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Dr. Scott Rossのブログから「どうやって映画産業で1億円を稼ぐか?」(その1)

This is a Japanese translation of Dr. Scott Ross's blog. Please check out the original article to verify the translation. (この記事はスコット・ロス氏の2012年に書かれたブログの翻訳です。翻訳の正確さは保証致しかねますが、日本人にとっても興味深い内容で、映画製作の内幕として非常に面白い読み物だと思います。)

VFX(映画で用いられる視覚効果)を作成する会社の経営は、安定しない。

とにかく運営にお金がかかる。継続的にハードやソフトをアップグレードするための資金が常に必要であり、製作スタッフは変わり続けるし、利益率(マージン)はほとんどないに等しく、操業費用は桁外れだ。クライアントからは常に要求が出続けるし、スケジュールは過密になる、競争はとんでもなく激しい。さらに海外の競争相手は政府からの援助金や税金の免除の対象だ。デジタル・ドメイン(略称DD、訳注: 映画「タイタニック」のVFXを担当)やインダストリアル・ライト&マジック(略称ILM、訳注: 映画「スター・ウォーズ」のVFXで有名)を運営した当事者としては、VFXの会社を立ち上げて一人立ちさせる意味はほとんど無いに等しい。何の得になる?いつ利益が転がり込んでくるんだろう?

まったく皮肉なことに、これまでの映画史上(訳注: 2012年当時)、最高のヒットを飛ばしてきた映画のトップ20のうち19作品はVFXに溢れているし、映画会社スタジオのプロデューサや監督は何千億円というお金を稼いでいる。しかし観客が魅了される映像を作り上げたVFX会社は、良くても水面ギリギリのところで溺れているし、最悪は倒産しているのだから。

輝かしい1980年代の中頃、VFX会社のまだ利益が何年も上がらない状態だったし、利益率は悪くなるばかりだった。じゃ、いったいこのビジネスを「ビジネス」たらしめているのは何だろう?

唯一の答えが自分のコンテンツを作り上げて所有することだ。ピクサー(訳注: ディズニー傘下のアニメーション映画スタジオ。代表作に「トイ・ストーリー」等)を見れば分るだろう。今私たちが話しているのはまさにそれだよ!

この答えに何年も前から気づいていた。だからこそルーカス・フィルム(訳注: 「スター・ウォーズ」の監督、ジョージ・ルーカスの映画スタジオ)を去ってデジタル・ドメインを立ち上げたのである。そしてデジタル・ドメインに居た最後の3年間、コンテンツの作成のみに集中して。だが残念ながら様々な理由によって、成功はしなかった。(訳注: この連載によって彼の口から語られるのは、他では決して語られなかった彼の失敗談なのです。)

私がデジタル・ドメインに在籍していた頃、会社は最高の人材に溢れていた。コンポジット、モデラー、アニメーター、テクニカル・ディレクター、ソフトウェアの開発者、マット画(訳注: 映画の背景として用いられるペイント)を描くアーティスト、モーション・コントロール・カメラのオペレーター、そしてコーディネーター(訳注: 制作の管理を行う役割)たち。その何年も前から、つまり私がILMを運営していた頃も、人材の豊富さと会社の生産性については同じレベルにあったと言っていいだろう。実際、今日でもWETA(訳注:  ウェタ・デジタル、ピーター・ジャクソン氏の「ロード・オブ・ザ・リング」を手掛けたことで有名なスタジオ), R&H(訳注: リズム&ヒューズ、老舗のVFXスタジオでこのブログの掲載後に破産し、現在は別のオーナーによって運営は続行中), ILM, DD, SPI(訳注: ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス、映画「スパイダーマン」のVFXを手掛けた)のどれにも当てはまる。(全部名前が大文字でできているのはなぜだろうか?)

私は世界でも有数のVFXスタジオをピクサーとよく比較する。つまり、ピクサーが今のピクサーになる前は何だったのだろう?あるいは、ブルースカイは?ドリームワークス(PDI)は?それらの会社は今日の大きなVFX会社と大差なかったのだろうか?ピクサーのDNAはILMとほとんど同じだったのだろうか?PDIはILMとコマーシャル映像の分野で直接の競合だったのでは?私にとってみれば、その当時、答えは単純にイエスだ。

じゃ、先に挙げたVFX会社は細々と生きながらえているのに比べて、ピクサーは何億円も稼いでいるのはどうしてだろうか?コンテンツだよ。ピクサーは製品を作り上げているのに比べて、VFX会社のサービスは、映画をマーケットに訴えてプロモートするための映像を作る手助けをすることによってできるビジネスに仕えているだけなんだ。

最近はいくつかのVFX会社がコンテンツの製作をしたいと考え始めているみたいだ。デジタル・ドメインはその一つ。情報によると、映画「エンダーのゲーム」に(VFXにかかる費用を後回しにするための方法として)かなり投資したみたいだ。映画「エンダーのゲーム」はギャビン・フッド (訳注: Gavin Hood、映画「Xメン ウルバリン」の監督)が監督し、「トワイライト」3部作を配給するサミットが配給することになっている。(訳注:「エンダーのゲーム」は2014年に日本でも公開された。)

付け加えると、彼らはフロリダのPort St. Lucieにアニメーション・スタジオを建てた。そしてGレート(訳注: 一般向け)のCGアニメーション映画である「テンボの伝説(The Legend of Tembo)」のプリ・プロダクションを開始した。赤ちゃんの像が活躍する家族向けの映画である「テンボの伝説」には、まだスター声優もキャスティングされておらず、配給も決まっていない。監督は、ディズニーの「ブラザーベア」のそれぞれ監督とプロデューサである、Aaron BlaiseとChuck Williamsのコンビである。両者ともデジタル・ドメインが所有し、フロリダ州がお金を出して運営しているTradition Studioesの社員となっている(※)。アメリカ合衆国内で作成されるアニメーション映画の費用は製作に125から200億ドルはかかる。大金だね!そう、コンテンツビジネスは困難で、高価であり、リスクも大きいんだ。

しかし1999年のこと、私はデジタル・ドメインでとうとう、自分たちでプロデュースするコンテンツとして映画をつくる決断をしたんだ。(続く)

※残念ながら、タイトル画像にもある「テンボの伝説」はスタジオの閉鎖により未だに陽の目を見ることはありません。監督の一人である Chuck Williams は日本のアニメーション・スタジオで、後にプロデューサとして活躍することになりました。

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