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米国永住権保有者の国籍におけるオプションと日米に渡る税のメモ #1

第一回: 永住権の先へ

はじめに

重要:私は法律と全く関係のない仕事をしている完全な素人です。何かアクションを起こす場合は、必ずライセンスを持ったCPA、弁護士、日本の税理士など専門家の意見を仰ぎましょう。また以下の情報は、2020年9月現在の調査に基づきます。税法や移民関連の法律は頻繁に変わりますので、必ず最新の情報を確認してください。特に多国間にわたる税務を正しく扱える専門家は少ないです。専門家選びも慎重に。

最近渡米をされた皆さん、永住権は取得できましたか?もしそうならおめでとうございます。あなたは米国での居住と自由な就業の権利を手に入れました。もう仕事をしてもしていなくても、米国からいきなり追い出されることはありません(おそらく)。

しかし、米国の永住権を得るということは別の一面を持ちます。それは、あなたが税法上のUS Personになったと言うことです。そして8年後には、世界中の富豪を震え上がらせる有名な国籍離脱税の対象になります。

本稿は、人生も半ばを過ぎ、最終的に自分にはどのようなオプションがあり、各オプションにはどんな問題が存在するのかを考え始めた私のメモです。あくまで素人が本や専門家から聞き齧ったことのまとめだと言うことを考慮の上読み進めていただければ幸いです。生まれた国ではないところでキャリアを積み、生きて行くというのはそれなりに大変です。私は高校を卒業し、浪人生という事実上の無職期間(恥ずかしながら、受験に関係のない本を図書館で読んでいただけでまともに勉強していませんでした)を経た後に、アメリカに何のツテもないまま留学生として渡米しました。それからすでに四半世紀以上住んでいますが、流石に生活には慣れたとは言え未だ色々と不便は感じます。特に私は配偶者も日本人ですので、頼れる米国人の身内もおらず、なかなか面倒なことも多いです。私と同じような悩みを抱える新移民の方々の参考になればと思い、このメモを公開します。

また、現在アメリカへの移民を考えている人は、以下のような問題が移民した時点から始まるということはよく覚えておいてください。スキルのある人にとっては、アメリカはそれを高く買ってくれる挑戦しがいのある国です。しかし、日本から出なければしなくて済む苦労もまた多いのが現実です。

移民により自分が得るものは何で、失うものは何か?

そういったことを考えるきっかけになれば幸いです。日本の外で腕試しをする若い人々を個人的にはぜひ応援したいのですが、安易に諸手を挙げて誰にでも推奨できるほど簡単な決断ではないというのも現実です。

永住権取得後の日本人の人生における可能なオプション

あなたは永住権を取得し、米国で仕事を始めました。仕事も軌道に乗り、まずまずの収入も得て、ひとまず米国でキャリアを構築して行く決心はしました。しかし、その先にはどんな選択があるのでしょうか?ここではまずそれを考えてみます。この問題を考える上での大切な前提として、日本国政府は日本人の二重国籍を認めていません。よくある勘違いが、米国生まれの「事実上の」二重国籍者と、自ら市民権を申請した元日本人の混同です。前者は、22歳以降も「国籍選択の最終決定を先延ばしにする」と言うテクニックで二重国籍状態を維持し、二つのパスポートを合法的に所持できます。しかし後者は、日本の法律が外国籍の能動的な取得により日本国籍は自動消滅すると規定しているため、米国市民権取得後に日本のパスポートを使って日本に入国すると、明確な旅券法違反になります(外国人が偽造パスポートで日本に入国するのと同じ扱いになります)。以下、米国政府、日本政府それぞれの二重国籍に対するスタンスを述べた文です。

重要なのでここは引用しておきます:

「インターネット上などでは,米国籍を取得した後もパスポート申請時に米国籍がある事実を伏せれば日本のパスポートを取る事が可能でそのまま二重国籍でいられるなど,誤解に基づく誤った情報が散見されます。しかし,これまで説明したとおり,日本国籍者が米国籍を取得した場合は米国籍取得時点で自動的に日本国籍は喪失しており,その事実(米国籍を取得した事実)を伏せて日本国旅券を取得した場合には法律による処罰の対象となります(外国人が虚偽の申告をして日本旅券を不正に取得したと考えれば,その違法性が分かるかと思います。)ので,このような行為は絶対に行わないようにして下さい。」

