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『正チャンの冒険』読者投稿欄のご紹介(3)

こんにちは!!災厄級の暑さが続いておりますが、皆さまご無事でしょうか?今週も読者投稿欄についてご紹介して参ります。



朝日新聞1924年1月17日朝刊

◇正チャンより
皆様から地震のお見舞いを、いただきまして、厚くおれいを申し上げます(記者)

前年に関東大震災があり、まだ余震の影響があったのでしょうか。あれだけの地震だったので、当時の皆さまはかなり敏感になっていたことが想像できます。

そんな中、編集部宛に正チャンへの地震のお見舞いが届いたようで、記者の方が代わって誌面上でお礼を述べています。わざわざ誌面でということなので、おそらくは数件ということではなく、何十件と届いたのではないでしょうか?正チャンの人気の高さをうかがわせるエピソードであると同時に、当時の方々が、正チャンというキャラクターに対して、何か実在性のようなものを感じられているような気がしてほっこりします。

今でこそ推しの生誕祭には各方面から多くのプレゼントが届くということが珍しくはなくなりましたが、そういった運動の走りと言えるかもしれません。正チャンを推されている方が多かったのですね。

こちらの投稿も、お子さん(だと思います)正チャンを実在しているかのように感じて、正チャンの体調を心配されているものです。

朝日新聞1924年1月23日朝刊

夕べはちょっと、まどをのぞくと外はずいぶん寒そうでした、わたくしは正ちゃんのことを思い出して正ちゃんは今ごろ何をしているだろう、こんなに寒くてはかぜでもひかなければよいがと思いました そうして床についてすぐねむってしまいました。今朝正ちゃんはどうかと思い、いそいで朝日新聞を見ると正ちゃんはやっぱり、げんきに冒険をしていてあんしんしました。

心配しているんだけど、床につくとすぐ寝てしまっているところが愛くるしいですね。翌朝の朝日新聞誌上で正チャンが冒険を続けていて安心したということですが、このマンガがどこかで実際に起こっていることをリアルタイムにレポートしているものと感じている様子がうかがわれます。

その隣の投稿では、リスが微妙にディスられていてちょっと面白いです。

この頃から、このような正チャンを実在するかのように捉えていると思われる投稿がかなり増えてきます。以下、一部印象的なものをいくつかご紹介します。

朝日新聞1924年2月23日朝刊

宅の六つになる子供が日曜に花月園に行って帰って来て「お父さま、今日有楽町で電車から見たら、大きなお家の屋根に赤い太陽の旗が立っていました、そうして大きいお兄さまが「あれが正チャンのお家だよ」と仰ったが、あんな大きなお家があるのになぜ正チャンは●●をしたのでしょう?」と聞きました、記者さま何と返事をしたら良いでしょう

花月園というのは、かつて横浜の鶴見区にあった遊園地です。一説によるとフランスのフォンテーヌブローにあった遊園地をモデルとし、当時は珍しかった観覧車やメリーゴーランドもあったそうです。広さも2万5000坪(1925年に7万坪に拡大)で、当時は東洋一と言われたそうです。

いいですね。楽しそうで。現在の京急・花月総持寺駅が最寄駅だったそうで、品川で乗り換えての有楽町通過だったのでしょうか。ちなみに「大きなお家の屋根に赤い太陽の旗」というのは朝日新聞社の建物のことですね。少なくともお子さんの間では「朝日新聞=正チャン」の構図ができていたんだなと感じられます。

朝日新聞1924年2月24日朝刊

この間●向うのヤンチャン坊、次郎公と喧嘩をした「馬鹿ッ」「チ、チ、チクショウ」とヤンチャン追っかけて来た、こうなると僕は本当は弱いのだから逃げるより外途はない。ところが次郎公の奴どこまでも追ッかけて来る、ちょうど魚屋の角まで来ると僕はフト正チャンの事を思い出した、そうして急に「正チャン助けて!」とどなると次郎公びっくりして「覚えていろ」と後を見せて一目散に逃げ出した 僕はおかげで助かった、記者先生正チャンによくお礼を言って下さい

こちらの投稿者の方、「馬鹿ッ」など小さい「ッ」の使い方などにJOJOみを感じますが、それはさておき、ヤンチャン坊も皆、正チャンの実在を信じていたように思われます。

そして隣の投稿では、いわゆる「正チャン帽」についての投稿が見られます。

正チャン、あんたの帽子は、ほんとによく似合ますね、僕もほしくてほしくてたまらないので、父さんに願って早速買って貰って毎日元気に暮らして居ります

さすがにこちらの記事を読んでいる方の中で「正チャン帽」を知らない方はいらっしゃらないと思いますが、念の為ご説明しますと、「正チャン帽」とは、毛糸のボンボンが頭頂部についたニット帽のことで、正チャンが作中でよくかぶっており、子供たちに大ヒットしたことからその名が付けられています(本記事トップのアイキャッチ画像をご参照)。

実はこちらの投稿が掲載された号の前後では、正チャンは麦わら帽っぽいのをかぶっていたりして、必ずしも「正チャン帽」一辺倒ではなく、TPOをわきまえた服装だったのですが、この辺りから帽子が子供たちの間で人気となり、アイコン化していったのかもしれません。

朝日新聞1924年2月21日朝刊

正チャン相変わらず元気ですね、私も負けずにお友達とスキーの冒険に出かける事にしましたが、正チャンの帽子がほしくなったのです 正チャンはどこでお求めになりました、代価はいくらしましたか、お知らせを願います。

あれは伯母さんがあんで下さッたのですが、大阪では正チャン帽というのを売っているそうです(記者)

新事実が発覚しています。

  1. 正チャンの正チャン帽は伯母さんがあんでくれた

  2. 大阪で「正チャン帽」というのが売っている

その後、こちらの投稿者・マモルさんですが、約3週間後、再度投稿してきてくれています。

朝日新聞1924年3月13日朝刊

正チャン、先日貴兄の帽子についてお尋ねしましたらお知らせ下さいまして有難う、すぐ大阪にいる姉に正チャン帽を頼みましたら今日送ってくれました、私は貴方が着ているハーフコートが欲しくなったので近所の洋服屋に注文し用意万端整いましたので、近日またスキーに出かけます、正チャン、君もしばらく仕事を休んでいきません、下手ながら私がコーチしますもしご同行になるようでしたらご一報くださいスキーの用意もしなけりゃなりませんから

早速大阪のお姉さんに連絡して買って送ってもらったようですね!!!しかもマモルさん、正チャンファッションにすっかりやられているようで、ハーフコートまで注文されたそうです!

最近でこそ、マンガのキャラクター等に扮するコスプレが広まってきていますが、そういった動きの萌芽がここに見られます。

さて、いかがでしたでしょうか??この時点で、アサヒグラフでの連載からおよそ1年強経っているのですが、正チャンの人気が広まり、そのキャラクターに愛情を持つあまり実在するかのように感じるお子さんが出てきたり、また、そのファッション(とりわけ正チャン帽)が子供たちの間で話題になっていく様子が感じられました。

マンガ本編だけでなく、こうした読者投稿欄も併せて読んでいくと、より一層趣を感じられますね!というか今の今まで忘れていたのですが、私、某少年誌の読者投稿欄が好きで、コミックス(信じられないかもしれないのですが読者投稿欄をまとめたコミックスが当時出てたのです!)も持ってました。