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人材マネジメントの動向⑦

この回は、VCラボの設立趣旨やデリバラブルでふれている「人材マネジメントにおいて一般解が存在しない」ということに着目してみます。
僕自身はコンティンジェンシー理論の考え方から理解しようとしていますが、まずはわかりやすく説明されている文献を二つ紹介します。

ひとつは、中原先生と中村先生が編まれた「組織開発の探究」からです。

「変革のベストウェイとは、あらかじめ研究者やコンサルタントによる組織の理想像(ベスト)と、そこに至る道筋(ベストウェイ)が定義されており、そこに至ることを支援するものが組織開発であるという考え方です。」
「これに対して組織は目指す姿や取り巻く環境、その組織にいる人々が異なるため、組織によってありたい姿は異なる」

ととらえるのが、コンティンジェンシー理論の考え方となります。

もうひとつは、金井先生と高橋先生が編まれた「組織行動の考え方」からです。

「内部環境・外部環境のあらゆる条件に適する組織戦略はない。そこからすると、現代の組織に有用な理論は、ある意味で、すべて条件適応(コンティンジェンシー)的であるといえる。組織構造にしても、リーダーシップにしても然りだ。」

恥ずかしい限りですが、「経営学の理論的系譜」として理解していたのではなく、科学的管理法、人間関係論、新人間関係論、コンティンジェンシー理論と順番を記憶する程度で素通りしていました。
一度立ち止まって、この経営学の理論的系譜から何を学ぶべきか考える必要がありました。

「唯一最善の方法(one best way)」が存在しないということは、自分で考えるしかないということだと理解しました。
難しいので研究者に考えてもらいたいという気持ちはありますが、そこをおさえて、自分で考えるということ。
そもそも自分のことを実務家とは言いませんが、自ら研究者と実務家の役割を分けるようなことをして、考えることを避けないということだと理解しました。

質的研究方法論のM-GTAでは、概念を生成するときに既成の概念を使うと、
「具体例から解釈できる意味の範囲よりも確実に大きくなりすぎる」と、注意を促しています。おそらくこの点を利用して、僕自身は経験を振り返っていると勘違いしていたのだと思っています。意味の範囲が広いため、既成の概念が僕の経験に当てはまってしまいます。自ら考えたのではなく、権威に裏打ちされた「概念」を纏っていただけだったということになります。

コンティンジェンシー理論は自ら考えることの重要性を教えてくれます。
そして、自ら考えることは僕自身の学習課題でもあります。
さらに、この学習課題はワークショップ開発へとつながっていくわけですが
学習課題については、最終回であらためて取り上げます。

次回は、EAPのルーツの視点から人材マネジメントをとらえてみます。

◆中原淳・中村和彦(2018)『組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす』ダイヤモンド社

◆金井壽宏・高橋潔(2004)『組織行動の考え方―ひとを活かし組織力を高める9つのキーコンセプト』東洋経済新報社


◆木下康仁(2020)『定本 M-GTA 実践の理論化をめざす質的研究方法論』医学書院

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■ プロフィール
小西 定之(こにし さだゆき)
ビジョン・クラフティング研究所 シニアコンサルタント

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産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、証券会社で企業金融に従事、その後、独立系コンサルティング会社において人材マネジメント分野のコンサルティング業務(主に人事評価制度)に従事、そして株式会社ジャパンEAPシステムズで会社におけるメンタルヘルス対策のあり方について探究。

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