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乳をとりもどす話(3)

(これは私が脂肪注入による乳房再建を行うまでの話である。またしても数ヶ月ぶりの投稿になってしまった。)

そんなこんなで、手術の話をしようと思う(やっと!)。
私が選択した再建方法は、「脂肪注入」で、脂肪肝細胞を使うタイプ。
自分の脂肪から幹細胞を培養し一緒に注入するというものだ。
手術は完成までに4回ぐらい、期間を分けて実施するという。

1回目の手術は、脂肪肝細胞を採取するための手術なのだが、私の通院したA医院では、初回から注入が可能だった。
(ただしこの回では脂肪肝細胞ではなく、吸引した脂肪を遠心分離でなめらかにして、胸に入れるだけである)
1回目はお腹から脂肪吸引を行う。太ももなどからも吸引可能ではあるのだが、初回は少量の採取でよいらしく、比較的少ない(らしい)腹部から行うことになった。
ポヨンと弛んだ腹がスリムになるなんて一石二鳥、万々歳だ。

手術当日、朝一に病院にIN。
熱・血圧を測り、パルスオキシメーターを指に装着して血中の酸素(SpO2)と脈拍数をカウント。
同意書の読み合わせを行なって、手術によるリスク、術後の生活に関する注意など、重要事項の説明をうける。

ダウンタイムは約2ヶ月。
お風呂は3ヶ月NG。これから到来する冬場もシャワーのみ。
運動や温泉など代謝が上がる事は避ける。
脂肪吸引箇所は着圧タイツを3ヶ月履く。
そして術後の胸に、数週間、冷えピタを貼ること(!)

2〜3時間程度の日帰り手術とはいえ、何だかんだ緊張する。
お守り代わりに、推しグループのツアーグッズであるヘアゴムを手首に巻いて、長袖の上からぎゅっと握っていたら、看護師に「SnowManお好きなんですか?」と突っ込まれて動揺。
看護師は目黒蓮のオタクであった。一気に顔に血が巡る。
実はアクスタをリュックに忍ばせてもいたのだが、それは秘密である。

 Tバックの紙パンツを渡され、タオルをかぶって手術台に横たわる。

白い世界、天井からの光。
ヘルタースケルターの沢尻エリカの気分になる。

「それじゃあ始めましょう」
そう医師が口にした瞬間だった。手術台が揺れた。
否、揺れているのは天井の機材やライトや部屋全体。
某県を震源地とする震度3の地震であった。
(そう、私は運命に愛されている)
手術中にもっと大きな揺れがきたらどうしよう……。思いもよらない不安がやってくる。メスや注射が狂ってしまったらどうしよう。そして建物が危うい場合、私は裸で逃げるのか。
瞬時に色々な妄想が頭を飛び交うが、こればかりは悩んでも仕方なく、運命に身を委ねるしかない。

部分麻酔を何箇所か打っていく。まずは脂肪吸引をする腹部から。
ドキドキが止まらない。手に汗が湧く。
それを見透かしてか、医師や看護師たちは気軽な雑談で場を和ませてくれた。
大学病院とは違い、軽快なBGMが響いている。流行りのJ-popが次々に流れていく。
麻酔はチクチクするけれど、耐えられる痛みだった。
下腹部を細い掃除機のような管で吸引しているのを感じる。
驚くほどに痛くない。
肌を管が通過するイヤーな違和感があるのみで、全然耐えられる。
……そう、甘く考えていた。
へそ周りのエリアに手が伸びる、この時までは。

激痛、ひたすらに激痛。
麻酔とは一体なんだという痛みである。
思わず声を上げる。
「おへその周りは痛いっていう患者さん多いですねぇ」と医師。
比較的痛みには強いはずの私も、ちょっとこれは厳しいかもしれない、いや、いけるか? 我慢できるか? やっぱ無理、無理無理。
この痛みを乗り越えるために何ができるか、マインドコントロールしかない。
とりあえず私はプロレスラーの気分になろうと努めた。満身創痍のプロレスラー、それでも相手の技を受けながら闘うプロレスラー。
彼らがボディプレスを受ける痛みを思えば、ジャーマンスープレックスを受ける痛みを思えば、パイルドライバーを受ける痛みを思えばetc. 麻酔をした私の腹の痛みなどなんてことはない、はずだ。
だがしかし妄想プロレスラーは早々に3カウントをとられ、ヨレヨレと退場した。
プロレスラーでもなんでもないただの人間である私に、この痛みを乗り切れる自信はない。
体全体に力がはいる。
刺されるような痛みである。半端ない。
「切腹して自害する侍の気持ちを思えばなんのこれしき、ですよね」
と声をあげる私に
「ははは、切腹だけじゃ死ねないですからね。痛すぎるから介錯しないとダメなんですよね~」
と冷静なドクターの突っ込みが入る。
そうこうしながら、最終的に私が痛みに絶叫しすぎて、「そろそろやめておきましょう」で脂肪吸引は終了した。
このあと機械で脂肪を攪拌するなどして、胸に入れるのである。
吸引したのは100CCにも満たない量だという。見せてもらった脂肪は血の色で鮮やかな赤、というか朱色。人参ドレッシングのように見えた。

ほどなく脂肪注入が始まった。
先ほどまでの痛みとは異なり、胸は麻酔も効いて感覚がほぼない。
ただ、意識はあるので、長い針が見えたり、その針が皮膚と骨の間のぺたんこなゾーンをゴリゴリ刺していく振動が感じられて、ぞっとするものがある。
医師や看護師が気を紛らわせようとしてか話しかけてくれるのを、必死で受け答えしているうちに手術は終わった。

恐らく手術中、ものすごく力んでいたんだろう、腕や足がわなないている。
(これが翌日、とんでもない筋肉痛として全身に現れる)
看護師が包帯を巻き、テーピングしてくれる。
胸にはマジックテープ的なサラシを巻き、腹まで隠れる着圧タイツを履いて、ロキソニンを飲んだら普通に来た時の服を着て帰る。
もちろん帰ろうにも足がわななき、麻酔のせいで痛みこそないものの、ゆっくりとしか歩けない。
それでも病院を出て、せめても頑張った自分へのご褒美としてお高めのアイスを買って帰る。
帰宅後、極度のストレスから解放されたこともあって一気に疲れがやってきた。
ほんのり発熱しながらじんわりとした痛みと共に、ベッドでうとうとして過ごした。
脂肪吸引した腹からは翌日まで血が止まらず、マジでハラキリ状態。なおこれは病院でアドバイスされたのだが、血が出続けるのでガーゼを交換した後は生理用ナプキンを当てて凌いだ。

抜糸は1週間後。糸は溶ける素材ではないのでパチンパチンと切って、ピンセットで抜き取る。これは本当に簡単で、大した痛みも感じずに終わった。

初回の脂肪吸引&脂肪注入による効果については、次の記事(近日中には……)に書こうと思う。

つづく


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