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乳をとりもどす話(1)

時の流れとは早いもので、前回更新から一年以上も経過していた。

おかげさまで毎日ヘラヘラ生きてます。
いぇーい。  

術後2回目となる年1の検診も無事クリア。

(エコー時に「脇のリンパが腫れている」と言われてドキッとしたものの「前月に接種した新型コロナワクチンの副反応でしょう」とのこと。
接種の注意事項には確かに「乳がん検診は時期ずらせ」て書いてあった…)

治療としては、今は毎朝1錠の錠剤を服用しているだけ。
それで女性ホルモンを抑制しているだけ。
遊んだり、働いたり、運動したり、酒を飲んだり(飲まれたり)。
特に不便もなく生活できてはいるけれど、やはり毎日目に入ってくる右乳の姿を、何でもないものとして元の体のように受け入れることは難しい。

手術は胸の下乳カーブに沿って行ったので、その痕はスッと一筋の線が残っているだけで遠目から見ても傷かどうか、よく分からない。
診察の際は医師たちに「キレイですね」と言われるし、一緒に温泉に行った友人たちからも「目立たないね」と言われる。
確かに手術“痕”は、キレイだと思う。

でもな、でもなー……

ウワモノはそのままで片側だけ中身をごっそり抜いた胸のこと、人に説明する時は「男女半身みたいな感じ」と言っているのだけど、
実際はそのイメージとも少し違っていて、ぺたんこの右側は、いわゆる一般男性の胸よりもさらにワンランク痩せた、ガリガリの小学生男子のような、あばら骨が浮き出た姿だ。脂肪ってこんな所に存在していたんだな、と知る。
プラスからゼロになったのではなく、マイナスになった感じ。乳首の下らへんが、ズーンとへこんでいる。
タイトルをつけるならば「飢え」とか「渇き」。日本画に描かれる餓鬼のようだと見るたびに思う。
せめて、へこんだ部分がなだらかだったなら。

まぁそんなわけで、
何だかんだ欲しいんだよね。乳。
ボディラインが歪むからブラジャーへの詰め物は必要だし、
それでもVネックの服を着ているとお辞儀で乳首まで見渡せちゃうし、
温泉行く時だって肩からタオルかけて隠すことに気をつかう。
誰かと交際する時だって、交際中だって、交際後だって気になる。
(素敵な人と出会っても、いつカミングアウトすべきか悩む)
まぁ無いものは仕方ないのだけど、それでもあらゆるシーンで余計な苦労やストレスが多少なりとてあるのが現状だ。

検診時、乳房再建について飛猿医師に問うたところ、「再建、できますよ」とあっさり言われて驚いた。
私が手術する寸前に回収&使用不可になったシリコンインプラントは”紆余曲折ありながらも”いつの間にか復活しており、つまり保険適用で再建できるようになっていたらしい。
「やりたいです、なる早で!」と前のめりになると、飛猿医師はフェイスシールドの奥で瞳をきらりと輝かせながら「詳しくはwebで!」とばかりに、形成外科の予約を一応最短で入れてくれ、翌月出直すことに。

一ヶ月後・・・

9月、残暑厳しい中で出向いた形成外科。
予約していたにもかかわらず4時間待たされ、不安に思って受付に3度も確認したのだが「大丈夫です、呼ばれる予定なのでそのままお待ちください」と塩対応。気づけば夕暮れのロビーにポツンと一人。
結局、診察室のドアを開いて私を招き入れたのは、恐縮した表情の代打医師。
予約していた医師は私の診察を忘れて帰ってしまったらしい。
ナニソレ呪うぞ……。

さすがの私もムッとしたけれど、代打医師に罪はない。
さっさと本題に入ってもらう。

代打医師はパンフレットを使用しながら、乳房再建について大きく3つの方法があると説明してくれた。

 ①シリコンインプラントの挿入(保険適用)
 ②背や腹の自家組織を切り取って移植(保険適用)
 ③脂肪吸引のうえ注入する方法(実費)

どれも一長一短だけど、は体への負荷が大きく、そもそもマイボディのポテンシャルでは難しいのでパス。

二年前当初は手術と同時再建が可能な①のシリコン挿入を考えていた。
けれど、時は経ちもはやシリコンを入れる余地などない。
(なので、一度手術で拡張キットを乳に入れ、水風船みたいに徐々に膨らませて皮を伸ばしてから、本チャンのシリコンを入れる手術が必要らしい)
正直、再び胸にメスを入れ、異物を挿入することには抵抗がある。
そしてシリコンを入れた後も、十年後あたりに再度入れ替える必要があると聞いて、それはそれで悩ましく思ってしまった。

となると、選択肢として残されたのは③の脂肪注入である。
もちろんリスクもあるものの、自身の組織を使うという安心感、ついでに余計な脂肪も減らせて最高なのでは?と思われた。
最大のネックは、保険適用でないので実費(多分トータル数百万)ということ。
そしてここまで見てもらっている大学病院では未対応で、処置可能な医院は限られていると言うことだ。
あ〜〜〜〜〜
数百万か〜〜〜〜数百万〜〜〜〜〜
そして症例数は保険適用のシリコンに比べて圧倒的に少ない……。

処置後の症例写真も、ググってもいまいちヒットしない。
けれど、不安を打ち消す言葉が代打医師から発せられた。

「私もよく知っている先生がこちらのクリニックにいますよ。元同僚です。紹介状も出せますけど、どうします?」

大学病院からの紹介、というお墨付きによって、一気に不安が霧散する。

「あっ、じゃあお願いします」

瞬間、そう返事していた。
「自由診療で、脂肪注入する」それが私の答えだった。
かくして、私の治療は次のフェーズに移行したのである。

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