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お笑いで本当にみんなが笑える日が来るまで

昨年筆者が最も注目していた話題。それはお笑い芸人と「反社」の問題である。何を隠そう?(隠していないし言っていない)筆者は大のお笑い好き。

暗い気持ちになったとき、憂鬱退屈な日々をどれだけお笑い芸人に救われてきたか。そして彼らの巧みな漫才、コント、トーク、ただ楽しいだけでなく、ビジネスにも活きる、素晴らしい鍛え抜かれた技術だ。時に吉本新喜劇の劇場にも何度も足を運び、アメトークやM-1、笑ってはいけない、など年末のお笑い番組はもうお腹が一杯になるまで観てしまう。

そんな中で、起きてしまった今回のお笑い芸人と「反社」の問題。お笑い大好きの筆者としては、会社側と会見をした宮迫さん亮さんの話を聞いていてとても心を痛めている。こんな思いを会社側にも芸人さん側にも、お笑いを愛するファンの人にもしてほしくないという思いが募り、日々ニュースを見ていた。

今回はこの一連の事件の経緯と分析、そこで素晴らしい行動力を見せたロンドンブーツの田村淳さんについて深堀したい。世の中のニュースを分析し、構造把握力を高めるためのトレーニングとして活用いただければ幸いだ。


ここでまず事件の詳細を知らない読者の方向けに経緯を紹介しよう。

今回筆者が着目したのは3つの転換点だ。細かい点は両者の意見が食い違う部分もあるため、筆者がわかる範囲で記載する。

1.事件発覚と宮迫さん・亮さんと会社側とのやり取り

2.宮迫さん・亮さんの会見と吉本興業側の会見

3.亮さんの謹慎と復帰

これらが筆者は大きな転換点と注目している。では簡単にそれぞれの状況を見てみよう。

1.事件発覚と宮迫さん・亮さんと会社側とのやり取り

フライデーが闇営業問題をスクープし、問題が発覚。この時点で宮迫さんたちはカラテカの入江さんのみがお金をもらっていたと考えていたが、後々自分たちもお金をもらっていることに気づく。しかし、そのことを他の芸人含めもらっていないということで口止めし会社側に報告しなかった。世間には入江さんのみがお金をもらっていたという情報が流布する。

一方で別途吉本興業からヒアリングがなされた際に、実は宮迫さん・亮さんはじめ他の芸人さんも現金を受領していることが発覚し、吉本興業側の宮迫さん・亮さんへの疑念が高まる。吉本興業が消費者団体支援に300万円を寄付したことがきっかけで世間にもこの情報が共有される。

宮迫さんをはじめ謹慎処分の芸人が吉本興業側から発表され、会見で真実を告げ世間に謝りたい宮迫さん・亮さんと、初めにウソをつかれ、かつ金額等の証言が芸人さんごとに食い違う中で状況を見極めたい吉本興業側でお互いの相互不信が助長。世の中の空気は宮迫さん・亮さんへの批判一色ムード。そんな中、宮迫さん・亮さん側が弁護士を立て更に状況が悪化。謝罪会見の開催について両者の間で意見が折り合わない状況が続く。そんな中、亮さんの契約解除が吉本側から発表される。


2.宮迫さん・亮さんの会見と吉本興業側の会見

吉本興業側の静止を振り切り、宮迫さん・亮さんが独自会見を行うことに。この会見で一気に世間の空気と論点が変わる。宮迫さん・亮さんからは、迷惑をかけた皆さまに対して謝罪会見をさせて欲しいのに引退会見しか許されなかったという暴露と、その際に吉本興業の会議室で起きたパワハラまがいの発言があり吉本興業を信用できなくなった、という会見内容に注目が集まる。パワハラまがいの発言も含め、そもそも芸人をこのような貧困に貶める契約もない吉本興業の企業体質に問題があるという論点のすり変わりが発生。

その後松本人志さん、加藤浩次さんらが吉本上層部と会話し、松本さんの影響力で岡本社長による(長時間)会見が行われることに。誠意ある回答とは言い難い言い回しや記者の質問にまどろむ社長に対して批判が発生。亮さんの契約解除についてもこの会見の中で撤回を宣言するが事態は収まらず。この会見後に世論は吉本一色。参院選挙もそっちのけで、吉本が悪い vs 宮迫・亮が悪い vsどっちもどっちの三つ巴の世論が形成されていたように感じる。その中、吉本興業の契約のない雇用形態への対応の話が中心に議論され、専属エージェント契約という新しい契約が採用される。


