を見ていく記事ですが問題ありません。なにしろ、「日本の火山のみ」とは書いていないのですから。


ということでこちら、フィリピンのタール火山です。


この火山の本体は大きな陥没地形であるカルデラです。そこが湖になっていて、中には島があります。もちろんこれも火山です。その中央火口がまた湖になっていて、噴火前はその中にも島がありました。複雑な入れ子構造ですね。火山はこのように独特の景観が名所になっていることもあります。この火山も噴火が始まった時には中の島に観光客がいました。最初は水蒸気噴火だったのですが、すぐにマグマが出てきました。そして噴煙は太く高くなっていき、成層圏に届いてもなお噴火が続きます。
それと同時に、カルデラの周囲では地震が相次ぎました。大量のマグマが動くことで岩盤が破壊され、大地が揺れるんですね。この地震なんですが、震源がカルデラから南西に並んで位置していました。近くの断層でも刺激したかと最初は思ったんですが、地殻変動のデータが出てきたところ、その震源の列の真上が激しく隆起していました。1m以上も盛り上がったところもあるそうです。実はこれ、マグマが板状になって地盤の中を進んだ結果なんですね。マグマの移動は地下のみで起きることもあります。最終的にそのまま落ち着いたので良かったですが、もしマグマの列が上昇して地上に達していたら……カルデラの周囲には人が住んでいたので、市街地で大噴火が起きたかもしれません。


これからも火山は動く

ここまで、今年に起きた様々な火山活動を見てきました。本当は他にも色んな火山が噴火していますが、私の力量不足でうまく解説に入れられませんでした。また、今年は起きなかったタイプの噴火もあります。たとえば噴出物の量が100㎦を超える巨大噴火とか。そんな化け物を「今年の噴火」として取り上げる時が来ないように願いつつ、この辺りで筆を置きます。良いお年を!


P.S.

私が火山を見る時に使ってるサイトなどを置いておきます。気になったら見てみてくださいね。


あとYouTubeで噴火の動画を探すのもオススメです!時たま凄い映像が転がっていますよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?