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「赤を啜り、終焉は虚無と知る」後篇 脚本公開

全四回に渡りお届けしてきた
演劇用脚本「赤を啜り、終焉は虚無と知る」
今回で完結となります
最後までお楽しみください
以下、本編

第十六章「再起」

   舞台変わり薄暗い場所
   マゼンタ城陥落より半年後のルージュ大陸
   その人気のない森の中に作られた人工的な洞窟
   そこに数人の兵に守られるようにカーマインがいる
   そこへオーカーとシンシャがやってくる

オーカー  
「カーマイン様、リドン王国も落ちたとのことです。」
カーマイン 
「そうですか。あの日から一体どれほどの国が滅ぼされ、どれだけの人々が殺されたのでしょう。」
オーカー  
「彼らは国民を次々とアンデッドに変え、勝てば勝つほど戦力を増強しています。戦わずに軍門に下る国も出ていると聞きます。」
シンシャ  
「戦わずに化け物に負けるなんて、人間としての誇りは無いのかしら。」
オーカー  
「しかし生き残った人々の中には、僕たちに合流する人も増えて来ています。このまま少しずつ戦力を整えて、機会を待ちましょう。」
ニールの声 
「その機会はいつ来るんだ。」

   ニールがやってくる
   その表情はこれまでと違い険しく、瞳には暗い色が宿っている

オーカー  
「ニール。」
ニール   
「え?オーカー、教えてくれよ。いつになれば俺たちはあいつらに復讐が出来る。バーガンディ将軍の、田舎のみんなの。みんな同じだ、あいつらに何もかも奪われた、ここにはそんな連中がたくさんいるはずだ。みんな今すぐにでもやり返したいんだよ。」
オーカー  
「それは分かってる、でもそれじゃあ。」
ニール   
「お前だってソルフェリノ将軍を殺された、シンシャも兄貴を失った。カーマイン様だって。悔しくないのかよ、苦しくないのかよ。こんなに待ち続けて。」
カーマイン 
「静かになさい。悔しいし、苦しい。それは私も同じ。でもそれだけで戦っても奴らには勝てない。これ以上誰も何も失って欲しくは無いの。だからお願い、もう少しだけ私に力を貸して下さい。必ずこの戦いを勝利に導いて見せます。これは復讐ではない、人間の未来を取り戻す戦い。」
シンシャ  
「カーマイン様。」
カーマイン 
「そして実現してみせる。かつてエカルラートが実現したかった世界を。争いの無い、明るい世界を。」
オーカー  
「奴らは、何が目的なんでしょう?」
シンシャ  
「え?」
オーカー  
「バンパイアは大陸を支配して何がしたいんでしょうか?」
シンシャ  
「そんなの決まってるじゃない、大陸を統一したいんでしょ。」
オーカー  
「でも、それでどうするつもりなんだろう?それが分かれば反撃の糸口がつかめそうなんだ。」


第十七章「変化」

   場面が変わる
   そこはかつてマゼンタ城であった城である
   現在はスカーレット率いる連合国家が居城としている
   その一画にアリザ、リサージ、ギュールズがいる

リサージ  
「人間を養殖する。バンパイアの食料である人間を家畜の様に養殖し、恒久的に食料を確保し、安寧なるバンパイアの世界を作るのです。そして優秀な人間や、国家繁栄に貢献した人間をアインスへと進化させる。スカーレット様と優れたアインスによって統治される世界を作りましょう。と、スカーレット様に進言したのですが、「素敵ね」の一言で終わられてしまいました。」
アリザ   
「よしよし、残念だったわねリサージ。仕方ないわ、スカーレット様は今お忙しいのですもの。落ち着いたら改めて進言すればいいわ。」」
リサージ  
「アリザ様。お優しい。」
ギュールズ 
「人間の養殖か。面白いな、それは。」
リサージ  
「さすがはギュールズ様。ですよね、ですよね?私もゆくゆくはアインスとなる身。その為に色々と考えているんですよ、この国の未来を。」
ギュールズ 
「未来か。我々にそんなものがあるとはな。」
アリザ   
「ギュールズ様、私はあなた方と出会って知ったんです。世界の理を。この世界は力あるものが全てを決定する権利があるんです。これまで人間が握っていた権利を今度は私たちが手に入れるだけです。未来は私たちの物。共に明るい未来を築きましょう。」
ギュールズ 
「アリザ王女。明るい未来か・・・。」