3.亮さんの謹慎と復帰

この前段までは事件を追っていた方も多かったと思うが、この先にも実は動きがあった。

この一連の騒動で亮さんは疲弊してしまい適応障害に。療養を行いながら徐々に回復をしていく。そんな中、相方の田村淳さんが、亮さんが仕事に戻ってくるための準備を本人の意思を確認しながら着実に開始。

「株式会社LONDONBOOTS」を立ち上げる。その後亮さんが「株式会社LONDONBOOTS」に入り、「株式会社LONDONBOOTS」と吉本が専属エージェント契約を結ぶことで彼は復帰を果たした。一方の宮迫さんについてはこの記事を作成した時点でまだ復帰のめどが立っていない。


事件の経緯分析とまとめ

今回の事件は様々な問題が入り乱れており、そのことについて個別に整理がているとは言い難い。

まず吉本興業側、関係芸人側で意思疎通の不具合と芸人側が真実をいち早く公表しなかったことによる認識の相違と相互不信が発生し、それが組織として打つべき手を遅らせ、また個々に会見を開く形になるなど問題の傷を深め助長してしまった。そもそも芸人側がウソをついてしまったため、企業としても打ち手に迷いが生じ、その後両者の隔たりが深まっていった。これを解決するためには本来第3者が入り仲裁をすべきだったのだろうが、大御所芸人やロンブーの淳さんもあえて双方を大人扱いしていたことで事態が悪化してしまった。

今回の問題点は大きく分けて5つある。

1つ目が闇営業を通し違法な手段で金銭を得た反社会勢力からの金銭を授受してしまった点。

2つ目はその金銭の授受に対して会社側と芸人側が真実の確認と公表・対応が遅れ詐欺被害者の方感情への配慮ができなかった点。

3つ目が対応が後手に回りお互いを信頼できなくなったことで企業と該当芸人のイメージを欠損してしまった点。

4つ目が闇営業の温床の一要因としての売れない芸人の貧困問題と契約形態について。

5つ目が吉本興業内でのハラスメントへの対応と改善。

こうした点に本来ならば1つ1つ解決をしていかなければいけない。

しかし残念ながら特に4つ目と5つ目の問題点について対応がしっかりなされているのかは不明だ。吉本興業が雇用契約を採用していなかったのには、一つは吉本興業としての戦略で芸人の裾野を広くしておくことで、ブレイクする芸人を発掘しやすい素地をつくるためであった、ということも理解しておきたい。Mー1で決勝に勝ち上がってきた麒麟の川島さんと田村さんに対して、吉本内で「あいつら誰や?どこの事務所や?」「うち(吉本興業)です!」と彼らの存在を把握していなかったエピソードがあるように、こうしたブレイク芸人を発掘できるのもその裾野の広さのおかげなのだ。しかしそれで飯が食えない芸人を放置していいのか、闇営業の温床になっていいのかというとまた話が変わってくる。吉本興業内でのハラスメントについても然りだが、これは吉本に限った話ではないだろうから今回は割愛する。

この1から5までの問題点を理解し、行動を起こしたのがロンドンブーツ1号2号の田村淳さんだ。もちろんすべての問題を解決できたわけではないが、起きてしまった事実に対し、1つ1つ丁寧に状況を理解し、手を打ってきた。彼がどのように事件に関わったのかをインタビュー記事を引用し説明したい。


田村淳さんの慧眼と事件への関わり方

筆者は正直これほどまで深く物事をとらえ、行動できる芸人さんを知らない。何がすごいのかも含め引用記事を確認していこう。少し長いが大切なことが書かれているので確認いただきたい。

1.事件発覚と宮迫さん・亮さんと会社側とのやり取りの裏側

“闇営業”の記事が出ると聞いた時、すぐ亮に電話をしました。当然、相手が反社会勢力とは知らずにそういう場所に行ったんだろうなと。それは思った通りだったんですけど、お金のことを尋ねたら「もらっていない」と。
 瞬間的に思ったのは「こんな場に行って、もらってないってある?それは信じられない」ということでしたし、それを亮にも言いました。それでも「もらっていない」と。
 中略     でも、その数日後に亮から電話がありました。東京のミッドタウンで買い物をしてる時だったんですけど「今晩、時間を取ってほしい」と。夜は仕事だったので、時間を取ることは無理だと言ったら、そのまま電話で話すことになって「実は、お金をもらっていた」と。  こっちも「エーッ!?」となりましたけど、とにかく会社(吉本興業)にすぐ言えと。「世間にも公表すべきだし、このウソは大変なことになる。オレもガッカリだし失望した」と伝えました。   引用元:田村淳の告白。相方・亮への思い、「ロンドンブーツ1号2号」の今後と新会社設立の理由 中西正男

