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M-1グランプリに生きる12月のある日。

M-1グランプリ2020イントロ

一年に何回か大切なイベントや行事が存在していて、それぞれの重みや思い入れの強さは、人それぞれである。数々のイベントがある中で、M-1グランプリは私にとって本当に大事に見届けたい一日で、今年のM-1も抑えきれない高揚感と煌めきに満ちたものであった。

M-1に出場している芸人さんは、それぞれがきっと人生をかけていて、言葉には表すことができないくらい気持ちがぐちゃぐちゃになりながら、ある芸人さんは決勝の舞台でうねりのような笑いを巻き起こし、ある芸人さんは敗者復活戦で極寒の中サンパチマイクに向かい、またある芸人さんは悔しい思いを抱えながらその戦いを見届けている。そんな壮大なドラマを想像すると、テレビの前でケラケラ笑いながら「なんてお気楽な立場なんだ、私は。」とよぎることがある。ただ、一つ言えることは、私はM-1の一視聴者にすぎないということである。それ以上でもそれ以下でもない。だからいつも、一視聴者としてとことん笑えること(もちろん、多少の好みはあるけれども)をとても楽しみにしている。そしてそれでいいと思っている。

例年は、M-1後にM-1やお笑いが好きな友人・知り合いに会って、M-1談義に勝手に花を咲かせるのが恒例の流れなのだが、今年はご時世的になかなか難しい。そこで、今年の大会も本当に素晴らしかったという大前提のもとに、M-1グランプリ2020のことをいつか楽しくお話しする時の引き出しとして、noteに個人的なそれぞれの漫才の感想を書き留めておこうと思う。

※下記に続く芸人さんの画像は全て2020年12月20日の日刊スポーツの記事より引用

①インディアンス

個人的に、1番グッと胸に来るものがあったのはインディアンスだ。誰が勝ち抜くか、例年以上に分からなかった敗者復活戦を勝ち上がったインディアンスがトップバッターに選ばれるという、興奮必至の幕開け。去年は9番手ということもあり、インディアンスらしい勢いがつけられないまま、田渕さんがネタを飛ばしてしまうというアクシデントに見舞われ、悔しい思いをしていたことだろう。その悔しさを胸に挑んだであろう今年のM-1決勝。敗者復活戦の会場から息を切らし、鼻を赤くしながら決勝会場に向かうお二人。せり上がりながら、髪を撫でつけて直すような仕草を見せる田渕さんと、それを笑いながら見るきむさん。サンパチマイクに着いてからはインディアンス特有の、ボケ数の多さとハイテンポの漫才。「何見とんねんコラ」のハモリはやっぱり笑っちゃうなあ。見ているこっちも(良い意味で)息切れのするようなピチピチ感で、みるみるうちに引っ張られていった。ネタの節々に見られるようなアドリブ、普段の劇場出番のようにお客さんをしっかり見つめ、楽しそうにネタをしているインディアンスは輝いていた。もちろん、トップバッターなので点数の伸び悩みはあったかもしれないのと、笑う隙間が見つからないほどのボケとツッコミの応酬は、もしかすると苦手な人もいるのかもしれない。それでも、敗者復活戦の勢いそのままに繰り広げられたスピード感のあるインディアンスの漫才は、素晴らしいスタートを飾ってくれたと思う。

②東京ホテイソン

彼らのことを初めてしっかり知ったのは、以前深夜に日テレで放送されていた「内村てらす」という番組がきっかけだった。相方を探す掲示板で2人は知り合ったそうで「掲示板で相方を探す人たちは、それ以外の全ての手段で相方探しに失敗している後がない人たちなんだ。」というエピソードを聞いて、見た目からは予想がつかない底知れぬやばさみたいなものを感じたのを覚えている。そこからずっと注目していたグレープカンパニーの若き漫才師「東京ホテイソン」。たけるさんが備中神楽のエッセンスを取り入れてツッコむという漫才のスタイルで、M-1は、新しい漫才(ひいてはツッコミ)のスタイルを持ち込んで、それにお客さんと審査員がハマって高得点に結びつくっていう例は過去にもあるから、ホテイソンのスタイルもハマれば点数いくのでは?と思ったけれどもなかなか伸びず。一緒にM-1を見ていた母親が「今のツッコミってどういうことだったの?」と私に聞いてきた場面があって、もしかすると、審査員の巨人師匠が指摘したように、お客さんによっては「ついていけない感」があったのかなあと。もちろん、人によって楽しみ方は様々だと思うけれども。とはいえ、ある種「看板」として背負っている自身の漫才スタイルに少しずつ変化を加えて進化させていったネタで決勝に上がってきたっていうのは本当にかっこいいし、M-1戦士として素晴らしいし、何より面白かったので、これからもっと彼らの漫才を見て笑いたいと思った。ショーゴさんのガタイもどうなっていくのか気になる。

