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クローズドSNSが欲しいという話

いきなりタイトルに結論を書いてしまった。
まぁ要するにそういう事だ。

昨年、病気が判明して色んな手続きをしていく中で、「がん経験者専用」SNS(スマホアプリ)の存在を知り、登録してみることにした。
確か、告知された直後のことだったと思う。
(なお、残念ながらそのアプリは最近サービスを停止し、別形態のコミュニティに変わっている。)

確か登録時に、ニックネームとアイコン(イラスト選択式だった)に加えて自身の病名・現在行っている治療内容、年齢や家族構成プロフィール、メッセージを登録した気がする。個人が特定されない範囲で、けれどもそれなりに詳細に項目設定されており、情報はSNS内の患者間のみで閲覧できるようになっていた。
(そのような細かい情報登録によって、患者以外の登録を避けられるようにスクリーニングしていたのかもしれない)

がんは結構センシティブな病気でもあり、匿名で利用できるサービスに気楽さも感じた。
それにここには経験者しかいないので、病状・治療は人それぞれとはいえ、リアルな情報も入手できるだろう。

SNSの構成としては、
①Twitter的な雑多な呟き
②トピックス別の質問コーナー
③企業提供による食生活やリハビリ等に関するコラム
・・・といった感じだったと思う。
トップ画面には登録者たちのアイコンが10人くらい、がんの種類・年齢・性別が記載された状態でランダムに表示されていて(症状別にソートもできる)、自由にフォローしあえるようにもなっていた。

仕事復帰の話やウィッグや下着をどうしているか等は、やはり当事者でないと分からない知見に満ちていて、とても興味深く、勉強になった。
一方で治療による苦しみ・ネガティブな吐き出し等もある。
適度な距離感で活用しようと思った。

登録したからには、まずは呟いてみよう。
……けれど何をどう書いていいか悩ましい。
とりあえず単なる呟きとして
「いままで無感覚だったのに診断されてから妙にチクチクした違和感がある気がする。神経質になっているのかなー」といったことを書いた。
これから何が起こるのかも分からない時期だった。
すると早速、リアクションボタン(いいね、という形ではなかったと思う)が2〜3人から押された。案外反応があるものだ。

数時間後に再びアプリを開いてみると、私の呟きにレスポンスがついていた。
こんな何気ない呟きなんて、ふわっとタイムラインに流れて消えていくと思っていたからびっくりした。
私より10歳ほど年上の同じ病の方からだった。

〇〇さん、初めまして!
私も告知から手術までの日々は痛みを感じました。
不思議ですよね、それまで何も感じなかったのに。
これが「病は気から」なのか、いや本当に癌なんだから痛いんだ!
などと、モヤモヤしていました。
術後も痛みましたが、再生のために体が頑張っている痛みなので、
自分をたくましくも思いました。
とはいえ、今は不安ですよね。なるべくストレスを抱えないよう、ご自身の趣味を通して穏やかにすごしてくださいね。

普段見ているSNSはもっとラフで、時に殺伐とした空気感が見られることもあったから、言葉を選んで書かれたであろう優しく穏やかなコメントに驚いた。
と同時に、何ともいえない感情が湧いて、とても安心したというか、救われた気持ちになったのが強く印象に残っている。

私は「人は人、私は私だし」とこれまで己の感覚や考えを中心に生きてきた。「ダメなら他の手を打てばいいじゃん」と、一人っ子の特性なのか人に助けを求めたり愚痴をいったり泣きついたり、そういうこともあまりせずに生きてきた気がする。
それが楽だったし、「他人がどう思おうと自分が納得してりゃいいでしょ」と、不都合な結果にも自分の選択したこととして「しゃーない」と折り合いをつけてきた。
会社の人格テストでは「協調性・共感力をもっと大切に」と評されたりもした。(そして「くだらねー」などと思ったりもした)

だから、このコメントを受け取った際に、「寄り添って共感してもらえること」というもののありがたみを、初めて実感した気がする。
これか、これだったのか。
「聞いてくださいよ〜」と、答えがない系の悩みを何かと打ち明けてくる後輩や知人たちが求めていたのはこういう共感による安心感だったのか。
(今までは「それ悩んでも状況は改善しないよね?他のこと試したり考えたりしたら?」などと返していた。我ながら冷たかったと思う。)

私の呟きにコメントをくれたのがどんな方だったのか、私も彼女のプロフィールや普段の呟きなど確認して、言葉を選びながら
「コメントをいただけた事がとてもありがたく、また無事に手術を終えられたということで勇気づけられた」旨を返した。

この経験以降も、時折、「心配しすぎの上司が過剰に配慮してくるのが悩ましい」ことや、「薬による副作用で更年期障害みたいになることへの対策」など、数回ではあるけれど呟いたりメッセージをやりとりした。
他者の呟きにヒントをもらうこともあった。
そしてそのやりとりの全てが、皆センシティブな病気を抱えていることもあってか、言葉を選んで思いやりに溢れたものだった。

今はそのSNSサービスはアプリでは利用できなくなっていて、より広く活用していけるWeb専用のSNSになっているようだ。
コンテンツも増えてより充実したサービスになっているらしい。
けれど「患者本人のみ使用可」と謳われているサービスではあるものの、Web版になったと同時に登録のハードルは低くなっており、どうしても衆目に晒された世界に見えてしまって利用に踏み出せない。
(それをアプリ版に呟いたところ、賛同してくれる人が何名もいた)

家族を心配させたくないから、ここでだけ不安を吐き出しているという人もいた。
誰にでも言えない話、当事者でないと分かり合えない事情や機微を汲めるような、匿名で利用できるクローズドコミュニティがあれば、もう少し患者のストレスを緩和できる環境ができるのではと思う。
どうか救いのある世界を望みたい。

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