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誰も読まない映画評 その4 「マッドマックス フュリオサ」


キツキツな映画なわけ(注意;ストーリーと無関係なネタバレあり。)

ぜひぜひnoteで取り上げたいと、「それでも恋するバルセロナ」の映画評を書いていたときから待ち望み、全米公開初日に鑑賞(日本は5月31日公開予定)。
一方、興行収入は「メモリアル・デーとしては最悪」との悪評ばかり。
特に昨年は同時期公開の「リトル・マーメイド」(日本公開2023年6月9日)が9500万ドルの成績だったのに対して、「フュリオサ」は2590万ドル、と4分の1程度の収入との評価が。

え、ちょっと待ってください?ディズニーの名の知られたアニメの実写化と、成人指定のアクション映画を比較してませんか?(←キツキツなポイント1)
(ちなみに同日公開のアニメーション映画「ガーフィールド」も興行成績2470万ドルと振るわなかった。)

そもそもこの映画って「フュリオサだけがマッドマックスじゃない!」とばかりに、「フュリオサの母親メリー」、フュリオサのメンターとなる「警護隊長のジャック」そしてクリス・ヘムワーズ演じる「ディメンタス」に加えて、もちろん(前作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の中心であった)「イモータン・ジョー」と主人公が5人いるといってもおかしくない、過去に例を見ないほどに壮大な「前日譚」なのである。(←キツキツなポイント2)

そして意外にも、観客からの評価を測るRotten Tomatoesの成績は90%と高いものの、出口調査的なCinemaScoreはB+とAがついていないのも現実。(←キツキツなポイント3)

マッドマックスの世界観が圧倒的なビジュアルで展開する爽快な出来だったが。

どうしてお客さんが来なかった?

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の制作発表時から本作の構想は発表されていたので、実に長い時間を経て映像化されたと言えよう。今一番跳躍力の高い女優とも言えるアニヤ・テイラー=ジョイを起用した時点で勝利は確実かと思われたものの、興行的には成功とはいい難い結果に。アニヤ・テイラー=ジョイと言えば、最近ではピーチ姫(「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」)の他、ネトフリのヒット作「クイーンズ・ギャンビット」、文芸映画「EMMA エマ」とあらゆる役柄をこなしているわけです。
でも実は彼女の(特に同年代の)ファンが見たいのは成人向けアクション映画ではなかったのかも、という気も致します。そういえば、彼女がミュータント役で登場したX-MENのスピンオフ映画「ニュー・ミュータント」(2020年8月全米公開)は、コロナ禍の中でかなり静かなリリースでした。

となるとスターの集合で勝負といいたいわけですが、「怒りのデス・ロード」チャーリーズ・セロンとトム・ハーディのタッグに比べて、あまりに「マイティ・ソー」の印象が強く残っているクリス・ヘムワーズと(どちらかというと線の細い役で注目されてきた)アニヤさんだと、成人向けアクション映画のオーディエンスに対する引き具合はちょっと弱かったのかもしれないです。

個性的なキャラクターとメカが多数登場する比類なき作品に仕上がった本作だったが。

フランチャイズのジレンマ?

この映画は紛れもない「マッド・マックス」フランチャイズの映画なんですが、そもそもキャラクターとしてのマッドマックスは出てこない、というのも事実であります。

では「フュリオサとは誰だ?」という答えは「怒りのデス・ロード」を観た観客の頭の中にしか残っていないのもまた事実。しかも「怒りのデス・ロード」は2015年公開ですから10年近くも経っているのです。
しかしこの規模のアクション大作映画はフランチャイズの看板なしには作られない(特に成人向けならなおさら)なのもハリウッドの事情であり、「世界観は同じだけど別のキャラクター映画」という切り口で観客を誘導する困難さがつきまとっているのではないでしょうか。

夏の大作映画として「フォール・ガイ」と同じように「オーディエンスの不在&スターのパワー不足」で失敗という文脈で本作の興行成績が語られるのは残念です。
言葉で明確に語られる哲学も美学もなしに「ただただ自分の映像化したかったアクションだけを完璧に大きなスクリーンで魅せる」という点で、かなう者がいないジョージ・ミラー監督の2時間半におよぶ大作が観られるだけで、自分としては大満足だったのですから。

「フォール・ガイ」はフランチャイズではないわけですが、今夏は7月に「デッドプール&ウルヴァリン」というまたしてもフランチャイズ主導の成人向けのアクション映画が控えています。そちらの方の興行成績を心配する声は出ていませんが、今年の夏はボックス・オフィスにとっては冷夏となるのでしょうか。ブルブル…(つづく)。


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