③ニューヨーク

個人的に、今回のファイナリストの中で1番注目していたのがニューヨーク。今回のネタは、「ネタタタキ!」という番組でも披露していて、NON STYLEの石田さんや仲間の芸人さんが指摘していたところも取り入れつつ、色んなライブでタタきまくった結果、ニューヨークらしさそのままにここまで研ぎ澄まされたんだなあと。面白い漫才だった。爆笑エピソードの中に散見される細かい犯罪について「誰だってやってんだろ」とボソっと言う嶋佐さんの表情がそれはそれは良いもので、そのボケに対してちょっとわざとらしい動きを入れながらツッこむ屋敷さんを見て、「あぁ、これがニューヨークだよなあ。」と思えた。YouTubeの「ニューヨーク大好き芸人」でも言われていたけれど、屋敷さんはツッコミの時にちょっと特徴的な動きをする。それがニューヨークらしさを形作っていて、今回のM-1で去年よりも「らしさ」が出ていたのは、見ていて本当に気持ちよかった。漫才のスタイルそのものというよりかは、ネタの切り口や視点に「らしさ」があって、それを携えてM-1に乗り込んだ上で会場を巻き込んでいける強さが、彼らの最大の魅力だったと思う。やはりYouTubeをきっかけにして、ニューヨークの「らしさ」が色んな人に認知されてきたからこそ、ネタの受け入れ方も変わってきているんだろうか。ちょっと出順が早いのかなと思ったのと、ネタフリの段階の長めのセリフが少しフワフワしているように感じたりして、もしかするとお二人にとっては完璧な出来ではなかったのかもしれないけれど、面白かった。あと、余談すぎる余談ですが、笑御籤でニューヨークが引かれた時に、マヂカルラブリーの野田さんがエレパレポーズしていたのを見て、気づいたらガッツポーズしてました。

④見取り図

和牛の3年連続準優勝も凄まじいけれど、見取り図の3年連続決勝進出もすごいことだ。回数を重ねるたびに、出囃子と共にMのオブジェから出てくるお二人の姿が本当に逞しくなっているように感じる。準決勝の時と同じ「マネージャー」のネタで、準決よりさらに何段階か面白さが増している。これには唸らずにはいられなかった。盛山さんの見た目も印象に残るけど(出てくる前の煽りVで過去の写真出てきた時には、しっかり会場で笑い起きてたし)例年よりもリリーさんの動きがかなり激しいのが印象的で、その激しい動きの中にリリーさんの外見では分からないやばさが随所に現れているのが良かった。また新しい見取り図の面白さが垣間見れたような気がしたし、去年ミルクボーイの漫才に対してナイツの塙さんが放った「人の力と言葉の力とセンスが凝縮されている」という言葉も思い出した。あとは後半の盛り上がりと巻き返し、伏線回収の華麗さも惚れ惚れする。鶴瓶さんの楽屋挨拶シーンの2人の掛け合いは笑いのピークだった。最終的に3位でファイナルラウンドに進んだわけだけど、1本目とはタイプの異なる面白さを持つ漫才を披露するっていうのがすごい。実在していない地名を前半で出しておいて、後半で「あと〇〇ってどこ〜?」と盛山さんが高らかに叫ぶ見取り図定番のこの形も、M-1で見るとやっぱり痺れるなあ。ネタの見せ方が年々豊富になっていて、でもその中に、「このくだりは見取り図らしいな」と思わせる何かを漂わせながら進化し続けているところに、見取り図のすごさ・強さはあるんだなぁということを感じた。素晴らしい漫才だった。

