木版画作家として生きる
初めまして、木版画作家のゆうへいです。
僕は小学校の図工の授業で木版画に魅了されてから約30年、作品を作り続けてきました。
周囲には木版画を趣味にしている友人がおらず、学生時代は孤独や疑問を抱えながら制作していましたが、2023年から「木版画作家」と名乗るようになってから制作活動に自信がつき、2024年は「自分を信じ切る」ということで、気持ち新たに焦ることなく楽しく木版画と向き合っています。
この記事では、これまで言語化してこなかった僕の木版画哲学や制作過程をたくさんお伝えしたいと思います。
はじめに
富嶽三十六景などで知られる浮世絵(伝統木版画)の世界は分業制で成り立っています。
<アーティスト>
・絵師(えし/下絵を描く人)
→葛飾北斎、歌川広重など
・彫師(ほりし/版木を彫る人)
・摺師(すりし/和紙に摺る人)
※彫師、摺師は無名職人が多いらしい
<プロデューサー>
・版元(はんもと/作品を広める人)
もちろん、趣味の木版画では全て1人です。
・絵師、彫師、摺師
→ゆうへい
※ただいま版元を募集しています!
マインド│恩師の笑顔のために
作品を作るとき、僕の頭の中では「図工の中野先生の笑顔」が浮かびます。
中野先生は小学校のときに木版画の楽しさを教えてくれた人で、僕の年賀状をいつも褒めてくれるため、先生に笑顔になってもらいたい一心で木版画を作り続けています。今は亡き恩師に感謝する毎日です。
作品|年賀状からスタート
最初の約20年間は、年賀状用の木版画(=年に1作品)しか作っていませんでしたが、2014年に自分の結婚式のウェルカムボードを作り、2021年には「ニュージーランド木版画」というオリジナル作品を作り始めました。
そして、2023年には四角大輔・著『超ミニマル・ライフ』の栞を自主制作し、一部トークイベントの書籍購入特典として配布しました。
技術|好奇心で身に付ける
僕が木版画を作り始めたころ父も木版画を作っていましたが、父からは「手を切るなよ」と言われるくらいで、彫刻刀の使い方や彫り方は小学校で習った後は独学です。
後で記しますが、アイデアを考えるときはスキルアップできるかどうかもポイントにしています。
※2022年12月、憧れの木版画イラストレーターである宇田川新聞さん御本人と話す機会があり、その後に著書『木版画手習帖』を入手したので今後のバイブルになりそうです。
彫刻刀│職人も愛用する製品
初めは学校と同じ6本セットの彫刻刀を使っていましたが、前回の辰年(2012年)にかっこいい龍を彫りたいと思い、道刃物工業株式会社の彫刻刀を揃えました。
他の道具│簡単に手に入るもの
彫刻刀以外は簡単に手に入るもの(=小学校時代から変わらないもの)を使用しています。
版木:ホームセンターの木材売り場
版木に墨汁を塗る筆:100円ショップ
墨汁:文房具屋(習字に使う安価なもの)
画用紙:文房具屋(たまに和紙)
バレン:小学校のときのもの
アイデア│一年中1人デザイン会議
元旦にその年の作品が旅立つと、翌日には「来年のデザインはどうしようか」と考え始めているため、ほぼ一年中、脳内でデザイン会議を行っています。
最終的には、11月中に脳内デザインコンペを開催してデザインを決定します。
<3つの審査基準>
①インパクト又はユーモアがある
②下絵が描きやすい
③彫りのスキルアップが期待できる
版木│ビバホームで購入
「版木(はんぎ)」とは木版画用の木板のことで、僕はいつもビバホームの木材売り場で購入していますが、昔に比べて売り場が縮小してしまいました。
コロナ禍に一時的に売り場が無くなったときは「蔵出し広葉樹」というサイトで板を買ったこともあります。岐阜県は「朴葉味噌」など朴木がたくさんあるので、いつか版木を探しに旅したいです。
版木には「無垢」と「ベニヤ」があり、前者は木そのもの、後者は薄くスライスした木板を接着した木質材料なんですが、僕は木の香りがして、質感が均一ではない「無垢」のほうが好きです。
<代表的な樹種(じゅしゅ)>
・山桜(ヤマザクラ)
板が硬くて彫りづらい一方で、細かい彫りに適しているため繊細な作品向き
・桂(カツラ)
山桜ほど硬くなく彫りやすいらしい。
・朴(ホウ)※愛用
硬すぎず木質に粘り気があって、細かい彫りにも適している。
<2つの木板の切り出し方>
・板目(いため)
一本の丸太から効率よく取れるので、柾目よりも安価。反りやすいのがデメリット。
・柾目(まさめ)