   場面変わる
   マゼンタ城の別の一画
   クリムゾンとシャドがいる
   そこへセキとコウ、二人のアインスがやってくる

セキ    
「クリムゾン。」
コウ    
「リドンは落としたよ。」
クリムゾン 
「セキとコウか。リドンの国民はどうした。」
セキ    
「手下たちに食わせた。」
コウ    
「余ったのは全員アンデッドにしたよ。」
クリムゾン 
「そうか。ご苦労。」
セキ    
「あ、シャドだ。」
コウ    
「本当だ、シャドじゃん。」
シャド   
「何だよ、うるさいな。」
セキ    
「もう、傷治ったの?」
コウ    
「死にかけてたくせに。」
シャド   
「うるさいな、いつの話だよ。」

   そこへスカーレットがやってくる

スカーレット 
「セキ、コウ、おかえりなさい。」
セキ     
「スカーレット様。」
コウ     
「先ほど戻りました。」
スカーレット 
「報告は聞いたわ。ご苦労様。」
クリムゾン  
「計画は順調だ、マゼンタ王国の領土を始め、近隣諸国の多くが降伏もしくは滅びた。この大陸でお前に逆らう者は、後わずかだ。」
スカーレット 
「そう。これでようやく夢を叶えることが出来る。」
シャド    
「夢?」
セキ     
「スカーレット様の夢って何?」
スカーレット 
「それはまだ秘密。でもとても素敵な夢よ。」
コウ     
「私は難しいことは分からないけど、それがスカーレット様の望むことなら、私たちは手伝うよ。」
スカーレット 
「ありがとう、二人とも。もう少しだけ力を貸して頂戴。」
シャド    
「ねえ、スカーレット様。夢ってのが大切なのは分かるけど、少し無理しすぎじゃないの?何か、顔色悪いよ。」
スカーレット 
「バンパイアに顔色も何もあったもんじゃないと思うけど。」
シャド    
「そうだけど、そう言う意味じゃなくてさ。何でこんなに急ぐ必要があるの?もう人間は何も出来ないんだし、前みたいにゆっくりやればいいじゃん。時間はたくさんあるんだから。」
セキ     
「確かに。シャドにしては良い事言うな。」
コウ     
「スカーレット様疲れてる。」
クリムゾン  
「ダメだ。まだ従わない人間もいる。目的を果たすまでは油断するな。ここまで来たんだ、誰にも邪魔はさせない。」
シャド    
「てめえ、スカーレット様がどうなってもいいって言うのか?大体お前がマゼンタのガキを見逃したから諦めない人間どもがいるんじゃねえのか?スカーレット様に何かあったらただじゃおかねえぞ。」
クリムゾン  
「俺はスカーレットの目的の為にここにいる。」
シャド    
「適当なことほざいてんじゃねえぞ。」
スカーレット 
「シャド。」
シャド    
「スカーレット様、いつまでこんな人間を傍に置いているんですか。さっさと食っちまえばいいのに。」
スカーレット 
「そうね、全てが終わったらそれも良いかもね。でも、今はもう少し必要なの。だからシャドもう少しだけ私のわがままを許して・・・ね。」

   スカーレットその場に倒れる

シャド    
「スカーレット様?スカーレット様!」

   暗転

第十八章「機会」

   場面変わりカーマイン陣営
   カーマインとオーカーがいる
   そこへシンシャがやってくる

カーマイン 
「シンシャ。どうでしたか?」
シンシャ  
「カーマイン様、上手く行きました!お兄様が製造していた最新式のライフルを屋敷の地下で見つけることが出来ました。これで、戦力は整いました。」
オーカー  
「カーマイン様。」
カーマイン 
「ええ、ご苦労でしたシンシャ。」
シンシャ  
「いえ、兄の事はオーカーに聞きました。エカルラート様の殺害を計画したのが本当に兄だったのか、私もあの男に確かめたいんです。」
カーマイン 
「後は、機会が来るのを待つだけです、オーカー。」
オーカー  
「ええ・・・。」

