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真夏の夜の夢 【ショートストーリー】

真夏の夜の夢とはよく言ったもので。

つい先程まで繋いでいた手のひらに、温い夜風がすり抜けていく。

一緒に歩く砂利道には浴衣姿の君の足音。
カランカランと耳に心地よい響きが鼓膜を鳴らした。
特に会話らしい会話もなく、ただ、二人で手を繋いで歩いているだけの夏祭り。左前の浴衣を着た君の横顔はとても綺麗だった。

穏やかに流れる川縁には、灯篭流しをする人たち。
しばらく二人で立ち尽くしてその情景を見ていたら、君が手をゆっくり離して前へ歩き出す。一度だけ振り向いて申し訳なさそうにはにかんだ笑顔は、いつもの君だった。
そして、まるで陽炎のようにユラユラ揺れながら夜に溶けて消えていった。
まだ手に残る僅かに冷たい感触を、容赦なく夏の夜風が温めていく。

僕は明日から君の影すらない世界で生きていくのだろう。
ああ、この夜が終わらなければいい。
まるで、覚めることを知らない
真夏の夜の夢のように。

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