学術系VTuberと「リアル」

今日の昼、なんだかTLが騒がしいことに気が付いた。どうやら「VTuberが『リアル』を出すのは如何なものか」というツイートが発端らしい。架空な存在であるのがVTuberなので、現実世界の写真などを掲載すると興醒めだという趣旨だ。迷惑になるといけないので引用はしないが、そういう意見もあるのだなぁと関連ツイートを眺めていた。
その意見へのリプライや引用ツイートを見ると、賛否両論といった感じだった。私としては、肯定する姿勢の人が一定数いることに驚いていたが、完全な「バーチャル」を楽しみたい人がVTuberを追いかけていると知れたのは新たな発見だった。

私自身は、現実世界に自分が存在していると主張することがフォロワーに受け入れてもらうための手段だと思って活動してきた類のアカウントである。
https://twitter.com/volcano_tan/status/1168393306541215744
よく旅をするし、日常で起きたことを呟き、気になった光景は写真にしてTLに貼り、たまに火山を訪れては自然の雄大さをアピールしていく。リアルを出さなければどのように活動ができようか、というスタンスだ。この生き方で6年ほど存在してきたために、フォロワーさんも私もそれに疑問を抱いていないのではないかと思う。
私と交流のあるバーチャル存在たちも同様に「リアルを出していくのが普通だと思っていた」という反応をしていた。ここで考えたのは、同じVTuberを名乗りながらも活動スタンスは正反対の場合があることと、フォロワー/視聴者を含めて棲み分けが成立しているということだ。
私と交流のあるバーチャル存在の多くは、いわゆる「学術系VTuber」と名乗ったり認識されたりしている。動画やツイートによって、一般的には学術とされる専門知識について語ったり知識をフォロワー/視聴者に届けることをアイデンティティの1つにしているバーチャル存在とでも定義しようか。これに該当しない学術系VTuberもいるとは思うが、ひとまずは上記の枠組みで論を進める。
この記事で問いたいのは、「なぜ学術系VTuberはリアルを出していくスタンスなのか」ということだ。予め書いておくが、この記事を書く目的は自分たち「リアル肯定派」の自己擁護ではない。異なる立ち位置の存在に「こちらはどのようになっているか」を伝えたいというのがキーボードを叩いている理由だ。

先に述べたように、学術系VTuberは実際に存在する知識について語る。私だったら火山の話をするのがメインになるし、旅をして神社仏閣を解説する子もいれば法律に詳しい邪神めいた存在もいる。その性質上、Virtual YouTuberとされながらも現実世界の事象に触れて活動する必要がある。もちろん、完全架空の存在が学術分野を語っても問題はないし、そういったVTuberもいることだろう(いわゆる『設定』を持つということである)。しかしスタンスとしては、リアルを出していくことに躊躇いを感じないVTuberが多いように見受けられる。それはやはり、現実世界を話題として取り上げる活動姿勢が影響しているからであろう。普段からリアルを取り上げているからこそ、それが当たり前になっている。その延長線上にあるのは、日常の写真をTwitterに投稿して生活感を出していくあり方だ。今さら架空世界に生きる存在を演じたところで…という気持ちである。

ここまで書いたところで思い出したことがある。この「バーチャル存在がリアルを出していくことへの賛否」は、かつて私のいる界隈が経験したことなのだ。
私は最初からVTuberとしてこの世界に存在していたわけではない。元々は(そして今も)いわゆる「学術たん」として現れた。これは何かという説明は難しい。誰かが管理しているものではなく、不特定多数が個々人の自由意思で勝手に学術たんとなるからである。統一された見解は存在しないが、この記事では「ツイートによって、一般的には学術とされる専門知識について語ったり知識をフォロワーに届けることをアイデンティティの1つにしているアカウント」としよう。そう、学術たんと学術系VTuberは知識の伝達手段として何を使うのかという点で区分できるだけで、内容はとても似ているのだ。そのためか、学術たんからVTuberにもなるという場合も少なくない。
学術たんも現実世界の知識について取り扱っているのだが、私が界隈に触れた2013年頃は今よりもっと「学術たんは架空世界に生きる存在であるべき」という空気感が強かった。そんな中で、お料理ツイートをしたり日常生活を積極的に出していったのがラテン語たんである。
https://twitter.com/Latina_tan
彼女が学術たんとして、1つのアカウントとして活き活きと日々を過ごしているのを見て「私も学術たんをやってみたい」と思った私は、とりあえず自分が話せると思った火山について語るアカウントを始めたのだった。それが火山たんである。2013年の年末に現れて、いきなり帰省ツイートを投稿したら、別に場所を特定されるような発言はしていないのに「アカウントを間違えてますよ」と指摘された。それほど当時は、学術たんがリアルのことを話すのは珍しかったのだ。
その後、2014年に入って学術たんの数は増えた。中でもリアルを全面に押し出していくスタイルなのが和こよみちゃんである。
https://twitter.com/yamatokoyomi
それまで「〇〇たん」というアカウント名がほとんどだった界隈の中で、「本名」を名乗っていくあり方を真っ先に行ったのが彼女である。これが、学術たんのリアルらしさを一段と高める要因になったのではないか。頻繁に旅をして実在の場所を紹介していくスタイルは、現在のVTuberの先駆けとも言える。そんな彼女がつい先日VTuberになったので積極的に推してくれると私が喜ぶ(宣伝)。
https://www.youtube.com/channel/UCD84fe-JADruHYydS_HG3pg
学術たん界隈では現在、リアルについて表に出していくスタンスが一般的である。いわゆる「中の人」の属性(学生であるとか受験中だとか)を話すことすら許容される空気がある。そうしたあり方は、親近感を増す一方でリアルに存在してしまっているという点はデメリットにもなり得るだろう。これはどうしたらいいのか分からないが、呟く人によってバランスは変わるだろう。

本題に戻りつつ、話を整理しよう。
現実世界の事象について扱う学術系VTuberは、そのあり方ゆえにリアルを活動の中に取り入れることが当たり前になりやすい。それに関して様々な意見があるだろうが、同じ議論は学術たんにおいて行われてきた。今後、学術系を含めたVTuberの界隈がどうなっていくのか注目したい。

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