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噓日記 6/2 ネット通販

月が変わって、ネット通販からセールの情報が続々と届き始めた。
ポイント倍率が高いだとか、あの商品が安くなるだとか魅力的な文言をこれでもかと並べたててくるものだから、ではちょっと見てみようかと通販サイトを流し見る。
食品だの、ホビーだの、時計だの。
普段から見ているようなカテゴリから何かいいものはないだろうかと見ていくのだが、何故かどうもしっくりこない。
カートに入れてみては、出してみて、入れてみては、出してみて。
ここまで入れたり出したりするのは酒井順子か私くらいのものだろう。
どうにも決めあぐねるので時間を無為に浪費する感覚が強く、一度スマホから意識を逸らそうと近所のコンビニまで向かった。
入店して、ビビッドなオレンジ色のカゴをガサっと持ち上げ、数本の酒、数種の肴、そして適当な弁当をその中にどんどん押し込んでレジへと並ぶ。
精算中、思いの外高くついたなぁと思いながら財布からクレジットカードを取り出して、リーダーに差し込む。
反応が悪い。
リーダーに入れてみては、出してみて、入れてみては、出してみて。
ここまで入れたり出したりするのは酒井順子か私くらいのものだろう。
やっとこさ反応したので無事会計を終えられた。
家に帰り、酒を一本、缶のままで飲む。
カシュっと心地よい音を鳴らしたプルタブの反発を唇に感じながら、喉の奥へと押し入ってくるアルコールの違和感を快楽へと変える。
また続きだ。
通販サイトをまた覗く。
サイト内をウロウロウロウロと遷移し続け、回遊魚以上に回遊していく。
だが、やはりダメだ。
決めあぐねる。
先ほどのコンビニでは自分が意図しない量の買い物を即決できたのに、ネット通販ではなぜそれができないのか?
答えは恐らく選択肢の多さだ。
コンビニの限られた選択肢から、買うものを選択をするのは不自由の中で自由が与えられたことに等しい。
不自由だからこそ選択をしなければと迫られるのだ。
言わば消極的な選択を強いられているのだ。
ネット通販の場合ではそうはいかない。
自由すぎるのだ。
数えきれないほどに膨大なアイテムから自分の最適を見つける作業は、自らで求めていく姿勢が必要になる。
こちらは言わば積極的な選択だ。
シチュエーションとしては消極的な選択は執拗に迫られる反面、積極的な選択はその選択自体にも拒否する余地が残る。
その余地が私を許してしまう。
だから私はネット通販で買い物をするのが苦手なのだろう。
考察という言い訳も終えて、一つだけ商品をカートに入れ、決済した。
買ったのはもちろん、酒井順子の『入れたり出したり』

どりゃあ!