永渕弘真

R大学の文学部生です 映像作品の鑑賞と読書が趣味なので、それ関連の記事を連載していく予…

永渕弘真

R大学の文学部生です 映像作品の鑑賞と読書が趣味なので、それ関連の記事を連載していく予定です 出来るだけ質の高いものをコンスタントに書けたらなと思っています。よろしくお願いします Twitterアカウント : https://twitter.com/Nh72454548?s=03

最近の記事

『猫物語 黒/白』~羽川翼の物語~

 羽川翼は『猫物語 黒(以下「黒」)』において、自らのストレスの権化である「猫」を阿良々木暦によって切られた。  彼女が抱えていた家族に対する劣等感。自らの闇に彼女は向き合うことが出来ず、暦にその処理の全てをゆだねてしまった。  『黒』のOPソングである「perfect Slumbers」の一節、「心の行方を今はまだ知りたくない」。『黒』が失恋の物語あることを考えれば、彼女の恋心の所在について歌っている部分であるとも読み取れるが、それだけではないように思える。  「何で

    • 『夜は短し歩けよ乙女』~遊歩と思索~

      (1)乙女のように歩む ~遊歩のすすめ~「自分は人生を楽しむことが出来ているのか」現代社会において、この悩みを抱えている人が多い……私にはそう見える。  「自分の夢中になるものがないことは寂しい」「自分の趣味が少ないと思われるのは嫌だ」、この問題に関しても、多くの人が悩み苦しんでいる。  自分の好きなものが見つからない、熱中できる趣味がない。自分の欲しいものを欲しい時に欲しいように手に入れることが出来るようになったことで、己の内にある欲望を見出しにくくなっている時代を私た

      • 『東京喰種』論~葛藤と悲劇の物語~

        人間を人たらしめている要因は何なのだろうか。 姿や形で、私たちは人間を人として捉えている。けれども、そんなことないのではないか。姿はどれだけ人らしくとも、社会がその性質を人として認めなくなった瞬間、彼ないし彼女の存在を私たちは人として認知することができなくなってしまうのではないか。 私達は自らのことを人間であると信じている。だが、それが明日になって、カフカの『毒虫』のように、まったく別の何者かになっていたとして、はたして取り乱さないでいられるのか。 このような想像力から

        • 伊藤計劃 『ハーモニー』論

          ※この記事は以前書いたレポートを編集・改題したものです。文字数的にかなり長くなっているので、ご了承ください。 (1) 序論  伊藤計劃は著作『ハーモニー』において、生命倫理・社会システムという観点から人間の意識を描いた。  『ハーモニー』の舞台は、生命至上主義が集団合意として社会を形成し、他者の痛みを自己の痛みとして捉えることが「善」である、という価値観が隅々にまで行き届いたねつ造されたユートピア世界であった。そのユートピアの行きつく果てとして、伊藤計劃は人類の意識が統

        『猫物語 黒/白』~羽川翼の物語~

          (朗読音源付き) 言葉以外の何かで…

          ※上記の音源は、普段お世話になっているめちゃくちゃ声の良い先輩にお願いして、この文章を朗読してもらったものです。「Listen in browser」のボタンを押してもらい、声と同じペースで文章をスクロールしていくと、黙読の時と全く違う言葉が広がっていく印象を得られると思います。先輩の良い声をお楽しみください!  いままで読んできた数ある物語において、最後に私の中に沈み込んでくるのは「言葉ではない何か」に人は生の美しさを見いだすというイメージだった。それは、恋愛であったり、

          (朗読音源付き) 言葉以外の何かで…

          なぜ人文学を学ぶのか~錯誤への道標~

           私は現在大学で、人文科学、すなわち文学や思想、歴史などを学んでいる。文学は、戦後の科学技術至上主義の政府の方針により、時代に取り残され、戦前・戦後において軽視されてきた。現在でもその兆候は続いている。だが、これからの技術革新の時代において、文学・思想は、かつてよりもその意義を増していくように見える。  オルテガの『大衆の反逆』、フロムの『自由からの逃走』の中で、今日、人々は寄る辺のなき根無し草、すなわち「大衆」としての性質を強く持つとされている。周囲に波長をあわせ、依存先

          なぜ人文学を学ぶのか~錯誤への道標~