   そこへニールがやってくる

ニール   
「おい、一体どうなってるんだ。何が何だか俺にはさっぱりだぞ。」
オーカー  
「ニール、どうしたんだ?」
ニール   
「それはこっちが聞きたいぜ。各地の斥候部隊からの連絡で、バンパイアどもが仲間割れをしてるって言うんだ。」
シンシャ  
「仲間割れ?バンパイアが?」
ニール   
「ああ、何て言うんだ、共食い?って言うのか。お互いに殺し合って、かなりひどい有様だって。」
シンシャ  
「凶暴になってるって言うこと?まさか敵の新しい計画?」
オーカー  
「このタイミングでそれは妙だ。もしかしたら何かが起こっているのかもしれない。」
ニール   
「何かって何だよ。」
オーカー  
「分からない。ただ・・・。」
カーマイン 
「好機かも知れない。」
オーカー  
「はい。」
カーマイン 
「至急、各地の人々に連絡を。これより我々は戦力を一点に集中し、バンパイアの主、スカーレットを討つ。」
ニール   
「は!」

   ニール、シンシャ走り去る
   カーマインも去る

オーカー  
「『マゼンタ王国の制圧』、『大陸統一』、『人間の虐殺』、『バンパイアの共食い』、敵の目的は何だ?いたずらに戦線を拡大させたら補給が追い付かなくなること位想定できたはずだ。なのに、何故、彼らは必要以上にバンパイアを増やし続けている。一体何が目的なんだ?カーマイン様はエカルラート様の目指した世界を作りたいと言っている。じゃあ、奴らが目指す世界は何だ・・・。(何かを思いつく)まさか、そんな馬鹿な。でも、可能性はある。このままじゃいけない!急がなくちゃ。」

   オーカー意を決して去る

第十九章「反撃」
   

   再び場面は変わりバンパイアの居城
   スカーレットが倒れている、近くにはクリムゾン
   その周りに心配そうに立つシャド、セキ、コウ
   そしてギュールズ、アリザがやってくる

ギュールズ 
「スカーレット様が倒れたと言うのは本当か?スカーレット様、一体何が。」
アリザ   
「スカーレット様、何ておいたわしい。クリムゾン様、何故このような事に?」
クリムゾン 
「極度の飢餓状態と、環境の影響が大きいだろう。」
ギュールズ 
「どういう事だ?」
クリムゾン 
「現在我々は食糧問題を抱えている。急速に増えたバンパイアの食料となる人間の確保が難しくなっている。」
ギュールズ 
「ならさっさと人間を連れてきてスカーレット様に捧げればいい。」
セキ    
「兵たちが苦しんでいるのに、自分が食べるわけには行かない、と。」
ギュールズ 
「何だと?」
コウ    
「私たちも言ったさ、でもスカーレット様はそう言って聞いてくれないんだ。」
ギュールズ 
「愚か者!それでもお助けするのが我々の務めだ。やはりリサージが提言した人間養殖を無理にでも推し進めるべきだったか。」
アリザ   
「それで、環境と言うのは?」
クリムゾン 
「人間どもの残した物だ。お前たちも気付いているだろう。この大陸は既にお前たちの身体にそぐわない代物だ。空気はよどみ、水は濁り、草木は色を失っている。人間が砂漠で生き延びれないように、お前たちもこの大陸では生き延びれない。純粋なバンパイアであるスカーレットが一番影響を受けやすいと言う訳だ。」
ギュールズ 
「ふざけるな。ここまで来て人間どもに邪魔をされると言うのか。ならばすぐにスカーレット様を我らの故郷へ。森へ連れ帰る。」
シャド   
「ダメだよ。スカーレット様はここで指揮を執るって。」
ギュールズ 
「何を言うか。既に大勢は決した。あなた様がそこまでする必要は。」
クリムゾン 
「ある。奴らがこの機を逃すはずが無い。これからだ、本当の戦いは。」
ギュールズ 
「何だと。」

   そこへリサージがやってくる

リサージ  
「皆様、大変です。この城に奇襲をかけてきた人間どもが。」
ギュールズ 
「ええい、こんな時に。何者だ。」
クリムゾン 
「来たか、カーマイン。」
ギュールズ 
「いや、いい機会だ。その人間どもを捕らえろ。そしてその血をスカーレット様に捧げる。これなら文句は無いだろう。セキ、コウ。」
セキ    
「分かったよ。」
コウ    
「スカーレット様、またね。」

