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サキミの事例インタビュー⑥『ルールの目指す望ましい未来を目指し、全力を尽くす』

今回は、休職期限間際で復帰可能性が心配された事例をF社の人事Aさんと振り返ります。

人事紹介1月

またか…。

Aさん:
休職を3回繰り返した、弊社のDさんのケースです。このDさんは、1回目と2回目の休職のいずれも、休職期間満了日の1週間前に『復職可能』の診断書を持ってきて復帰。しかし、2回とも復帰後2、3ヶ月で調子を崩し、三度休職することになってしまいました。

サキミ:
このDさんのご様子がきっかけの一つとなって、EAPを導入していただいたんですよね。

Aさん:
そうでした。Dさんが2回目の休職から復帰後、また調子が崩れ始めてしまったので、サポート方法を調べて、EAPを知りました。サキミさんたちEAPにはDさんなどの休職者の個別対応だけでなく、弊社の職場復帰の取り組みについてもアドバイスをもらって、厚労省の職場復帰支援の手引きに則ったルールを整備し、就業規則の改定も進めました。これまで、職場復帰後1日でも勤務すれば、何度でも休職できてしまう状況でしたが、同一疾病での休職は、復帰後1年を経過せず再休職となった場合には、前の休職日数と通算することになりました。その改定後にDさんが3回目の休職に入ったので、改定した規則で対応することになっていました。

サキミ:
そうですね、
・職場復帰後に再発しないように、状態回復に加えて再発予防策を立ててもらうこと
・復帰を受け入れる周囲の心配や負担を軽減すること
が目的のルール改定でした。

Aさん:
はい。しかし、Dさんは、この3回目の休職も、その前の休職時と同様に、診断書は送ってくるものの、こちらから連絡をしてもなかなか連絡がとれませんでした。
きっと、今回も休職可能期間満了直前に診断書を出せば、簡単に戻れると考えているだろうなと。でも、そう思い通りにはいかないぞと、強く思っていました。
せっかくEAPも導入したから、今度はうまく進めようと、サキミさんに事前に確認の相談をしたんです。

首尾よくやるぞ!

サキミ:
若干、戦闘態勢でしたよね?!

Aさん:
いや、完全に戦闘態勢でした…。社員をサポートするはずが、戦う気になっていたなんて。

サキミ:
Aさんは、Dさんの不在をフォローする方々のお気持ちに寄り添って、サポートしようとしていたんですよね。

Aさん:
本当にそうでした。Dさんがいない分の業務も担って苦労している社員たちを思うと、不公平だと腹も立っていました。実際にそういう声もあがっていましたし。だから「具合が悪くなったら、また休めばいいや」なんて安易な気持ちは持ってほしくないから、「今度は首尾よくやるぞ!」と気合いを入れて…。
そのとき、サキミさんから訊かれたんです。

サキミ:
「首尾よくやるとは、具体的にどういうことをイメージしていますか?」でしたね?

Aさん:
「また復帰してすぐに休むということがないように、直前で復帰可能の診断書を出してくるのを阻止したい。それも会社側に落ち度がないような適切な方法で。」と力強く答えました。
そうしたら、サキミさんが―

サキミ
「適切な方法で復帰をさせないということが目標ですか?」と、さらに尋ねました。

Aさん:
そうです、そこで、ようやく違和感を覚えました。私は復帰させたくなかったのだろうか…と。
なんだかそんな気になっていたけれど、いや、決してそうじゃないなと、サキミさんと話しながら、自分の思いが整理されてきました。
 ・休職中に必要な連絡がとれない
 ・調子がよくなっている様子がないのに、復帰可能の診断書を持ってくる
 ・復帰しても全然勤怠が安定しないし、仕事ができていない
というこれまでの行動に不信感を覚え、「働く気がないんだ」と判断している自分に気づいたんです。そうすると、今度は「厄介な人」となってしまって、挙句の戦闘態勢でした。