現実問題として、日本の法を犯してアメリカ市民権を取得した後にもずっと日本のパスポートを更新している人も数多く居ます。これは現行法では明確な違法行為なので、私は決してお薦めしません。捕まった場合、犯罪者としてのその後の人生は楽ではないはずです。「正義感ぶって下らないことを言うんじゃない、黙ってろ」と言うお叱りの声もあるかと思いますが、私は違法行為の告白や喧伝は、する方にも聞かされる方にもプラスにならないと言うスタンスですので、以下、違法行為を行わないと言う前提で議論します。

しかし一方で、強制的な日本国籍の喪失は日本人に残酷な選択を迫る法律でもあります。ご存じない方も多いので補足しておきますが、どれだけ長くアメリカで生活しても、永住権の場合、一年以上にわたってアメリカを離れると永住権が剥奪される可能性が高いです。つまり、親が長患いをしたので介護のため数年帰る、と言った選択肢は事実上不可能です。また、今回のコロナ騒動で図らずも表面化しましたが、永住権保持者であっても、市民ではないため生活基盤のある居住国に入れてもらえないと言った問題が多発しており(つまり、新たな市民権を取ると元の国籍が剥奪されるため永住権で滞在していると、今回のような緊急時に生活基盤がない国籍保有国に取り残されるという危険が生じる)、これは二重国籍を許さないことによる一種の人権侵害だとも言えるので、それを憲法違反として争っている訴訟があることも知っておいてください。

http://yumejitsu.net/

私もいつの日か日本政府が人権救済の一環として二重国籍を認め、この狭間で悩む我々のような人間を救ってくれることを祈っています。しかし現状の法律はそうなっているので少なくとも今は諦めるほかありません。"dura lex, sed lex"というやつです。

さて、このように二つの国籍を維持できない場合、我々米国永住者にはどのような選択肢があるのでしょうか?以下で考えられるシナリオを検討してみます。

1. 米国市民権を取得しアメリカ国内で一生を終える
最もシンプルで潔い方法です。アメリカ人になるのですから、米国人と同じように納税し、一生自分でタックスリターンをして、最後はシニアコミュニティやナーシングホーム(介護付き施設。凄まじく費用が高く、保険ではカバーできないケースも多い)に莫大なお金を払って、アメリカに骨を埋めます。お子さんがアメリカで生まれた場合は、その方々のヘルプも期待できるため、高齢期によくある老化により高次脳機能が失われ第二言語としての英語が話せなくなるという問題も、バイリンガルのお子さんの助けでなんとか解決することが可能なはずです。若い場合は予備役登録や、陪審員の義務と言ったものが生じますが、死後もアメリカ市民としての巨大な控除枠(十二億円以上。ただし今後見直し規定あり)を利用し、遺産税を払わず子孫に大きな財産を残すこともできます。もちろん選挙権も得られ、大統領選にも参加できます(残念ながら大統領にはなれません。アメリカで生まれないとダメなので)。しかしその代償として日本の国籍は失います。日本に長期で帰りたい場合は日本の滞在ビザが必要になります。

2. 永住権を長期で保持して最終的には日本に戻る
永住権は10年ごとの更新ですが、これをずっと繰り返し、最後は永住権を放棄して日本へ永住帰国するというシナリオです。アメリカから短期で日本に帰ることは可能ですが、一年を超えるような海外での滞在は厳しく制限されます。また、現在のアメリカ政権のような移民に厳しい大統領が生まれた場合、法改正や大統領令により、それまで享受できた権利が失われていく危険性は十分にあります。またどんな微罪でも、法を犯すようなことがあれば常に強制送還の危険性があります。当然米国での選挙権はありません。しかし日本国民ではあるので、アメリカの永住権を諦めればいつでも日本に帰ることができます。しかしそれまでに築き上げた資産をどう日本へ移転させるのか、そしてどうやって日本で新しい生活基盤を構築するのかと言う点は大きな問題です

