FUNDINGFACTBOOK表紙

資本政策の感想戦「株式会社スペースマーケット」

「資本政策の感想戦」シリーズを元に書籍として編纂した本『実践スタートアップ・ファイナンス 資本政策の感想戦』を2021/10/7に出版しました。

本noteにおいて取り上げた「株式会社スペースマーケット」の解説記事は、書籍内では、2章に掲載しています。書籍化に伴い資本取引に関連する図表を書き直している他、図表の一部削除と追加を行っています。
note版の図表は、個別具体的な資本取引について実務で用いる資本政策表に近い形で確認できるようにしている他、1期ごとに読みすすめることをしやすいように、各期ごとにサービス状況を確認できる図を掲載しています。

2022/5/11 山岡佑

ーーーーーー

企業が新規株式公開(IPO)を行った場合、その企業が作成した「新規上場申請のための有価証券報告書(以下「Ⅰの部」という)」を見れば、その企業が上場までにどのような資本取引を行ってきたかを伺い知ることができる。

このnoteは「資本政策の感想戦」と銘打ち、第三者の視点から、創業から資本取引を将棋の棋士が行う感想戦のように1手1手振り返り、その背景で動いていた資本政策の意図を考察することで、資本政策に関する学びを得ることを目的として書いている。

取り上げる企業:株式会社スペースマーケット

このnoteでは、2019年11月15日に上場が承認された株式会社スペースマーケット(上場日2019年12月20日、証券コード:4487)を題材として資本取引の検証を行う。
株式会社スペースマーケットは、創業第6期で上場承認された。創業後上場に至るまでの資本取引を、記事内では14回にまとめている。

株式会社スペースマーケットの資本取引を振り返ることにより、
①共同創業者と創業する場合の持分比率の決定タイミングをいつにするか
②内部向けのエクイティを用いたインセンティブプランをどのような条件で設けるか
③外部調達資金をどのように費消して複数回の外部調達のプランを考えるか検討するいい機会になるだろう。

会社が公表したⅠの部を情報源としており、各回の資本取引について推定を交えた考察は行うが、極力客観的事実の枠内から外れないように記述を心がけている。

第1期の資本政策:

□ 会社の状況

■ サービスの状況
2014年4月28日に、株式会社スペースマーケットは、遊休不動産等のスペースを貸し借りできるマーケットプレイスのサービスを開始した。
ローンチした2014年当時は「Airbnb」がちょうど注目を集めていた時期であり(2014年5月に、Airbnb Japan株式会社が設立されている)、ビジネス向けのAirbnbとしてTech Crunchで紹介されている。サービス当初から、特徴的な施設を含めた利用可能なスペースを100件以上用意していた。

登録されるスペースについて、主に営業経由で獲得を行っており、1年で800超の物件を営業により登録させている。物件や空きスペースを持つ個人・法人がサイト経由で申し込むことにより登録されるスペースも、ローンチ後徐々に増加し、2014年12月にはサイト内登録件数のうち1/3の物件は、サイト経由の登録物件となっていた。

画像1

2014年は、ピッチコンテスト複数参加しており、同年5月に参加したInfinity Ventures Summit(IVS)では準優勝、7月に参加したB Dash Camp 2014 Summer ピッチアリーナでは優勝、8月に参加したRISING EXPO 2014 in Japanではグランプリを受賞11月に参加したTechCrunch Tokyo 2014において開催されたスタートアップバトルではファイナリストに選ばれている

また、ラジオ・テレビでサービスが紹介されたこと(例えば、TBSテレビの事例など)や、Webメディアにおけるインタビュー記事(例1例2)が数件あることから、メディアにおける露出に成功していた。
ローンチ直後から、サービスページの作りや利用可能なスペースについて、ウェブ媒体で取り上げられることを意識していたことを後日のインタビューで明らかにしており、メディアにおける露出は戦略的なものだったことが伺える。

サービスローンチ初年度にあたる2014年における活動をまとめると、営業により登録物件数を増やすと共に、①ピッチコンテストにでること②多数のメディアでインタビューに応じることにより、メディアへの露出を重視したと言えるだろう。

業績の状況
初年度の売上高は3,514千円。利用者から受け取るプラットフォーム利用料金から、スペースを貸出したホストに支払うスペース料金を控除した後の、プラットフォーム利用料純額が売上高として計上されている。

2014年7月31日の記事上で、当時のコミッション率の水準は平均25%程度と明かされている。当該コミッション率から逆算すると、初年度におけるサービスにおけるGMV(Gross Marchandise Value、総流通額。利用者が払う利用料総額)は1000万円強だったことが伺える。

当期純利益は△31,310千円。

■ 機関の状況
創業時取締役として代表取締役CEOの重松大輔氏、CTOを務める鈴木真一郎氏、創業時監査役として中村宏氏が登記されており設立当初から監査役設置会社となっている。
2014年度において、機関の状況に変更はなかった。

■ 組織の状況
2014年度中に、1人目の従業員として、営業を務める益戸佑輔氏が入社している。1の部「主要な経営指標等の推移」を確認する限り、期末時点で臨時雇用者(主にインターン)4名、正社員5名の構成となっている。

■ 資本取引の概要
全4回(設立登記、第三者割当3回)

画像2

ここから先は

18,410字 / 31画像
この記事のみ ¥ 1,500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?