⑤おいでやすこが

元々お二人それぞれのピン芸も結構好きだったので、正直「別に漫才見れなくても良いかな」と思ったりしていた。ただ、準決勝でのおいでやすこがは、おそらくあの日1番ウケていた。そして、期待を裏切ることなく、決勝の舞台でもめちゃめちゃウケていた。おださんのツッコミはものすごくシンプルなんだけれども、M-1戦士の中では結構な年を重ねているおじさんが、地団駄を踏みながら叫び訴えているというそれ自体が面白すぎる。でもそれが不思議と聞いていて「うるさいな...」にはならない。そして、こがけんさんのしっかりとした歌の上手さ。おださんの激しいツッコミに惑わされることなく淡々とボケをこなす。気づいたらこの2人のおじさんのやり取りに大笑いしていた。すごい、すごすぎる。2人とも個々で面白いのだから、そりゃそれぞれの武器がサンパチマイクの前で合わさったら面白いよなぁ。さらに、おださんに関しては、ツッコむまでの無の表情がズルすぎる。1番ズルいと思ったのは、1本目で「♪グッバイサンデ〜ほら来たマンデ〜休憩チューズデ〜♪」とこがさんが歌っている時に、おださんが、無表情でリズムに合わせて体を揺らしている...と思いきや、歌い終えた次の瞬間に「知らんなあああああ!」と叫ぶ。そんなの面白いに決まってる。会場もワッと湧く。その下りでの大爆笑をきっかけに、後半はさらにワッサワッサと笑いを取るおいでやすこが。舞台の自由な使い方が、「漫才師」というよりかはやっぱり「ピン芸人」で、その使い方がものすごく良い方向に作用していたように感じた。そんなこんなで1位で迎えたファイナルラウンド。もう何もかも味方につけて、お二人の表情は心なしかスッキリしているようにも見える。1本目よりも、さらにこがけんさんの淡々と歌う感じが強調されるネタだったため、おださんのツッコミも光り輝いていくばかり。無敵であった。

⑥マヂカルラブリー

3年前に初めてM-1で見た時は、何として見たらいいのか分からなかったというのが正直なところである。確か3年前は、野田ミュージカルのネタをやっていて、ボケの野田さんの動きにばかり目がいってしまい、何だかよく分からないままに「上沼さんにこき下ろされて最下位だったコンビ」という印象で幕を閉じた。それがどうだろう。あれから3年が経ち、野田さんはR1でも優勝されて、さらに強くなったマヂラブを2020年のM-1で見ることができた。せり上がりで出てくる時に既に正座している野田さん。去年のM-1で、すゑひろがりずさんが鼓を鳴らしながら階段を降りてきたのを見て「掴み早い!」と思ったが、それよりさらに早い掴みだった。もうこの時点で、マヂラブから一瞬も目を離せない自分がいる。そして1本目は「高級フレンチ」のネタ。ここで「準決勝でやった電車のつり革のネタをまさか2本目に残しているのか?」と想像し、ワクワクしてしまう。驚いたのは、フレンチのネタの冒頭で、野田さんが窓に飛び込んでレストランに入る動きのボケを見せた瞬間、会場の拍手笑いが止まらなかったことだ。個人的に、フレンチのネタは見れたことがなかったので、最初の動きも何を表現しているのか理解するまでに少し時間がかかったのだが、想像以上に会場の反応が速かったのと、それに伴って発生した渦のような笑いに少し圧倒されてしまった。でもきっと、テレビの前にいるだけでは感じ取れないくらいの勢いとスピードで、会場はマヂラブワールドに引き込まれていったのだと思う。その引き込まれるパワーたるや、後半のウケの弱さが霞むくらいの力で、本人たちも言っていたが「最大瞬間風速で勝負する」という戦法が完全にハマっていたのだろう。最終的に2位でファイナルラウンドに進み、ここでいよいよ、待っていました「電車のつり革」のネタ。野田さんの「つり革につかまりたくないよー」の一声で、既にハートが掴まれている。そこから先は、もう何も考えられないくらい笑い転げた。すごすぎる。これ以上ないくらいシンプルな設定なのに。個人的に3年前と違うのが、ボケの野田さんの突拍子もない動きだけではなく、村上さんのツッコミもちゃんと自分の耳に入ってきていて「野田さんの動きと村上さんのツッコミが合わさったもの」に対して大爆笑できているという点だ。村上さんが野田さんの動きを見ながら繰り出していくツッコミの言葉がこんなに聞けるようになったのは、マヂラブのことを見聞きする機会が増えて、彼らの漫才を見るベースが出来上がったからなのかもしれない。それを考えると、マヂラブの漫才には爆発的な面白さの中に、なんとも言えない味わい深さがある。圧巻だった。