3. 永住権のまま米国で一生を終える
日本人は、米国市民権を得ると日本国籍を剥奪されてしまうと言う厳しい選択があるため、このオプションを選ぶ人もいます。これは実務上の問題というより移民第一世代のアイデンティティの問題かもしれません。私の友人だった方も、かつて不幸にも若くして永住権保持者としてカリフォルニアで亡くなりましたが、そう言うシナリオも十分あり得ます。幸い、相続に関しては米国在住であれば、domicileのある永住者としての権利で市民に準ずる控除が使えます。

4. 米国市民権を保持した元日本人として日本に住む
日本国籍を捨ててアメリカ人となった場合でも、日本には元日本人を対象にした幾つかのビザのオプションがあります。したがって、そう言った日本長期滞在ビザを使い、米国人として日本に永住することも不可能ではありません。この場合、戻りたくなったらいつでもアメリカに帰ることもできます。しかしこの場合、一生アメリカと日本で税務申告を行う必要があり、これがまた複雑で大変なようです。特に老人になった時には…コントロール可能なものでしょうか?ちなみに、アメリカ人が海外に住んだ場合、これがもっとも彼らを悩ます問題のようです。そのためにアメリカ市民権を諦める人すらいます。

5. 米国市民になった後に最後は日本に帰化する
同じ外国人でも、「元日本人」には特別な道があるらしく、帰化が比較的容易なようです(ただし一回のみ)。

ここで注意が必要なのは、米国側は消極的に二重国籍を認めているため、自分でお金を払い、国籍離脱の手続きをしなくてはアメリカ市民のままです。お金を払って東京の大使館でインタビューを受けたりと、なかなか骨の折れる作業のようです。かと言って無視すれば、死ぬまで米国のタックスリターンとのお付き合いです。

以上が永住権保持者の人生の代表的なパターンです。どれも一長一短あり、簡単に決められるようなものではないことはお分かりいただけるのではないでしょうか。さて、この全てのシナリオに現れる、実際に選択する上で非常に重要かつ厄介な問題が税です。非常に複雑な上にニッチな分野で情報も少ないため、特にアメリカ国外で暮らす道も考えている人には大きな問題です。以下ではそこに焦点を当てて考えます。

アメリカ滞在歴がまだ浅い時期の諸問題

アメリカに移民する人々の中で、日本人には特有の問題があります。それは、移民後10年間はアメリカに住んでいても、夫婦の一方がアメリカ人であっても、日本の一部の税の対象になる、という事実です。これはかなり厄介なものです。以下で詳しく見ていきます。

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(国税庁のサイトより)

十年ルールとは?

これから議論する問題の源泉は、日米における夫婦間の財産の帰属問題に帰結します。日本では、民法で以下のように規定されています。

第762条【夫婦間における財産の帰属】

1. 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。

2. 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

私のような法律の素人からすると随分硬い言い方だと感じますが、要するに、結婚した後も、夫と妻の資産はそれぞれ原資を稼いだ人に帰属すると言う考え方です。例えば、夫の勤務先から夫の銀行口座に振り込まれたお金は夫のもので、逆にこれを妻の口座に振り込んだ場合は贈与とみなされます。

一方、アメリカ(もちろん州ごとに違いはあるのですが、ここでは私の住むカリフォルニアを例に考えます)では、夫婦は税の仕組みから見て一体の人格のように扱われます。例えば、婚姻後に得た資産(各々の給与)は、夫婦の所有物として扱われます。名義上は別々になっていても、離婚協議などではあくまで二人の資産だと言う扱いで話が進みます。これを「同一世代間の財産移転免税」といいます。つまり、そもそもアメリカ市民や永住者にとっては、夫婦間での贈与という考え方そのものが存在しないのです。この(区分所有ではない)共有財産という考えが日本の法律にないため、様々な問題が生じます。

もし日本人夫婦がアメリカへ移民した場合、出国から10年間はこの日本の法律とアメリカの法律の両方に注意しながら生活する必要があります。アメリカで通常の勤務をし、Form W-2で税務申告をしているような場合には特に日本での税務について意識することはないと思います。アメリカで適切に税務申告を行えば、それで完結します。しかし、いくつかのケースで日本の税務署が絡んでくることがあります。それは海外資産報告、贈与、そして相続です。特に現役世代に関わる問題としては、日本の資産報告と銀行口座や証券口座の開設や住宅購入です。まず、渡米十年以内の人々が直面するであろう住宅購入や夫婦共同名義の口座に関する諸問題について考えます。これらは私が実際に行ったことでもあるので、その経験と税理士からのアドバイスに基づくものです。