サキミ:
望ましい行動が何年もの間みられないと、どうしても、その方の行動=その人の人格・特徴と、思えてしまうことがあると思います。

Aさん:
当たり前にそう思っていました。でも、私が「働く気がない怠け者なんだ」と言ったら、サキミさんは「復帰意欲を示す行動は、まだ見られませんね」と返してくれたのが印象に残っています。確か、「厄介者」と言ってしまったときは、「本当に対応が難しいですね、対応にエネルギーが要りますね」と返してくれたと思います。確かに大変だったし、嫌な気持ちでした。だから早く問題を解消しようと、「診断書を出させない」になってしまっていたんです。

サキミ:
懸命にご対応なさってきて、その分の思いも積み重なってのことですから、無理もありません。

ルールが目指す姿

Aさん:
自分の感情が判断や行動に大きく影響していることに気づけたところで、サキミさんに改めて「現在の状況はわかりませんが、状態が回復して元気にお仕事ができたら、それはそれで望ましいことなんですよね?」と訊かれ、「もちろん」と答えられました!
「復帰させたくないのではない。みんなが安心できる状況で復帰してほしい」と。
ただ、元気に働けるイメージは簡単にはできなくて、「元気に働ける可能性ありますかね?仮に戻れても、また再休職になるんじゃ」とも言いましたね。

サキミ:
Aさんのご心配は、痛いほど伝わってきていましたし、同じようにDさんも心配や不安を抱えていると思っていましたから、そのことをAさんにもお伝えしました。

Aさん:
だからこそのルールですよね。
サキミさんは、「確かに、この状況ですと、復帰後に再度調子を崩してしまったときの対応を整理しておけると、お互いに安心ですね」と、“お互いに安心”という言葉をあえて使ってくれましたよね?
サキミさんと一緒に、規則改定の目的を念頭に置いて対応を再確認していくことで、ルールは厄介者を排除するためのものではなく、休職者も会社も双方が安心するためのものだったと思い出したんです。

・簡単に再休職できないルールは、本人がセルフケアに一層真剣に取り組むことを後押しするため
・仮に、再休職に至った場合にも、より期限を意識して復帰に向けた取り組みの開始を前倒しできる
・状態改善が見込めない場合に、本人と周囲ともに負担のかかる状態が長期化する事態を防ぐ

線引きが明確なので、仮に無理だったときにも、お互いに納得感が得られる、そのためのルール改定でした。この目的を休職しているDさんにも理解してもらうことがDさんに安心感を与え、復帰後も一緒に適切な対応をしていくことにつながるからこそ、“復帰時に”、“書面で”の確認が重要であることも思い出しました。

サキミ:
おっしゃる通りです。

Aさん:
お互いのためという確信が戻ってきて、心配は解消されました。
その後、残念ながらDさんは今回の復帰後も働ける状態ではなく、ルールに則って休職期間満了での自然退職という状況になってしまいました。ただ、このルールと目指す目標があったからこそ、退職して本格的に治療に専念すると、Dさんが自ら決断できたんです。この自らの決断は、人事としても、社会人の先輩としても、彼の今後の人生にとってよかったと心底思います。退職後に諸手続きで連絡をとった社員に、「定期的に通院をし始めて、少し身体が楽になってきた」と言っていたそうです。

サキミ:
ルールが本来の目的を果たしましたね。

Aさん:
本当にそうです。Dさんだけでなく、ルールが“就労可能な状態”を示し、目標となることで、新たに休職が必要な社員が出てきたとしても、前向きに対応できるようになっています。「ここまでに、こうなるように頑張ろう」と具体的に共有し、一緒に取り組みやすくなりました。それに、EAPを利用することも当たり前になって再発防止策も底上げされているから、このルールをあまり気にしなくなる日も近いと思います。

サキミ:
是非、そうしましょう!


「社員や組織を守り」、「自らの力を発揮する」ためのルールを事例性の解消やリスク回避ばかりを意識して、自らの可能性を狭める枠組みのように活用するのは、非常に勿体ないことだと思います。
公平性を担保するルールが、社員と組織を守るためのものであることを忘れてはいけないと、強く思ったサキミでした。


■サキミのプロフィール
ビジョン・クラフティング研究所 シニアコンサルタント
臨床心理士・公認心理師・1級キャリコンサルティング技能士

サキミさんアイコン1月

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