   セキ、コウ去る
   そして場面は変わる
   カーマインの軍勢がバンパイアの城へ侵攻
   バンパイアたちとの戦い
   オーカー、ニールを中心に立ち回り
   カーマインは指揮を執り、シンシャがライフルで援護をする
   バンパイアたち、退いていく

カーマイン 
「よし、このまま一気に進め!」
兵たち   
「おお!」

   兵たち先へ進むが、その先で斬撃音と兵たちの叫び声
   オーカー達の歩みも止まる
   そこへ現れたのは、セキとコウ

セキ    
「この先は行けないよ、人間。いや、違うか。行けるけど。」
コウ    
「スカーレット様の食事としてね。」
オーカー  
「アインス。」
ニール   
「それがどうした、こんな所でやられてたまるかよ。」
セキ    
「安心しろ、お前たちの相手は私たちじゃない。」
コウ    
「シャドが面白いおもちゃを用意した。確かお前たちに会いたがってた。」
カーマイン 
「どういう事?」

   そこへ姿を現したのは、ソルフェリノ
   しかし、かつての明るさは無い

ソルフェリノ 
「オーカー、君・・・カーちゃん・・・。」
カーマイン  
「ソフィ・・・。」
オーカー   
「ソルフェリノ、将軍・・・。」
ニール    
「まさか、バンパイアにされちまったって言うのか。」
ソルフェリノ 
「誰、だっけ?」
ニール    
「結局覚えてないのかよ!」
オーカー   
「倒しましょう。」
シンシャ   
「オーカー?いいの?」
オーカー   
「あれはソルフェリノ将軍じゃない。バンパイアツヴァイ。僕たちの、敵だ。」
カーマイン  
「オーカー。三人とも、敵を倒しなさい。」
ソルフェリノ 
「オーカー君。死んで。」

   オーカー、ニール、ソルフェリノの立ち回り
   しかし、ソルフェリノが勝つ
   オーカー、膝をついた所を、セキとコウに追い詰められる

セキ    
「楽しんでもらえたかな?かつての仲間と戦えて。」
カーマイン 
「何て悪趣味な。」
コウ    
「そうかな?自分勝手な人間よりはマシだと思うけど。」
セキ    
「さ、これで終わり。」
カーマイン 
「オーカー!」

   セキとコウがオーカーに止めを刺そうとする
   しかしその剣を止めたソルフェリノがコウを斬る

セキ    
「お前!この出来損ないが!」

   セキ、ソルフェリノに斬りかかるが、斬られてしまう
   セキ、コウ絶命

ニール    
「何で?」
ソルフェリノ 
「オーカー、君は、私のモノ。誰にも渡さない。私が殺すの。」
シンシャ   
「オーカー逃げて。」
ソルフェリノ 
「オーカー君、死んで。死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで。」

   ソルフェリノ、剣を振り上げるが、動かない。

オーカー   
「ソルフェリノ、将軍?」
ソルフェリノ 
「オーカー君。死んで、死んで、死んで、死んで。・・・違う、殺して。」
オーカー   
「将軍。」
カーマイン  
「オーカー、斬りなさい!」
オーカー   
「でも。」
カーマイン  
「命令です。敵を斬りなさい。お願い、あなたの手で、殺してあげて。」
オーカー   
「承知、しました。」

   オーカー、ソルフェリノを斬る
   ソルフェリノ倒れる

ソルフェリノ 
「オーカー、君。」
オーカー   
「将軍!」
ソルフェリノ 
「良かった。私、オーカー君が悲しむ顔、見れた。その顔が見たかったんだ。」
オーカー  
「嘘だ!だっていつもソルフェリノ将軍は、俺に明るさをくれたじゃないですか。どんな時でも、笑顔で、いたずら好きで、人を困らせて。悲しむ余裕なんてくれなかったじゃないですか。それなのに、最後にこんな顔をさせるなんて、ずるいです。将軍・・・。」
カーマイン 
「オーカー。」
オーカー  
「・・・大丈夫です。先へ急ぎましょう。さようなら、ソルフェリノ将軍。」