なぜ十年なのか
少し話がずれますが、なぜこんな法律があるのかという点について少々。実は、この法律ができたのはそう昔のことではありません。その前は海外へ資産を持ち出し、贈与税のない国に住所を持ち贈与を行えば、何億円でも無税で合法的に贈与することが可能でした。それを防ごうと作られたのが5年ルールです。すなわち、出国後5年間は日本の無制限納税義務者のままで、世界中の資産が課税対象になるという法律です。つまりこれらの法律は、超富裕層の国外財産を使った節税スキームに歯止めをかけるために作られたものです。もともと海外に生活基盤がある我々は、いわば貰い事故状態です。以下の事件は、そういった法律が整備されるターニングポイントになったものです。


(これまた余談ですが、上の企業のようなサラ金の違法な利率が問題になったあと、過払金返還ビジネスが一気に花開きましたが、それにサラ金関係者が一枚噛んでいたという事件が先日ニュースにありましたね。弱者からとことん搾ろうというスピリットが凄過ぎて少し引きました)

その後、超富裕層と呼ばれる人々は、諦めて日本で税金を払う、資産管理会社を立ち上げてそれで節税するなど対応は別れました。しかし、その中で正面突破を試みる人々が現れました。つまり、親、子、孫の三世代でシンガポールや香港に移住し、5年間を過ごした後贈与を行うという合法的な節税方法です。これに怒った(?)国税は、相当な覚悟がなければ移住できないであろう10年ルールを定めました。海外での生活経験がない老人が、節税のためだけに10年以上慣れない国で過ごすのは不可能だろう(もしくはその間に死ぬだろう)という読みからです。その結果、我々のような関係のない海外在住者にまでそのルールが適用されることになってしまいました。

いくら貰い事故とはいえ、これも守らなければ税務署は我々に多額の贈与税や相続税をかける権利があります。税務署も、もともと我々のような海外在住者のケースは想定していなかったようで、積極的に追って来ようとはしない(?)でしょうが、ルールはルールなので、彼らが知ることになればその時点で追徴課税です。ではどうやってそのようなトラブルを避けることができるのか考えます。

脱税とモラル

ここまで書いたことは法的には正しいのですが、実際の運用はどうなっているのでしょうか。本当に日本の税務署はアメリカまで追ってくるのでしょうか。結論から言えば、それは私にはわかりません。「正論振りかざして、お前はすべての法律を守って生きているのか?」と言われれば全く自信はありません。そもそも昔スピード違反で罰金を払ったりしていますし… ただ、日本と縁を切り、いずれは米国市民権をとって絶対に日本に帰らないと決めている方は、高確率でこう言った税を踏み倒すことが可能でしょう。ですから、そう言った人々にとっては、この問題はお金の問題というよりモラルの問題です。ですからその判断はみなさんに委ねます。

私自身は、アメリカと日本の間で揺れ動く日本国籍の米国永住者という不安定な立場ですので、どちらの国の法律も出来る限り守ろうと努力はしています。そのため、バカバカしいと思うようなこともひとまず実際に行っています。例えば、夫婦できちんと各種アカウントや自宅の所有区分を分け、別々のトラスト(後述)を作成するには数千ドルのコストがかかりますし、時間も必要です。これらの作業は自己満足かもしれません。でも、人生何があるかわからない(もし日本で十年以内に相続が発生した場合は?)ので、そう言った法的リスクは最小にしたいという方は参考にしてください。

