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誰も読まない映画評 その3「フォールガイ」


サマーシーズンのスタートには珍しい(ほぼ)オリジナル娯楽大作

ハリウッド映画はサマーシーズンの第一弾として娯楽映画を出してくるのが、例年5月の一週目であります。
今年は(80年代のテレビドラマの映画化という触れ込みではありますが)よく知られたヒーロー物やその続編ではない娯楽映画として、ライアン・ゴスリング主演の「フォールガイ」が既に興行収入でトップになると予想されています。(出典: BOX OFFICE PRO)
日本公開は8月16日とまだ3ヶ月も先でありますので、今回はハードなネタバレは一切なしです。映画の紹介はeiga.comさんの秀逸な作品ガイドをどうぞ。

この映画を見に行く理由: ライアン・ゴスリングのスタジャン

スタジャンが似合う男、ライアン・ゴスリングのジャケ写。

さて、ライアン・ゴスリング。ケン役の昨年の大ヒット「バービー」が記憶に新しい。今回もスタジャンがよく似合うスタントマン「コルト」を颯爽と演じているわけですが、彼がスタントマンを演じるのはこれが二度目。
2011年の忘れがたいインディの傑作「ドライブ」(カンヌ映画祭監督賞受賞!)でも、スタジャンを着て常にクールな仕事人としてのスタントマンを演じた時から、その存在感が増量。後の「ブレードランナー2049」(2017年)や「ファースト・マン」(2019年)といった寡黙なキャラクターに繋がったのでしょう。
(ちなみに大ヒット作「ワイルド・スピード」の影響か、「ドライブ」は上映後に観客から「レースのシーンがないのでお金を返してほしい」とクレームが殺到したという逸話もあります。それぐらい静かな映画なのです。)

コメディからアクションまで何でもこなすエミリー・ブラントが今回は映画監督役

映画監督の役作りはグレタ・ガーウィグ(写真右下)も参考にしたというエミリー・ブラント

しかし本映画はエミリー・ブラントなくしては出来なかったのではないでしょうか?昨年のこれまた「バービー」同様に大ヒットとなった「オッペンハイマー」への出演の他、近年ではSFを始めとしたハードなアクションもこなせる女優という印象の作品も多いです。
例えば、トム・クルーズと共演した「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014年)、「ボーダーライン」(2015年)、「クワイエット・プレイス」(2018年)あたりでしょうか。

そもそもエミリーがアメリカで有名になったのは既にクラシックとなっているコメディ映画「プラダを着た悪魔」(2006年)からであり、その後もエイミー・アダムスと姉妹を演じる「サンシャイン・クリーニング」(2009年)、その他アニメーション映画「ノミオとジュリエット」(2010年、日本未公開)や宮崎監督の引退(すると当時本人が明言していた)作品「風立ちぬ」のアメリカ版吹き替えもこなす才能溢れるスターであります。

アクション、ロマンス、スタント盛りだくさんの映画、きっと日本でもウケるはず。

プレミアではサタデー・ナイト・ライブで披露した「ビービス&バットヘッド」へのホマージュも再結成された。(右)

今回のエミリーは「メリー・ポピンズ」(2018年)に続いて、イギリス英語のアクセントで話すところもツボ。「彼女が演じるジョディは元々メークアップ・アーティストの役だったところ、映画の監督の役になった」という話ですが、その変更によって撮影現場でのリーダーシップの裏にある苦悩がシナリオの中でより強く表現されているように思います。彼女が内面をさらけ出そうとする度に、スタントマンであるコルツとの距離が縮まっていく、という寸法なのですが、ここら辺いわゆる「大人のロマンス」映画としての役割をコメディとアクションの中に盛り込んだ、この映画の面白さに直接繋がっています。
本人のネイティブ・アクセントを使って話すことで、一層ジョディというキャラクターの「ハリウッド、強いては映画製作の現場の中で感じる孤立感」が際立っていると感じるのは私だけでしょうか。(ただし映画の中でのロケ地はオーストラリアのシドニーであり、ハリウッドではないのですが。)

というわけで主演二人が水を得た魚のように生き生きとそれぞれのキャラクターを演じる娯楽大作。映画の制作現場が舞台という、ちょっと玄人が好きそうな設定も含めてこの夏必見の映画第一弾と言えそうです。
では必見第二弾の映画は...次回にとっておきます。(つづく)


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