今夜はお風呂でバー気分
あ、そうだ、今日はこれだ!
夕飯を終え、掃除し終えたキッチンボードの片隅にふと目をやると、退屈そうに立ち尽くしている飲みかけの白ワインのボトルが、たまには相手をしてくれよと私に話しかけてくる。
そうだね、今夜は君にするとしよう。
私はぬっとボトルに手を伸ばすと、いつも使っているなんてことないグラスに半分くらい注いだ。
冷蔵庫からスーパーで買ってきた小ぶりのポンカンをひとつ、皮をむいて実をいくつかグラスに投げ込む。
それからお気に入りのキリンレモンを同じくらい注いで、できあがり。
そう、即席のサングリアである。
出来上がったらそこで飲むのはまだ早い。
風呂場に持ち込むのだ。お風呂はバッチリ沸かしてある。
急いでパジャマを脱ぎ捨て、グラスからプツプツと弾け飛ぶ泡がこぼれ落ちないように気をつけながら、そっとバスタブの隅にセットする。
一通りさっと体を流したら、早速湯船にどっぷりと浸かる。
飲みたい気持ちをグッと抑えて、体を温める。
じんわりと汗をかくくらい温まってきたら、サングリアの出番だ。
お風呂のカバーをテーブル代わりにしてなんとも優雅なバータイムの始まりだ。
ここはひとつ、ジャズやボサノバなんかをBGMに流したいところだ。
海や森の自然音楽も気持ちがいい。
まずはひと口。爽やかなポンカンの香りが最初に広がったと思ったら、間もなく鼻の奥にぼっと火が灯ったようなアルコールの匂いが、これは決してジュースなんかじゃない、油断するなよ、と警告してくる。
油断しようがしまいが、グラスはひとつだけ、なんてことないさ。
そう心の中で返事をしながら、もうひと口、もうひと口と進めていく。
途中、ポンカンの実をつまむと、白ワインの香りを適度に纏ってこれがまたよい。
のぼせないうちに飲み終えたら、いつものようにまた髪や体を洗って風呂場を出る。
いつもよりポッと赤い私の顔が洗面台に映った。
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