住宅購入に付随する問題

ここからは具体的なケースについて述べます。まずは大きな問題である自宅の購入に関してです。

住宅購入は渡米後十年以内に行うという人も多いでしょう。アメリカ、特に都市部の住宅は高いです。築40年という日本だと徐々にゴミ扱いされるような物件が、場所によっては軽く億の単位に行きます。米国では、自宅は自らの資産を蓄積する媒体として利用されるため、一定の需要のある地域では流動性もそれなりにあり、高い価格でも買うことに合理的な理由があります。その上、住宅は必需品なので税的にもキャピタルゲイン関連やローン金利に関する控除など優遇されている面も多く、できるだけ長期(30年固定など)の低金利なローンで目一杯借りて、手元のお金はそれ以上の期待リターンのある金融商品で運用することがごく当たり前に行われています。これが可能なのは、長期で見た場合、デタラメな物件をつかまない限り中古住宅の価格は横這い、もしくは緩やかな上昇を見せることがあり、低リスクでレバレッジをかけることができる数少ない金融ツールとして機能するからです。つまり、在米邦人にとって住宅問題は、日本で時々見る「持ち家vs賃貸」とは全く違うマインドセットで望む必要がある問題です。つまり、自宅を買うことは一種の投資です。そのため、そう言った「投資商品」に誰がお金を出してどのように所有するのか?は税と密接に関わってきます。

米国での住宅の所有形態
また、米国では自宅の所有形態も日本とは大きく異なります。日本の場合、不動産を共同名義にするのは、遺産相続の結果、家を分けることができないからしかたがない、という理由が多いように思えます。購入する時は、お金を出した人、ローンを組んだ人の名義になることが一般的です(間違っていたら教えてください。日本のその辺りの事情は詳しくないので)。そして、その共有という形態も、それぞれの持分がきちんと割合で明記されます。しかし米国では、誰がどのようにローンを組んだかに関係なく、多くのケースで夫婦の共有財産として登録してしまいます。つまり、あたかも夫婦二人が一人の人物であるかのような所有形態が存在します。Joint tenancy / community propertyなどと呼ばれる方式がこれに該当します。これには持分の割合の記述などはなく、二人が一人の人格として物件を所有します。

この共有方式は日本には存在しません。アメリカにはプロベート(後述)という仕組みがあるため、このような所有形態にして相続時に余計な問題を回避するのは合理的です。

ここで「共有」というのは、日本の税務当局から見ると、夫婦それぞれが50%ずつ権利を持つということとほぼ同義だと解釈して問題ありません。つまり、1億円の家を購入すれば、五千万円ずつの価値を夫婦それぞれが持ちます。しかしこれは日本の税法から見て何を意味するかと言うと、米国で自宅を購入し、夫と妻が全く同じ金額を出資しない限り、差額に対して日本の贈与税が購入時点で発生するということです(みなし贈与)。最近は少なくなりましたが、一昔前によくあった男性が駐在員として渡米、その後妻も専業主婦として渡米、アメリカが気に入ってそのまま永住権取得、というケースを考えます。こういった場合、妻が専業主婦なのでローンが通らないため、夫名義の口座から頭金を出し、そのまま一人でローンを組むという場合も多いです。この時、家の価格が80万ドルで、それを薦められるまま共有名義にします。すると、妻にも40万ドル分の権利が発生します。この時点で、日本の税務署は、夫から妻に対して四千万円以上(為替レートによる)の贈与が行われたと判定します。しかしこの事実を知らずに、贈与税を踏み倒している日本人は大変多いです。ですが、金額が大きい(数千万円の脱税になることもしばしば)ので、バレなければ良いと言う考えは個人的にはとても危険だと感じます。くれぐれも慎重に判断してください。特に注意した方が良いのは、日本で相続が発生する可能性がある、日本の実家が自営業で税務調査の対象になる可能性があると言った場合です。また不幸にも早くに配偶者を亡くした場合、一方の出資分が低ければ、共有名義でも十年ルールに引っかかれば相続の時に日本で相続税が発生します。特にこの場合は、ほぼ確実に課税されます。必ず日本で手続きを行いますので。

イントロのつもりが非常に長くなってしまいましたので、この続きは#2で述べます。次回は、実際にどのような実務的手続きで安全に夫婦の所有権を分けられるのかを検討します。

P.S. これらの法律を知らずに全く悪意なく日本の税を払っていない日本人の方が大勢いらっしゃいます。本当に知らない人の方が多いので、彼らを責めるのはやめましょう。あくまで自己責任なので。ですから在米邦人の方々とお話をするときにはこれを話題にしない方が良いです。相手が悪意なく脱税をしている場合、地雷を踏み抜くことになります。世の中には人間関係にとってよろしくないので、知らない方が良いことも多いのです。

(Part 2へ続きます)

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