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調達15回、積み上げた資金の累計68億円。FiNCの攻める資本政策【全体像編】

noteのモチベーション:FiNCの資本政策が面白い。

このnoteではヘルスケア×テクノロジーの事業を行う株式会社FiNCの資本政策を紹介する。FiNCは大型調達を行っている未上場企業の一つとして知られている。これまでの資金調達の全容を確認するために登記簿謄本を取り寄せ、これまでの資本政策を確認したのだが、その内容が実に面白いのだ。自分が感じた面白さが共有できればと考えて、このnoteを書いている。

FiNCの資本政策の面白さをまとめると、合理性のある資金調達を行ってきた反面、ストック・オプションの設計が実に実験的であることだ。

記事を2つにわけ、このnoteでは、FiNCの資本政策の全体像を紹介し、これまでの資金調達の合理性について紹介する。
追って投稿する後編のnoteにて、実験的なストック・オプションの取り組みについて解説する。

FiNCの資本政策が持つ2つの側面
1. 規範的な資金調達(本ノート「全体像編」で解説)
・ 普通株/優先株の使い分け
・ 全てのラウンドの優先順位が同順位のシンプルな設計
・ ストック・オプション配布のタイミングは必ず資金調達前

2. 実験的なストック・オプション(「SO設計編」で解説
・ 同一日付で、条件が異なるストック・オプションを複数個発行
・ 会社の意図を強く織り込んだユニークなストック・オプション設計

FiNCの資本政策の概要

(1)これまで起こった全イベントの確認

まず、FiNCがこれまでに行ったEquity Financeを振り返る。プレスリリース等から断片的に情報は獲得できるが、その全容は登記簿謄本を閲覧することで理解することができる。
登記簿謄本から取得できたEquity Financeのイベントを上図にまとめた。

2012年4月の会社設立以降、Equityを使って計15回資金を調達している(普通株5回、A種1回、B種2回、C種2回、CⅡ種3回、D種2回)。
2014年2月から2016年8月までに、4度のタイミングでストック・オプションを発行している。
同一の株価で調達ないしストックオプションを発行している期間を同一のラウンドとすると、設立以降のラウンドは以下に分割される。

① Seedラウンド
 ①-1 Seed 1st      2013/8/20〜2014/2/28
 ①-2 Seed 2nd    2014/3/31
② Series A ラウンド 2014/9/5〜2015/9/30
③ Series B ラウンド 2015/12/4〜2016/8/31
④ Series C ラウンド 2016/12/14〜2017/1/31
⑤ Series CⅡ ラウンド  2017/8/31〜2017/10/11 
⑥ Series D ラウンド 2018/2/23〜2018/2/28

(2)各ラウンドの詳細

上記表の通り、設立以降累計68億円の調達を行っている。活発に法人・個人投資家から株式発行による調達を開始したのは、設立から2年たった2014年(厳密には、前年に転換社債を1000万円調達している)に開始されたSeedラウンドだ。

Seed ラウンド

現CTOの南野氏、2017年に退任した元CHO(最高人事責任者)の岡野氏、社外取締役3名を取締役に迎い入れた2014年2月に(1)第三者割当を実施(2)SOの発行を行い、その1ヶ月後の3月31日に価格を倍増させて、再度第三者割当を実施している。なお、同3月には、「FiNCダイエット家庭教師」をローンチしている。
セオリーに従えば、価格を上げる前に行った2月のラウンドはCEO並びに新任の役員を中心とした内部向け、価格を倍増させた3月のラウンドは外部向けだと推定される。

SeriesA

2014年9月から開始されたSeriesAから、本格的に外部からの出資を受けている。このラウンドでは、事業会社(リンクアンドモチベーション)・VC(伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、グリーベンチャーズ)、新任の顧問2名から、出資額1.25倍のフル参加型(= 元本回収後すぐに追加の分配がもらえる。下記図および、磯崎先生の「起業のエクイティ・ファイナンス」参照。凄い良書。)残余財産分配権および配当の優先権を付与したA種優先株式により11億円を調達している。

組織的にも動きが2つあった。
FiNCは2018年6月末現在で3人の代表取締役をおいているが、その1人である現CWOである乗松氏が同時期に代表取締役に就任している。また、この時期に、銀座のオフィスに移転を行っている。

翌年の2015年7月には、同一の株価で普通株式により個人投資家から1.5億円を調達している。この調達では著名な方からの投資を受けており、例えば、元サッカー日本代表監督の岡田武史氏がこの調達に参加している。

SeriesBを行う3ヶ月前の2015年9月には、SeriesAの株価を行使価格としてストック・オプションを発行している。2015年6月には3代表のうち最後の1人である現CFOである小泉氏が代表取締役に就任しており、外部調達により株価が上がる前に、新任役員・従業員向けのインセンティブ設計を行ったことが伺える。

SeriesB

2015年12月から実施したSeriesB ラウンドでは、SeriesAから6倍強の株価で、同月に合計9.6億円の調達を行っている。本調達は、事業会社を中心とした調達となっている。ラウンドの直前の11月にはtoB向けのサービスである「FiNCウェルネスサーベイ」を発表しており、資本を入れた事業会社との連携強化の狙いも伺える。