   オーカー去る
   後を追い、カーマイン、ニール、シンシャも去る

第二十章「虚無」
   

   場面は戻り、スカーレットの間
   スカーレット、クリムゾン、シャド、ギュールズ、アリザ、リサージ
   スカーレット意識を取り戻している

スカーレット 
「なるほど、現状は把握しました。」
アリザ    
「しかし、スカーレット様。今は休まれた方が。」
スカーレット 
「アリザ、ありがとう。でも、私はあなたたちに伝えておかなければならないこと、謝らなければいけないことがあります。私はまもなく死ぬでしょう。」
ギュールズ  
「な・・・。」
スカーレット 
「そしてそれこそが私の願いなのです。」
リサージ   
「お待ちください!ご冗談を・・・始まりのバンパイアであるスカーレット様が死ぬなど、あってはならないことです。」
スカーレット 
「逆よ。私なんてがいなければ良かった。そう思わない日は無かった。昔ね、まだ幼かった時、気が付いた時私は一人だった。周りに誰のおらず、一人きり。最初はそれでもよかったの。でもね、ある日人間と出会い、友達になった。初めて一人じゃ無くなった時、楽しいと思えた。でも、私は人間よりも長く生き永らえることが出来ると感じたのもその時。友達が老いて死んでいき、また私は一人になる。そんなことの繰り返しだったわ。だから私は仲間が欲しくて、初めて人間をバンパイアに、眷属した。ただ淋しかっただけそれだけの理由で。でも、仲間が出来た。そして私はそれが嬉しくて次々とアインスを作った。当時は何も考えていなかった。でも増えすぎた仲間たちはお互いの目指す道で対立を始めた。人間との共存を望むアインスと、人間を支配しバンパイアの世界を望むアインス。二つの勢力で争いが起こり、多くの血が流れた。人間も巻き込んだそれは、お互いの対立を生んだ。人間とバンパイア、それは決して相容れない存在となった。」
ギュールズ  
「それがスカーレット様の罪だと?私はそうは思いません。」
スカーレット 
「私はただ、この世界が好きだった。森があって、川が流れ、風が吹き、花が咲く。それだけでよかった。でも、人間達はそんな世界を忘れはじめた。だから私は思った、大地を奪う人間なんていなくなればいいと。でも、人間がいなくなったら、私たちは生きていけない。分かるでしょう?」
アリザ    
「人を喰らい生きる者が、その人を滅ぼそうとしている。それは矛盾しています。」
スカーレット 
「そう。私の願いはあなた達も滅ぼすことなの。だから私はあなた達に謝らなければならない。あなた達を裏切るのだから。」
ギュールズ  
「そんな話、事実なはずが無い。だって、あなたは我々に、私に、新たな命を下さった。何もかも無くした私に、救いをくれた。そんなあなたが。お前だな、クリムゾン。お前がスカーレット様におかしなことを吹き込んだ!」
スカーレット 
「この人間は見届けるの。終焉を。大陸は支配した。増えすぎたバンパイアたちは、これから残った人間達を奪い合うでしょう。そして人間はこの世界からいなくなり、残ったバンパイアたちは飢餓状態となり滅んでいく。」
アリザ    
「その為に必要以上に、人間をバンパイアに変えたのですかクリムゾン様。」
スカーレット 
「どんな生物もね、増えすぎたら滅びの道が見えてくるのよ。でも、これが私の望んだ世界。人間もバンパイアもいない世界。私はもう必要ないの。クリムゾン。」
ギュールズ  
「待て、何をするつもりだ。」
スカーレット 
「今の私なら、殺すことが出来るわ。私が死ねばもうバンパイアは生まれない。お願い、クリムゾン。」
リサージ   
「お待ちください、それでは我々の望みは、アインスとなり永遠の命を手に入れる願いはどうなるのですか。」
アリザ    
「ギュールズ様、今ならまだ間に合います。クリムゾン様を止めてください。」
ギュールズ  
「言われなくても。やめろ、クリムゾン!スカーレット様に手を出すな。」

   クリムゾン、スカーレットに剣を突き立てようとする
   そのクリムゾンを止めようと斬りかかるギュールズ
   しかしギュールズの剣を代わりに受けたのはシャドだった

