見出し画像

バイオレンスっす(ナンセンス小説 2023/10/11)

「だから、バイオレンスっす!この映画のジャンルは間違いなくバイオレンスっす!」

寮の一室で映画を見ていた二人の男が、何やら言い争っている。

「そいうけどなあお前、バイオレンスってジャンルの名前なのか?内容が物騒ってえのは同感だけど、ジャンルがバイオレンスかって言われるとそれは違うと思うけどな。」

「何を言ってるんすか先輩!バイオレンスは立派なジャンルの名前っすよ!任侠の男たちが争うような暴力的な内容のことをバイオレンスっていうんす!だからこの映画のジャンルもバイオレンスっす!バイオレンスっすよ!」

「わかったわかった。バイオレンスってジャンルがあるんだな。だけどよう、この映画は暴力的なシーンもあるけど、話としては盗賊団が財宝を狙って豪邸に忍び込む内容じゃねえか。だったらこの映画のジャンルはミステリーなんじゃねえのか?」

「先輩、それを言うならサスペンスっす!犯人や事件の真相が分からない状態で話が進むのがミステリーで、犯人が最初から分かってる状態で事件を描くのがサスペンスっす!でも自分が思うに、この映画はやっぱりバイオレンスっす!バイオレンスっすって!」

「ああもう、揚げ足取りはやめろ!俺が言いてえのは、この映画にはバイオレンスよりも相応しいジャンルが他にあるんじゃねえのか?って話よ。」

「なるほど、まあ一理あるっす。例えば、盗賊団のボスである主人公と新米刑事であるヒロインの禁断の恋はこの映画の見どころのひとつで、この点については紛うことなきラブロマンスっす!あと作中ではあまり触れられない設定なんすが、この映画は地球の文明が一度滅んだ後の世界が舞台なので、そういう意味で言えばポストアポカリプスっす!でも、この作品全体をひとつのジャンルで言い表すとするなら、やっぱどう考えてもバイオレンスっす!バイオレンっス!」

「まったく頑固だなあお前はよお。そこまでいうならこの映画がバイオレンスだっつう根拠をもっと……」

「君たち!さっきからうるさいぞ!!ぶぁっくしょん!!!!」

怒鳴り声をあげたのは、部屋の隅でひとり自習をしていた男だった。

「へあっくしゅん!!!君たちが騒いで埃を巻き上げるもんだから、アレルギーでくしゃみが止まらないんだよ!!んはぁっっっくしょん!!!!」

「おっと、それはすまなかった。すまねえついでに悪いんだが、ひとつ答えてくれねえか。こいつがさっきからこの映画のジャンルはバイオレンスだって言って聞かないんだが、お前はこの映画のジャンルは何だと思う?」

先ほどまで自習をしていたその男は少し考え込んだのち、こう答えた。

「ノンフィクションっんふぃくしょん!!!!!!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?