まずこの事件の報道を受け、淳さんはすぐに相方に事実を確認している。事態を把握し状況を見て正しく動くためだ。そして宮迫さん・亮さんらのウソが発覚してからの世間への影響度合いの予測を行っている点もすごい。

2.宮迫さん・亮さんの会見と吉本興業側の会見の裏側

結局、亮から連絡が来たんですけど、その内容は「これから会見を開く」。それがあの会見の日(今年7月20日)でした。
 「なんで、こんなことになったんだ?」と聞くと「会社に自分たちの正直な気持ちを言いたいと言っても、なかなか実現できない。なので、自分たちで会見をすることにしたんだ」と。
 世間に言うことには賛成だけど、その形がこの会見で正解なのか。まず相談してほしかった。僕が間に入って会社に言えたこともあると思う。もう全てが決まってからでは、何をどうすることもできないですから。
 でも、それと同時に、そこまで追い込まれていたのかと…。僕に相談することもできないくらいに。そこは、なんか、僕も苦しかったですね。
 だから、最終的には怒ったりせずに「もう会見は決まってるんだから、ありのまま伝えて来い」と。それによって、事態がどちらに転ぼうが、どういう形になろうが、“正直に言う”ということが達成できたら、それは支持する。
 言葉としては「すまん。ありがとう」というすごく短いものでしたけど、やっとそこで亮がホッとしたのが電話越しにも分かりました。ずっと張り詰めていたものが緩んだというか。
引用元:田村淳の告白。相方・亮への思い、「ロンドンブーツ1号2号」の今後と新会社設立の理由 中西正男

ここで宮迫さん・亮さんが記者会見をすることを淳さんは直前に知る。しかしメディアのこともよくわかっている彼は、会見の形式等をまず自分に相談してほしかったという思いを持つ。一方で相方が追い込まれていた状況に思いを馳せ、最終的には会見に理解を示し、亮さんの背中を押す心意気を見せた。

何より、その頃は“吉本に対して信頼を失ったという空気”がしっかりとありました。言わば、切腹を命じられたけど「やっぱ、切腹しなくていいわ」となっちゃったんで。そこは気持ちの持って行き方が難しかったんだと思うんです。
 でも、現場で支えてくれる社員も吉本だし、相方の僕も吉本だし。吉本全体を信頼できなくなるというのは違うと僕は思ったんです。そもそも、亮のウソが原因で会社も対応に追われてこういう形になったわけだから。
 それに対して「淳が言ってることは分かる。お世話になってる吉本だから、憎いわけじゃない。ただ、自分としては今までみたいには吉本と付き合えない」と言ってました。正直な思いだったと思います。
 ウソをついた負い目。勝手に会見した負い目。ただ、言いたいのに言わせてもらえなかった思いもある。ただ、吉本にしても言わせなかったのは、亮たちを守ろうとしていたことでもある。
 これは双方いろいろな思いが複雑に絡み合った状況になってるなと。一つずつもつれた神経をほどいて繋げていく手術というか、そういうことをやっていかないダメなんだろうなと感じました。  引用元:田村淳の告白。相方・亮への思い、「ロンドンブーツ1号2号」の今後と新会社設立の理由 中西正男

亮さんの心理状態を的確に把握しながら、吉本興業側と複雑に絡んでいる状況を見極め、正しい一手を打つための問題点の分析を行っている。あの段階でここまで俯瞰的に事件を見れていた人がいたのだろうか?

3.亮さんの謹慎と復帰の裏側

ここが筆者が最も注目しかつ感動した淳さんの行動と考え方だ。

僕が亮に確認してきたことがありました。それは「今後、芸能界で仕事をしたいかどうか」。
 この質問は、かなり初期というか「こんなこと、今のタイミングで聞くのも違うかな」という時期から、あえて聞いてきました。というのは、どこかで「もうやりたくない」となれば、すぐに解放してあげようと。それは、引退という形で。
 常に最新の気持ちを確認しておきたかったので、今に至るまで何回も「この仕事をしたい?」と聞いてきました。同じことばかり尋ねられたら、どこかで答えるのも面倒くさくなってくるものなんでしょうけど、この質問にだけは毎回気持ち良く「やりたい」と返事をしてくるんです。だったら、こちらも何か動こうと。 引用元:田村淳の告白。相方・亮への思い、「ロンドンブーツ1号2号」の今後と新会社設立の理由 中西正男

まずここで、淳さんはそもそも亮さんが復帰をしたいのかを膝を突き詰めて確認していた。これを忖度で本人のためだろうと考え、別のことをやってしまう人はたくさんいる。しかし淳さんはあえて亮さんの気持ちをまず確認した。仕事への意欲があるという前提で最善手を考えたのだ。