ギュールズ  
「シャド、貴様。裏切ったか。」
シャド    
「違うよ。だって、それがスカーレット様の願いなんだ。僕だって、淋しいけど、ずっと淋しかったのはスカーレット様なんだ。だから、僕はスカーレット様の為に。人間、お前の事は大嫌いだ。けど、頭に来るけど、お前しかスカーレット様の夢を叶える奴はいない。だから、スカーレット様の夢を叶えろよ。クリムゾン!」
ギュールズ  
「この奴隷風情が!」

   ギュールズ、シャドを切り捨てる
   しかしその時には、スカーレットはクリムゾンの剣に貫かれている

ギュールズ 
「クリムゾン、貴様。」
リサージ  
「ああああ、スカーレット様が。永遠の命が、我々の理想が。」
アリザ   
「クリムゾン様、何と言うことを。」
ギュールズ 
「これがスカーレット様の望んだことだと?冗談じゃない、お前が唆したな。」
クリムゾン 
「そう思いたいなら、それでいい。」
ギュールズ 
「私は、スカーレット様の世界を作る。アリザ王女やリサージの知恵を使い、人間を飼い慣らし、バンパイアが生きる世界だ。」
クリムゾン 
「それはあいつが望んだ世界じゃない。俺もお前たちも必要ない。」
ギュールズ 
「黙れ!」

   ギュールズ、クリムゾンに斬りかかる
   二人の立ち回り
   そしてクリムゾンがギュールズを斬る

アリザ   
「ギュールズ様。もう終わりなの?全てが無駄だったの。私はただ抜け出したかっただけなのに。奪われる世界から。」
クリムゾン 
「抜け出せる。もう奪う者も奪われる者もいなくなる。」
アリザ   
「リ、リサージ。助けて。」
リサージ  
「うわあああ!」

   リサージ、アリザを突き飛ばし走り去る

アリザ   
「そんな。」
クリムゾン 
「それが人間だ。お前も良く知っているだろう。」
カーマイン 
「アリザ!」

   そこへカーマイン、オーカー、ニール、シンシャがやってくる

ニール   
「これは、どうなってやがる。お前がやったのか?」
シンシャ  
「何で、あなたの仲間だったんじゃないの。」
カーマイン 
「クリムゾン、あなた何を考えているの。あなたは何をしようとしているの。」
オーカー  
「人間とバンパイア、両方の終焉。この世界からどちらも無くそうとしている。そうですね」
カーマイン 
「え?」
クリムゾン 
「その通りだ。始まりのバンパイアは死んだ。アインスも死んだ。残ったバンパイアどもは人間を食いつくし、互いに殺し合い、飢えて死ぬ。この世界から人間とバンパイアが消える。俺とスカーレットの目指す物は同じだった。彼女には分かっていた、繁栄の道を進んだ先に、終わりが来ることを。その先に何もない事も。だから終わるために始めた。」
カーマイン 
「愚かな。そんなことをして何になると言うのです。」
クリムゾン 
「世界が本来の姿を取り戻す。緑が溢れ、花が咲き、柔らかな風が吹き、動物たちが穏やかに生きる世界が。かつて、一人の男が夢見た世界だ。」
カーマイン 
「エカルラート。」
オーカー  
「エカルラート様は人間の終わりなんて望んでいなかったはずだ。」
クリムゾン 
「俺たちは間違っていた。争いの無い世界。そんな物はどこにも無い。人間は争い、奪い、壊し続ける。その度に森が燃える、水は濁る、大地は枯れる。全てを奪う、俺たちは奪い続ける。そして奪い切った後に何が残っていると思う?何も無い世界だ。全てを奪い切り、俺たちも滅びる。バンパイアは血を啜り、滅びた。俺たちは何を啜り滅びる?」
カーマイン 
「人間は何も啜りはしない。」
クリムゾン 
「大地だ。お前たちは大地を啜る。この世界の赤い血を食い尽くす。そして気付く、その先に終わりが来ることを。それでは遅い。だからその前にいなくなれ。」

   クリムゾン、オーカー達に斬りかかる
   しかし多勢に無勢かクリムゾン、徐々に劣勢になり膝をつく
   そんなクリムゾンの前にシンシャ率いるライフル隊が現れ
   クリムゾンに狙いを定める
   しかしオーカーが間に入る