丸太の中心に向かう方向でしか取れないので、量が少なく高価。反りや収縮などの狂いが少ないのがメリット。
木材売り場の商品は板目がほとんどで反っているため、なるべく平らなものを見極めます。
僕は親指の腹で板の表面を擦るように触っただけで彫りやすい板か、墨汁が乗りやすい板(=印刷しやすい板)かどうかが分かるようになりました。
<確認ポイント>
①板の表面がツルツルか。
②ツルツルの場合、木目が引っかかるか。
下絵│アイデアが初めて形になる
脳内デザインコンペを突破したアイデアを基に下絵を描きます。
<2つの注意点>
①彫ったものと刷ったものは絵が反転する。
②下絵の線を彫るのか、残すのか。
正しい手順と言われているのは
⑴紙に下絵を書く
⑵下絵をトレーシングペーパーに写し取る
⑶版木の上にカーボンペーパーと裏返したトレーシングペーパーを置き、下絵をなぞって版木に描き写す
独学の末、僕が辿り着いたのは
⑴版木に直接鉛筆で下絵を描く
⑵文字は脳内で反転させて直接描く
僕の場合、反転を気にするほど構図にこだわりが無いので彫る線/残す線は考えながら彫ります。このフリーハンド感、ライブ感が独特の風合いに結びついていると思います。
彫る│"ムラがある"が味になる
木版画制作において一番楽しいのが彫る瞬間です。7〜8歳のとき、ザクザクという音や感触に魅了され、そこから独自のこだわりで彫り続けています。
<こだわり>
①キレイに彫らずにムラを作る。
②ムラで立体や動きを表現する。
<2つの注意点>
①彫刻刀の進行方向に手を置かない。
②木目と平行だと彫りやすく、直角だと彫りにくい。(水の流れと同じで、直角に近づくほど抵抗が強くなります。)
切出刀(印刀)は下の写真のように、下絵で残したい線の外側にV字の切り込みを作るときに使います。
全ての線に対してV字の切り込みを入れ終わったら、外周を彫ります。
例えば
「バンジーのスピード感を表現した」とき
↓その結果↓
もう少し紹介すると、下の写真はV字の切り込みが全て入れ終わったところで、ここから輪郭以外の部分を彫ってムラを残しつつ、作品のテイストを決めていきます。
例えば
・闘牛士の衣装はボーダーにしよう
・アクリル板があることを表現したい
・あとは、テキトーに質感を残そう
↓その結果↓
刷る│墨汁の乗り具合は艶で見極め
いよいよ木版画制作における山場です。
僕にとって1枚目を印刷してペロッとめくったとき(=初めて作品と対面したとき)が最高の瞬間です。
<インクの乗せ方>
墨汁を含ませた筆を使って全体を隅々まで塗り、版木が「もうこれ以上、墨汁を吸えませーん」となって表面に艶が出てくるまで繰り返します。
<注意すること>
①墨汁が多いと線が潰れてしまう。
②全体に均一に塗らないと美しくない。
③作業スピードが一定でないと墨汁が乾く。
「ローラーで塗れば早いし均一では?」という意見もありますが、ローラーは平らなところにしかインクが塗れないので、思わぬところに付着したインクによる刷り上がり、つまり彫るときに大事にしている“ムラ”を表現できない点で、僕は採用していません。
↓
↓
例えば、この刷り上がりの闘牛の足元のムラは予期せぬ産物で良い味になっています。
<最大のポイント>
紙の硬さ、厚さによって、バレンで画用紙を版木に押し付ける力加減を調整し、その力加減を体に覚えさせて同じ感覚で刷り続けること。
例えば、彫りのところで「下絵で残したい線の外側にV字の切り込みをつくる」と書きましたが、実際の作品で切り込みは1〜2mmの深さしか彫っていないので、仮に印刷時に柔らかい紙や薄い紙を強く押し付けてしまうと溝(=切り込み)に溜まっている墨汁も吸い上げてしまって、本来出したい線を潰してしまうことになります。
なので、最初の数枚は試し刷りをして「今回の作品はこんな感じで作業すれば良いのか」というのを体に覚えさせてから全力、且つ、同じペースで刷り続けます。100枚も刷ったら翌日は全身筋肉痛で寝込むくらい体力勝負なんです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
皆さんに木版画制作の様子が伝わっていたら嬉しいです。改めて自分のスタイルを確認することは、発見もあり、自信や可能性も感じ、また新たなアイデアが浮かぶ機会になりました。
人生100年時代
僕は彫刻刀を握る力が無くなるその日まで木版画を彫り続けますよ〜!
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