そこで僕が考えたのは、僕が代表となって「株式会社LONDONBOOTS」を立ち上げることでした。亮がもう一度この仕事ができるようになった時のために。
 もちろん、この時点で復帰後の話をするのは早計だし、実際、復帰なんていつになるのか分からない。そもそも復帰できるのかも分からない。その状況は重々承知ながら、あえて今、このタイミングで会社を立ち上げる。その意味があると僕は思っているんです。
 まず、会社を作った理由から説明させてもらいますと、もし、また仕事ができるようになったとしても、これまで僕が話してきた感覚からすると、亮がいきなり吉本のど真ん中に戻って、吉本と向き合うのはしんどいだろうなと。
 だから、まず亮が「株式会社LONDONBOOTS」に入る。そして「株式会社LONDONBOOTS」と吉本が専属エージェント契約を結ぶ。
 専属エージェント契約というのは、基本的に吉本から「こんな仕事の依頼がありましたよ」という連絡が「株式会社LONDONBOOTS」に来る。それをこちらが受けたら、吉本に「お仕事の窓口になってくれてありがとうございます」という手数料を支払う。そういう仕組みなんです。
 「株式会社LONDONBOOTS」と吉本の専属エージェント契約ならば、仕事上の関係性というか、両者の間にしっかりと“橋”はかかっているけど、専属マネジメント契約ほど完全に吉本の中に入るのではない。橋によって吉本と繋がっているけれど、外に居を構えている。吉本と繋がりながらも、この距離感が亮には必要だと思ったんです。 引用元:田村淳の告白。相方・亮への思い、「ロンドンブーツ1号2号」の今後と新会社設立の理由 中西正男

この時点で将来のことをここまで予測し、動けているというのが本当に凄い。仕事をしたいという亮さんの思いと、一方でぬぐい切れない吉本興業へ不信をどうやって共存させるか。その答えが両者の架け橋としての新会社設立という発想だった。そしてそれを吉本興業側に交渉し実現させてしまう交渉力と行動力がすごい。吉本との繋がりを完全には切らずに程よい距離感で後々吉本にまた戻れる可能性を残したのだ。

ただ、あくまでも騒動を大きくしたきっかけはウソであって、それで吉本も右往左往したのは事実なんだから、そこの関係をきちんと直してから再スタートする。「それがオレはスジだと思うし、必要なことだと思う」と話して、この形をとることにしました。 中略  亮の現状で言うと、高齢者の方が詐欺被害に遭わないようにという活動を引き続きしています。自分で先方にアポを取って、だいたい週に2~3回くらいボランティアで啓蒙活動をやっています。「こいつ、こんなに知識があったんだ」と僕もびっくりするくらい、詐欺に詳しくなってますもん(笑)。 引用元:田村淳の告白。相方・亮への思い、「ロンドンブーツ1号2号」の今後と新会社設立の理由 中西正男

ウソによって迷惑をかけた吉本興業側への配慮の視点も素晴らしい。詐欺で被害にあわれた被害者のためにも、しっかり謹慎をし、吉本興業とも関係性を構築したうえで再スタートを切らせるために準備を行ってきたということだ。


新しい船出と未来へ

そして現在「株式会社LONDONBOOTS」は無事始動した。

亮さんと吉本興業はこの会社を介して専属エージェント契約を結んでいる。

先ほども述べた通り、淳さんのこの対応だけで闇営業問題のすべてを解決するわけではないが、いわゆる世間を騒がせ、悲しみを持つ人に加担してしまったことや、その後の吉本との関係の再構築など、非常に必要な手腕を発揮していると感じる。

自分が当時者のそばにいたときに同じように考え行動できるだろうか?

今回の事例が、問題点の切り取りや対策を考える教訓になればと思う。

芸人さんが楽しく明るい笑いを再び届けられるようになるまで、見守っていきたい。特にロンドンブーツの2人を応援していきたい。

最後に二人の晴れやかな門出を祝って活動再開の会見動画をご覧いただきたい。この日の亮さんの目にはもうあの苦悩はない。

https://www.youtube.com/watch?v=LPFPHmGGLM4


笑いを愛し、世の中の人に笑顔を届ける戦士たちの新しい船出を祝いたい。

社会には問題が発生し続けている、その問題に立ち向かい、行動できるのは他でもなくあなた自身なのだ。ロンブーの淳さんのように世の中の空気や世論にまどわされず、自分たちに何ができるかを考え行動していきたい。

私たちにできることを一歩づつ。



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