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ゾウが好きだと言ったから(ナンセンス小説 2023/10/22)

「私、ゾウが好きなのよね」

彼女は昔、そう言ったんだ……

今、僕はカフェにいる。なんてのことない小さな町のカフェだけど、僕は今日ここで告白をする。相手はカウンター席の隣に座っている、花田かおりさん。仕事場の先輩だけど、二人きりで会うのはこれが初めてだ。でも、僕はこの日のために入念に準備してきたんだ。告白は絶対に成功させる。

「それで、永井くん、話って……」

「プレゼントがあるんだ。これ、受け取ってくれる?」

「あら、ありがとう。これは……セーターかしら?」

「そう、セーターだよ。僕が心を込めて手編みしたんだ。花田さんゾウが好きだって言ってたから、胸元にゾウが大きく映るデザインにしたんだよ。ほら見て、自分の分も編んだんだ。今度一緒にこれを来て出かけようよ。」

「て、手編みの……セーター……」

「ああ、花田さんのために編んだんだ。」

「これ……」

ここで花田さんは突然目を見開き、こう言ったんだ。

「永井くん、素晴らしいわ!私がゾウが大好きだって覚えていてくれたのね!」

「そう、花田さんがゾウが好きだと言ったから、僕図鑑で、、、」

「セーターに描かれているこのアジアゾウ、アジアゾウの特徴をとても良くとらえているわ!!!!」

「え、アジア???」

「そうそう、アジアゾウは耳はあんまり大きくないのよね。そして頭にはコブがあり背中は丸く盛り上がっている。牙が見えないからこの子はメスのアジアゾウかしら?そして何よりも素晴らしいのはこの鼻先ね。アジアゾウは鼻先の上側にひとつだけ突起があるのよね。この突起を指のように器用に動かしながら、鼻を内側にくるくると巻き上げて物に巻きつけるのよね。リンゴを食べたり枝を掴むときにそういう動きをするわ。あと、アジアゾウは温厚な性格で人にもよく懐くのよね。東南アジアとかインドとか、人とアジアゾウが関わりあって生きているイメージがあるでしょ?神さまがアジアゾウの姿をしていたりね。アジアゾウは人類の軌跡と深くつながりあってきた生き物なのだわ!」

「へ、へえ?」

「あら、よく見たらあなたの分のセーター、わたしのとはデザインが違うのかしら?」

「いや、これはセーターのサイズに合わせて調整してたらいつの間にか、、、」

「ちょっとよく見せなさい!!ああ、やっぱり!こっちはアフリカゾウじゃない!!!そう、アフリカゾウは耳がおおきくて、牙も立派なのよね。頭は平たくて、背筋はアジアゾウとは逆で少し反っているわ。頭から背中にかけてのラインがアジアゾウとアフリカゾウで全然違うのよね。本当によく分かっているわ。そして鼻先の突起は上下にあって、2つの突起を指の用に動かすることで鼻先だけで物を掴むのが得意よ。アフリカゾウはアジアゾウよりもひとまわり大きくて……あ、もしかして私のセーターがアジアゾウだったのはこのため?私の方がサイズが小さいから合わせたのね。イカしてるわ。そういえばアフリカゾウは気性が荒くて人間に慣れにくいそうね。しかも人間は象牙のために沢山のアフリカゾウを乱獲した歴史があって、象牙の国際取引が禁止された現在も密猟に遭うゾウが絶えないと聞くわ。本当に痛ましいことね。私のゾウのことが本当に好きなんだけど、話を分かってくれる人がなかなか現れなかったの。でも今日は違うわ。ここまで細かいディティールでアジアゾウとアフリカゾウの両方を編み上げるなんて、本当に感激!私嬉しいわ。とっても嬉しい。そうだ!!タイに行きましょう!!タイで一緒にゾウに乗りましょ?私子供の頃はゾウ使いになるのが夢だったんだけど、両親が許してくれなかったの。でも憧れは消えないわ。一緒タイに行きましょう!!さあ!!さあ!!!」

「あ……え……?」

戸惑うこともあったものの、僕の告白は成功し3年の交際期間を経て結婚した。タイに移住した今も、なんだかんだで幸せな結婚生活を過ごしている。

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