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人材マネジメントの動向⑫

・組織社会化、組織再社会化の説明性を高める。
・研修目的の行動レベルでの設定の理解を深める。
・研修目的とそれを実現する方法とをつなぐ説明性を高める。
・コンティンジェンシー理論の理解を深める。
・オンボーディングの事例を整理する。

みなさん、こんにちは。

上のリストは、「管理職の成長を支援したい」という顧客との打ち合わせを終えた後の振り返りのメモの一部です。
企画者の問題意識が組織社会化、組織再社会化にあると推論し、まずはそれをイメージしてもらおうと定義や下位次元、成果等を整理して説明しました。問題意識の半分は重なっていたようですが、説明性を高めればその割合を高くすることはできたはずと反省し、資料を読み返したとき、組織社会化の成果である「円滑な組織マネジメント」が目に留まりました。

組織社会化という概念を知る前には、組織マネジメントや経営理念の浸透に関心をもっていました。
組織マネジメントの定義についてはいくつかあるのでしょうが、僕の場合は高橋俊介先生の人材マネジメント観との出会いが最初でした。
人材マネジメントを組織マネジメント、人材フローマネジメント、報酬マネジメントの3つの概念で整理されています。
そして、組織マネジメントを「組織が目標を達成するために、こんな行動を期待しているのだということを、一人ひとりに理解させ継続して実行させる方法論である。」と定義され、さまざまな手法が挙げられています。

・都度命令によるマネジメント
・マニュアルによるマネジメント
・ジョブ・ディスクリプションによるマネジメント
・数値目標やノルマによるマネジメント
・目標管理による目的合理的マネジメント
・ビジョンや行動規範によるマネジメント

高橋俊介(2006)『新版人材マネジメント論―儲かる仕組みの崩壊で変わる人材マネジメント』
東洋経済新報社

経営環境の変化のスピードが増大している場合は、抽象度の高い組織マネジメントが求められると理解しています。
ビジョン・マネジメントやパーパス・マネジメントが求められるのは、そういった背景があるのだと思います。
また、働く人の価値観の変化への対応も考えられます。
働く人の主体性を引き出すために人間尊重の価値観に、あらためて光が当てられているということではないかと思います。
ちなみにパーパスに関連して言うと、組織には「アソシエーションの側面とコミュニティの側面がある」というとらえ方が大切であるように思います。

そして、組織マネジメントと関連すると思っているのが経営理念の浸透です。
組織社会化の成果が円滑な組織マネジメントということは、組織社会化が手段で、円滑な組織マネジメントが目的という関係になるでしょうか。
経営理念の浸透は、組織社会化の下位次元である文化的社会化や役割的社会化と重なるかと思っていますが、整理はできていません。
こちらも、顧客に説明することであらたな気づきというか、理解が深まった感覚がありました。

高尾先生、王先生の『経営理念の浸透』では、理念浸透を「理念への情緒的共感」、「理念内容の認知的理解」、「理念を反映する行動的関与」の3つの構成次元でとらえていて、その3次元間の関係も検討されていました。
「理念への行動的関与を高めるために、理念への高い共感を維持しながら、理念の認知的理解をより深いレベルに高めていく必要がある」ということでした。
とくに「理念内容の認知的理解」は、行動レベルでは「語れるようになること」です。
そう、ラボの所長のビジョンは「ひとりひとりが、より良い未来を描くビジョンを語れるようになること」でしたね。

そしてもう一つ、顧客との打ち合わせの資料をあらためて読み返しているときに気づいたのは、人材マネジメントの動向⑩でふれた田中先生、中原先生が「新規事業創出経験を通じた中堅管理職の学習に関する実証的研究」で明らかにされた学習プロセスの結果図を眺めているときでした。
結果図の「働く目的の振り返り」「事業価値の探索」の2つの概念が,
組織社会化、組織再社会化ととらえ、それが学習プロセスの前半にあることの重要性です。
強引かもしれませんが、この気づきと、中原淳先生の「知識やスキルは想像以上にポータブルではない」ということと関連するのではないかと思いました。
中原先生は、「知識やスキルは領域固有性と文脈依存性があるから」と理由を述べられています。
組織社会化、組織再社会化はすごく大切、そしてほぐすことも大切と想像しています。
この点は、僕なりの答えを導くためにていねいに調べていこうと思っています。

最後に、研修目的を実現する方法としてビジョン・ナレーティングを考えたときの気づきとなります。
少し懐かしむと、ビジョン・ナレーティングは2009年7月に顧客に提案していました。

「仕事の意味に目を向け、社員は個人レベルでの仕事の意味を語れるようになることで有意味感を高め、健康生成を促す。
そして、管理職は職場レベル・組織レベルでの意味を語れるようになることも目指す。
また、有意味感を高めることは、やる気を引き出すことと重なります。」


能力不足で伝えたいことを表現しきれていませんが、精一杯だったと思います。
顧客はチームで研修を企画されていて、まだ実績がないことも承知されて
採用いただきました。
会社(ジャパンEAPシステムズ)の信用(ブランド)とはこういうことだと感じました。

今回のビジョン・ナレーティングは当時とは違う文脈で提案しているわけですが、アルコール依存症の自助グループであるAA(AlcoholicsAnonymous)に似た方式で、話し手は順番に自分のことを話し、他のメンバーは黙ってそれを聞くというグループスタイルを取ることに変わりはありません。
僕自身は、双方向でないのが物足りないと思っていました。
しかし、今回他者との相互作用ではなく、自己との相互作用に限定している
グラウンドルールに理解が深まり、可能性を感じました。
自分との対話について、わかりやすく整理されているものはないか探していたところ、木下先生の『定本 M-GTA』でシンボリック相互作用論の概要がまとめられていました。


「シンボリック相互作用論の理論的基盤を確立したのはG.H.Meadで、彼は人間が言語的、非言語的シンボルを用いたコミュニケーションができるのは
自分自身を対象化できるからで、それを「自己(self)」の概念によって、
その発達、形成過程を含めて理論化した。自己をもつことにより、
人間は自身の中でコミュニケーションしているのであり、
それゆえに他者ともシンボリックなコミュニケーションが取りもてるようになる。」

木下康仁(2020)『定本 M-GTA 実践の理論化をめざす質的研究方法論』医学書院

ビジョン・ナレーティングのグラウンドルールは、人材開発全般に活用できると思いました。
チビさきみのこべやでも、この自分との対話がふれられています。

組織社会化や組織再社会化、組織マネジメント、経営理念の浸透が
大切だということを顧客との接点であらためて感じたという話でした。

次回の人材マネジメントの動向⑬は、「思い」のマネジメント(Management by Belief:MBB)を参考に、僕自身のマネジメント観を「再考」することを予定しています。
準備が出来次第公開します(年明けになると思います)。

■ プロフィール
小西 定之(こにし さだゆき)
ビジョン・クラフティング研究所 シニアコンサルタント

産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、証券会社で企業金融に従事、その後、独立系コンサルティング会社において人材マネジメント分野のコンサルティング業務(主に人事評価制度)に従事、そして株式会社ジャパンEAPシステムズで会社におけるメンタルヘルス対策のあり方について探究。

お問い合せ:https://www.jes.ne.jp/form/contact