マガジンのカバー画像

認知言語学のテキスト

44
認知言語学を研究する大学院生が、認知言語学の最近の研究をまとめたマガジンです。1ヶ月に20回くらい更新します。言語学に興味がある人なら、誰でも楽しめる内容になっています。認知言語…
運営しているクリエイター

#言語

認知意味論についての簡単な導入

はじめに進化を続ける言語学の分野において、認知意味論は、言語と人間の認知との関係についての理解を再構築する画期的なアプローチとして、そして認知言語学の一分野として登場しました。この記事では、認知意味論の核となる原理、従来の言語理論との違い、そして言語処理と習得に関する理解への影響について書いていきます。 認知意味論の起源認知意味論は、形式的な言語理論の限界に対処するために20世紀後半に登場した、認知言語学という広範な学問分野に根ざしています。チョムスキーが創始者となった生

認知言語学における最近の研究手法

実験的手法アイトラッキング 視線追跡技術(アイトラッキング)は、認知言語学研究の要の1つと言って良いでしょう。視線追跡技術により、ある刺激に対して人の視線がどこに、どのくらいの時間留まっているかを観察・記録することができます。この方法は、言語処理や読解の研究に特に有効です。Rayner(1998)による代表的な研究では、眼球運動データから読解中の言語処理の時間経過が明らかになり、根底にある認知プロセスについての洞察が得られることが示されています。 反応時間(RT)測定

認知言語学は言語学史全体にどのような貢献をしているのか?

概要認知言語学は、言語が人間の認知に組み込まれていることを強調することにより、言語理解に革命をもたらしました。文字通りの「革命」と言っても良いでしょう。この記事では、認知言語学の理論的革新、方法論、関連分野への影響に焦点を当てながら、認知言語学の言語史への貢献について考察します。 認知言語学の登場によって認知言語学の登場は、生成文法などの形式主義的な言語モデルから、人間の認知能力に不可欠な部分としての言語の理解へと、言語理論のパラダイムシフトをもたらしました。この転換は、言

大学以外で言語学を学ぶ方法

はじめに言語の科学的研究である言語学は、言語の構造、意味、使用について掘り下げる魅力的な分野です。従来は大学の枠の中で研究されてきましたが、現在では、このテーマを自分で探求したい人のために、数多くのリソースや戦略が用意されています。この記事では、大学以外で言語学を学ぶ様々な方法をご紹介します。 1. オンラインコースとMOOC大規模公開オンライン講座(MOOC)は、これまで以上に教育を身近なものにしました。Coursera、edX、Khan Academyなどのプラットフォ

多義性とカテゴリーの問題

こんにちは。ひさのりです。 今回は、多義性の問題について語っていきます。 今回のテーマとなるのは、多義性と、意味のカテゴライズの問題です。とは言っても、あまりしっくりこないと思うので、早速始めていきましょう。 1. この記事の目指すものこの記事では、多義性の概念を掘り下げ、この言語現象を理解する上で重要なカテゴリーが果たす役割を探ります。様々な例を検証し、その認知プロセスを議論していきましょう。(今回は、教育への応用を考えておりませんので、その点はご容赦くださいませ)それ

詳しい認知言語学のあらすじ

I. 認知言語学の草分けたち認知言語学を理解する前に、この新しいアプローチの背後にある思想の先駆者と、言語学の進化について考えてみましょう。20世紀半ばにいくつかの重要な出来事が、認知言語学の基盤を築きました。 1. 構造言語学 フェルディナン・ド・ソシュールや後にはレナード・ブルームフィールドのようなアメリカの構造主義者は、言語の構造とその要素に焦点を当てた構造言語学を支持しました。このアプローチは、ノーム・チョムスキーによる変形生成文法の発展に繋がり、長らく言語学の主

言語テスト研究における「天井効果」について(質問にお答えします)

英語のテストに限らず、学校の定期試験を思い出してみてください。確かに、一夜漬けして暗記したのは辛い思い出ですが、その割に平均点がやたらと高い、みんなが高得点をとっているような試験ってありませんでしたか?(おそらく、定期試験あるあるだと思います)。こういう現象を「天井効果」といいます。 では、言語学的な定義に入っていきましょう? ①言語テストにおける天井効果?言語テストの研究において、「天井効果」とは、テストや評価が、テスト自体が課す上限によって、受験者の能力の全範囲を正確

認知言語学における多義語の研究の最近のトレンド

①多義語とは何か?多義性とは、単語が複数の関連した意味を持つ現象で、認知言語学の魅力の一つとなり、初期の頃からずっと研究されてきました。長年にわたり、研究者は様々な観点から多義性を研究し、言語と意味がどのように絡み合っているのかについて、非常にエキサイティングな進歩をもたらしています。本稿では、認知言語学におけるポリセミー研究の現状と動向について、読者の理解を深めるために具体的な例を挙げながら掘り下げてみたいと思います。 ②多義語を支える理論はじめに、多義語を支える理論につ

Charles J. Fillmoreの認知言語学への貢献について書いてみる

認知言語学者として知られるチャールズ・フィルモアは、語彙意味論と認知言語学の分野に大きな貢献をしてきた。彼の画期的な研究は、言語と認知に関する我々の理解に革命をもたらした。本稿では、フィルモアの特筆すべき業績を取り上げ、その貢献を具体的な事例で紹介する。 ①フレーム意味論の創設フィルモアの最も大きな功績の一つは、やはり誰が言っても「フレーム意味論」の発展でしょう。フィルモアは、特定の概念や状況に対する知識や理解を組織化する認知構造として「フレーム」という概念を導入しました。