オーカー  
「(クリムゾンを止めようとする)もうやめましょう!何であなたと殺し合わなければならないんだ!僕は昔あなたに命を助けてもらった。そのあなたと。エカルラート様だってあなたにこんなこと望んじゃいない!カーマイン様だって、ずっとあなたを信じていたって言うのに。何でこんな事になったんだ。あなたが思うほど人間は馬鹿じゃない。きっと変えられるはずなんだ、終わりなんて来ない世界に。」
クリムゾン 
「そんな世界は無い。見えているはずだ、お前たちのその眼には。終わりが。目を背けるな。見えているはずだ、その終焉を迎える時、何も残っていないことを。」
オーカー  
「そんな日は来ない。あなたとエカルラート様と、カーマイン様がいるじゃないか。」
クリムゾン 
「エカルラートはもういない。あの日、俺の世界は終わった。」
カーマイン 
「クリムゾン。私は、私はまだ生きています。」
クリムゾン 
「・・・それがどうした?君には何も出来ない。スカーレット、君は残酷な女だな。」
オーカー  
「(クリムゾンの前に立ち、彼をライフルから守ろうとする)もう終わりにしましょう。」
カーマイン 
「オーカー、どきなさい!」
オーカー  
「嫌です。」
カーマイン 
「オーカー、これは命令です!」
オーカー  
「嘘だ。本当はカーマイン様だって分かってるはずだ。こんな結末を望んでいないって。ただ、歯車がどこかでずれてしまっただけなんだって。」
カーマイン 
「黙りなさい。その男は、私から全てを。」
オーカー  
「でも、僕は助けられた。僕には殺せません。」
クリムゾン 
「なら、次は殺してやろう!」(オーカーに斬りかかる)
カーマイン 
「撃て!」

   カーマインの合図でライフル隊がクリムゾンに向け発砲
   その瞬間、クリムゾンはオーカーを自分の後ろに投げ飛ばす
   そして銃を全てその身で受ける
   まるでオーカーを守ったのように
   ゆっくりとクリムゾン、その場に崩れ落ちる

クリムゾン 
「目を背けるな。繁栄を続ける者たち。その未来、大地を啜り歩むその先は終焉。その終焉には何も残らぬことを。」

   クリムゾン、ゆっくりと息絶える

ニール   
「終わった、のか?」

   そこへ兵士がやってきてシンシャに伝言をする

シンシャ  
「カーマイン様、各地のバンパイアたちが弱体化、戦局は我々に有利に傾いているとのことです。」
カーマイン 
「分かりました。すぐに全部隊に伝令を。バンパイアの主スカーレットは討ち取った。人間の勝利だと。」

   カーマインの号令で兵士たち去る
   オーカー、シンシャ去る
   ニールがアリザを連れて去る
   カーマインだけが残る

カーマイン 
「・・・。」

   少しの間
   そしてオーカーが戻ってくる

オーカー  
「カーマイン様、行きましょう。」
カーマイン 
「オーカー、これで良かったんでしょうか?私なんかが、未来を・・・。」
オーカー  
「何故、あの時カーマイン様を殺さなかったんでしょうね?」
カーマイン 
「え?」
オーカー  
「もしかしたらあの方は、託せる人を求めていたのかも。あなたならエカルラート様の理想も、スカーレットの願いも、そしてクリムゾンの想いも。」
カーマイン 
「そう、ですね。」

   カーマイン去る
   オーカー、クリムゾンの遺体を眺め、ゆっくりと頭を下げる

   幕

――――――――――――――――――――――――――――――――――

いかがだったでしょうか?
最後までご覧いただきありがとうございました
もちろん演劇用の脚本「戯曲」と言うのは上演されることを目的に執筆されているので、これだけ読んでも分からない点もあると思いますが
少しずつ戯曲も多くの方に身近に感じてもらえたらと思います

当脚本の初演時の感想等はamebloに紹介していますので、よろしければそちらもごらんください
https://ameblo.jp/v-r-e-s-za/
また劇団Z・AHPにて設定や裏ネタなども掲載されてますので合わせてそちらもお楽しみください
http://www.za-official.com/top.html

そして今後「赤を啜り、終焉は虚無と知る」は別バージョンや、スピンオフを執筆していきたいと思っています

気に入っていただけたらサポートも嬉しいです サポートしていただいた分は全て演劇界の発展のために使わせていただきます