この調達は、出資額1倍のフル参加型( = 元本回収後すぐに追加の分配がもらえる)の残余財産分配権および配当の優先権を付したB種優先株で行っている。
なお、残余財産分配権並びに優先配当に関する優先順位をA種優先株とB種優先株を同順位としている。従前の6倍(しかも調達3ヶ月前にストック・オプションを発行したばかり)の価格で調達を行ったため、後に出資した投資家が優先権を得る「先順位型」の設計も考えられた局面だったと思われるが、インセンティブ設計がシンプルになる同順位型としたことから、対投資家に対する交渉力の強さが伺える。

法人調達を終えた1ヶ月後の2016年1月には、調達時と同一価格で発行できるようにしたストック・オプションを2種類発行している。
1つは、権利行使によりB種優先株式を取得できるようにしたもので、行使条件は定められていない(=いつでも行使可能)。従って、後の株価が上がったRound以降であっても同一の価格で追加出資ができるようにした投資家向けのものと推測できる。
もう1つは普通株を対象としたものである。行使条件に、2016年4月から付与者とFiNCが共同で開始したヘルスケア事業において獲得した利益に応じたベスティング条項(利益額に応じて行使可能割合が変わる条件)がさだめられている。同年同時期に、ソフトバンクと共同で行う「パーソナルカラダサポート」を発表しているため、このストックオプションは、ソフトバンク向けの発行と思われる。

2016年4月には、同一価格で従業員及び個人投資家から普通株式で2.3億円の調達を行っている。Series Aラウンド時に行った個人投資家向けの調達時と同様に個人投資家に対しては普通株式、法人投資家からの調達の時のみ経営が不調になった時の保護策(ダウンサイドプロテクション)がある優先株にて調達を行うという、株式の徹底した使い分けをおこなっている。
なお、同時期の2016年3月に、現在居を構えている有楽町オフィスに移転を行っている。

また2016年8月には、SeriesBの株価を行使価格として、ストック・オプションを発行している。このタイミングで発行したストック・オプションは全て有償となっている。有償SOの税務上の取扱を鑑みると、役員・従業員の立場の者だけでなく業務委託者や提携先の会社に対してもインセンティブを付与していることが伺える。
なお、4ヶ月後の2016年12月にはSeriesCによる調達を行っており、SeriesBにおける発行時と同様、株価を上げて大型調達を行う前にストック・オプションを発行する合理的な資本政策を一貫している。

Series C,CⅡ,D

2016年12月から開始したSeriesCラウンドでは、SeriesBから価格をさらに2倍超に上げ調達を行っている。このラウンドでは、一般事業会社及び少数の個人投資家から20.6億円を調達している。直後の2017年1月23日に自社名の名前を冠したアプリ「FiNC」をローンチしており、この調達も同ソフトの開発費並びにマーケティング費への充当を目的と発表している。

2017年8月31日に、SeriesCからほぼ価格を替えずに、NECとの提携強化を目的として8.6億円の出資を受けた資本提携を行っている(Series CⅡラウンド)。
NECの他、Series CⅡラウンドとして2017年9月・10月に計2億円、Series Dラウンドとして2018年2月に計21.5億円調達を行っているのだが、このSeries CⅡの後半のラウンドから、FiNC社のプレスリリースでの情報開示は行われていない。
これらのラウンドで行われた調達は全て、同順位・フル参加型の残余財産権並びに配当の優先権がある優先株が使われている。

Series Cまで順当に株価を上げて外部から調達を行っていたFiNCだが、Series CⅡでは+2%、Series Dでは+6%と、直近の調達ではほとんど株価を上げることができていない。資金調達面から考えると、そろそろ上場を行うフェーズに差し掛かっていることが伺える。

なお、機関設計上から考えても、FiNCはいつ上場してもおかしくない状況となっている。前年に資本金が5億円を超え会社法上の大会社になった2016年8月から新日本有限責任監査法人が会計監査人となっており、加えて、2018年4月には監査役会設置会社となっている。
もっとも、Series Cに入る前の2016年9月に1:200の株式分割を行っており、この時期から既に上場を本格的に考えていた可能性は高い。

(3)資金調達に関するまとめ

これまでの資金調達を仔細におったが、FiNCの資本政策について規範的・合理的な特徴が数点見受けられた。まとめると以下3点に集約される。
① 法人に対しては優先株・個人に対しては普通株という徹底した使い分け
② シンプルな設計となる、全ラウンド同順位の優先株

③ 大型調達による価格上昇前に、ストック・オプションを発行する

なお、全ラウンドにおける調達内容を1枚にまとめた資料を下記に添付した。15回の調達を纏めたものになるので拡大して見てほしい。

最後に:後日公開の後半記事の概要

FiNCは、これまで振り返った通り、Equityの調達に関して規範的・合理的な方法で調達を行っていたといえる。それに対して、実験的と言える取り組みをしているものが、ストックオプションの設計である。

これまで、第1回新株予約権から第13回新株予約権まで13種類のストック・オプションを発行しているのだが、これまで振り返った通り、発行を行ったのは、おおよそ4回のタイミングのみとなる。

当然に、同じ日付で何種類もストックオプションを出していることになるのだが、その意図は何か、その意図について解説はSO設計編で行っている。


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一応の注意
①全ての文・図表はこの記事のため登記簿謄本をもとに独自に作成したものとなります
②FiNC社はこれまで2度株式分割を行っていますが、文中の株価・株数は全て分割後の数字となっています。

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