⑦オズワルド

なんというか、自分たちの漫才スタイルをメタな視点で見た上で勝ち方を考えてきているんだなという印象が1番強いのはオズワルドかもしれない。M-1において、オズワルドのようなスタイルはどうしても不利だと思われがちな状況の中で、2年連続の決勝戦進出は本当にすごい。去年はミルクボーイの直後の出番、今年はマヂカルラブリーの直後の出番...。そんな状況の中でも、オズワルドの漫才は落ち着いて笑って見られる。やっぱりオズワルドはワードセンスが光るなあ。「雑魚寿司」とか「ゲキキモ通訳」とか、ものすごく捻られているわけでもないのに、その辺のさじ加減が絶妙。畠中さんの淡々とした、それでいて不思議なボケに、センスのひかるワードを散りばめながら静かにツッコんでいく伊藤さん、と思いきや、客席に向かって少し声を荒げてツッコんだり。その声のトーンが、甲高くて思わず笑ってしまう。後半の盛り上がりも相まって、オズワルドの色んな色が見えた珠玉の1本だった。個人的にはすごく好きなネタだったのだが、審査員の好みが分かれたのが残念でもありつつ、審査に好みが反映されることは当たり前なので、難しいところ。「おくりびと漫才師」のキャッチコピーもいいかもしれないけれど、やっぱり2本目が見たかった。一視聴者というお気楽な立場であることを自覚した上で言いたいことは、来年もM-1の舞台でオズワルドのネタが見たい!ということである。

⑧アキナ

2016年のM-1ではトップバッターを飾ったアキナ。4年ぶりの決勝。準決勝と同じネタだったんだけれど、確かに、準決に比べると爆発的な笑いがなかったなというところが正直な感想。準決では、最後の方の伏線回収(神棚の前でのくだり)で拍手笑いが起きていて「これは決勝いくだろうな」っていうくらい盛り上がってたんだけど、決勝ではそこがむしろ盛り下がってしまっていたのが惜しかった。最終決戦に行った3組のネタを見てみると、やっぱり最後お客さんがドッと笑っている「笑いっぱなしの状態」もしくは笑いの余韻にタプタプに浸っている状態でネタが結ばれているんだけれど、アキナに関しては、最後温度が下がって、しんとした中で終わってしまっていたのかなと。でも正直これも順番なのかな。少し話は逸れるけれど、アキナ・アインシュタイン・和牛の3組がレギュラーを務めていた「バツウケテイナー」がめちゃめちゃ好きで、3組それぞれ面白かったのだけれど、アキナはやっぱりバツウケの3組の中では、山名さんのボケの表情とか動きがピカイチで、それに対して愛情たっぷりに秋山さんがツッコんでいくっていうのが、毎回見ていて本当に楽しかった。そんなアキナの良さは、今回のM-1のネタでも節々に出ていたと思うし、本人たちは恥ずかしいって言ってるけど、かっこよかったな。番組の平場や反省会・打ち上げ生配信でも「恥ずかしい」を武器に沸かしまくってて、その後の山名さんのツイートも最高。愛されてるなと感じたアキナの漫才でした。

⑨錦鯉

人と人が、サンパチマイクの前であーだこーだ言いながら、ボケたりツッコんだりしながらお客さんを笑わせるのが漫才。それを演じている芸人の人間味が魅力に満ち溢れているという状況は、本当に理想形だと思う。その点、今大会において錦鯉は頭ひとつ抜けていたように思う。もちろん、その裏側には色んな苦労があったであろうことは言わずもがななんだけれども。せり上がりで上がってきたときの佇まいは、10組の中で1番凛としてかっこよくて、その後のまさのりさんの手を振りながらの「こ〜んに〜ちは〜〜〜!」はこの日1番はっちゃけていて、その落差になんだか心がグラグラ揺さぶられた。ホテイソンのたけるさんのお父様と同い年のまさのりさん。なんて面白い大会なんだ。決勝で披露した「パチンコ台CRまさのり」のネタは準決勝の大トリを飾ったネタ。私は準決勝を(物議を醸した)オンライン配信チケットで鑑賞したのだが、面白さのあまり何回か見返してしまったコンビのうちの1組が錦鯉だった。「パチンコの知識ないけど大丈夫かな」と思った数秒後にはめちゃめちゃ笑っていた。49歳まさのりさんの最高にバカなギャグはもちろん、それに翻弄されながらも本気で怒って地団駄を踏む渡辺さん42歳。M-1の煌びやかなセットの中で展開される2人のやり取りがあまりにも(いい意味で)泥臭くて、途中から背景が薄暗い地下のライブハウスに見えてきた。完全にやられた。場を支配できる爆発力はあったのかなと思ったけど、あまり点数伸びず。今年は、GERAでラジオが始まったり、メディアでもより一層注目された錦鯉。来年はもっと見たいなあ。勝手ながらまさのりさん56歳まで頑張ってほしい。そんでもってレーズンパン食べたくなった。

⑩ウエストランド

ここで来ましたウエストランド。ザ・ウエストランド節、刺さる刺さる。欲を言えばもっともっと聴きたかったし暴れて欲しかったっていうのと、ウエストランド節の直後に、会場の温度が少し冷めてしまうような場面が見受けられたところもあって、ちょっぴり惜しく感じた。河本さんの「可愛くて性格のいい女の子」という発言に「え、そんな子いないよ?」と答える時の井口さんの表情と、「芸人の1番の目的は笑いを取ることでしょ」という河本さんに「え、復讐だよ?」と答える井口さんの表情が堪らなく面白い。何を考えているのか分からない、それでいて急にボケ出したかと思ったら緊張が丸見えになったりする河本さんのミステリアスな感じ、そしてそんな河本さんと中学からずっと同級生で、河本さんに対しても世間に対しても漫才中は何だかずっと怒っている井口さん。良いコンビバランスだなあと改めて感じた漫才だった。井口さん、あれだけ高速で話しているのに、全部耳にちゃんと入ってくるのすごいなあ。言葉に力がこもっているからなのだろうか。きっと今まで色んな思いをしてきて、いいとものレギュラーになって、ネクストブレイクと言われて何年も経って。「お笑いは、今まで何もいいことがなかったやつの復讐劇なんだから」っていう言葉をM-1の舞台で言い放ったところには感動すら覚えた。また来年も、最高の復讐劇を目撃したい。

最後に

ざっとここまで、各組の漫才に対する超超個人的な思いの丈を綴ってみた。最終決戦の3組(見取り図・マヂカルラブリー・おいでやすこが)のネタは、何というか、それぞれが異なる面白さの詰まった爆弾を抱えて舞台に乗り込んでいる感じ。良い大会だった。存分に楽しませていただいたし、良い年越しができそうである。

マヂラブのネタが漫才か漫才じゃないのか論争が起きているようだけど、野田さんの言葉ゼロの激しい動きを伴うボケと、そのボケを見つめながら巧みにツッコンでいく村上さんの2人が織りなすあのネタは、やっぱり漫才だったと思う。M-1後に、色んな芸人さんのラジオをちょこちょこ覗き聞きしていて、この論争に関して1番ストンと落ちたのは、東京吉本の双子漫才師・ダイタクの12月21日に配信された「ダイタクのニューラジオ」の中で、大さんがおっしゃっていたことである。

余談だけど、ダイタクのニューラジオ、初回から毎回聞いていて、今回のM-1ファイナリストにはダイタクの近しい先輩・後輩が名を連ねているからこそ、彼らをいつも近くで見ているダイタクの感想がすごく良かったので、ぜひ聞いてほしい。近いうちに、決勝でダイタクの漫才見たいなあ。

話を戻して、大さんがマヂラブの漫才に関して、ニューラジオの中でこんなことをおっしゃっていた。

「しゃべくりしたり、漫才コント入ったりとかさ、色んなことやるのは笑かしたいからやってるだけで。あんな動いて笑い取れるんだったらみんなやりたいよ。」

なるほどなと思った。システム作ったり、トリッキーなスタイルにしたり、それはあくまで手段なのだということである。「電車の中でつり革につかまらずに耐えられていない」という、最高にシンプルな設定で、あそこまで笑えるというのが改めて本当にすごい。シンプルな設定だからこそ、ごまかしが効かなくて、きっとあの動き、ツッコミには色んな工夫が緻密にされていて、(工夫というよりかは才能ももちろんあるだろうけど)でもネタを見ている分にはそれが表立って見えないっていう。あーかっこいい。しかもつり革のネタが、コロナ禍の無観客単独ライブでできたネタっていうのがまたかっこいい。ずっとかっこいい。改めてマヂラブさんおめでとうございます。

来年はどんなスターが誕生するのかな。

気楽な視聴者でごめんなさい、でも楽しみです。

終わり。

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