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関係の決裂が悲劇とは限らない。『Neo Cab』感想

どうも、悪霊です。

なんだか映画の話ばかりしてますが、ここにはネタにしたもの、ネタになるもの、ネタにならなかったもの、様々の関心事を載せていくので、いろんなジャンルの話をしていくつもりでございます。

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というわけで、今回はゲーム『Neo Cab』の感想でもひとつ。あ、多少のネタバレは含みますんで注意してくださいね。

1.あらすじ

オートメーションが圧倒した世界で、人間性を保て。ロス・オジョス最後の人間雇われ運転手のリサとなろう。お金も、ライフラインもない。ただ、運転するのみ。
人々と出会え。ストーリーを聞き出せ。ヒトであれ!
ネオ・キャブアプリから、通行人を選び、グリッド都市を案内しよう。目的地まで運転し、彼らとつながり、打ち解けよう。運転を続けるには、完璧な評価をキープし続ける必要がある。自分の精神安定性で、自分の給料と通行人のニーズとのバランスを取ろう。もっと大切なのは、自信の精神状態か、星の数か?
(steamページより引用)

2.どんなゲーム?

技術が発達し、様々な分野で機械の制御や監視が行われている先進都市ロス・オジョス。

そこで暮らす喧嘩別れした旧友サビーに「一緒に暮らさないか」と持ち掛けられ、車と身体、それに最低限のお金だけ持ってロス・オジョスにやって来た前のめりにも程がある主人公、リナ

ところが、再会したサビーは挨拶もそこそこに何処かへ行ったきり失踪。家の場所も教えられていないリナは、生業である配車ドライバー(U〇erみたいなやつね)の仕事をこなしながら、サビー失踪の謎を追っていく…というゲームです。

基本の流れとしては、

①アプリを起動して配車を希望する乗客を選ぶ

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マップ上に乗車を希望する人が表示されてますよね。現在位置や左上に表示された車の残り電力(電気自動車なのです。ハイテクね)、それと大丈夫そうな客かを見定め、待っている場所まで向かいます。


②乗客を乗せ、目的地に着くまで会話する

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①で選んだ乗客を乗せ、目的地に着くまで会話をします。会話は相手の言葉に選択肢で返事をしていく形式ですが、左下に表示されている「Feelgrid」に注目。これは自分の感情を色で示してくれるもので、この色によっては表示された選択肢が選べなかったり、逆にその色でなければ選べない選択肢が現れたりします。

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乗客を目的地で下ろすと、乗車中の会話内容などに応じて評価が届きます。ここでの評価があまりにも低くなってしまうとその内ドライバーをクビになってしまうので注意(よほどケンカ腰でいかない限り大丈夫だとは思いますが)。


③手持ちのお金で宿泊先を選択し泊まる

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1日の乗車ノルマをこなした後は、宿泊先を選んで泊まる事になります。なにせリナはサビーから住所を聞いてもいないので……。

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街のホテルは様式も価格もそれぞれ個性的。そして、どのホテルに泊まるかによって次の日のFeelgridの初期位置(色)が変化します。車の自動化を推進し自分の仕事を奪った会社が運営するカプセルホテルにしぶしぶ泊まればリナは悔しさに怒りますし、ホストのもてなしが行き届いたゲストハウスに泊まればリナはそのホスピタリティに安らぎます。

……と、この3つの行動を繰り返していく事になります。

この中で最も主眼が置かれるのは②。そこ中心で考えると

①は会話する相手を選ぶ行為

③は会話に必要なパラメーターの調整

と言えなくもなく、そう考えると割とオーソドックスなノベルゲームなようにも思えてきますね。

3.ここがよかった

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ポイントとしては、まず結構斬新な「サイバーパンク×タクシードライバー」という組み合わせの面白さ。ちょうどAI制御の自動運転車が出回りかけ、感情についてもAIによる数値化をする動きもあるご時世に、「ドライバーという職業が機械に奪われる事の是非」や「感情を数値化するガジェットが持つメリット・デメリット」なんかのお題でお話を作るというのは現代サイバーパンクっぽくてグッと来ますな。

あと、コレは個人的に凄く刺さった部分なんですけど、(少なくとも私がプレイして迎えた展開では)「コミュニケーションの果ての断絶を正解として描いている」のがとても好みです。

この手の作品って、なんだかんだと普遍的な人間性に最終的にフォーカスしていって、(言い方は悪いですが)毒にも薬にもならない予定調和的なハッピーエンドになる事も多いと思ってるのですが、この作品は「どうあっても相容れない人間は居るけど、それで良いんじゃないか」的な放任主義スタイルを是としてくれるのがとても居心地が良いのです。

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特に、冒頭でも触れたサビーとの関係についてが顕著です。

なにせ経緯が経緯なので、プレイヤー的には「久々に会った友人が失踪!よっしゃ助けたろ!」となる所なんですが、よくよく考えると、

・「友人」ではなく「旧友」(喧嘩別れして以降会ってないと思われる)

・そういや思い返すと自分の伝えたい事だけ一方的に喋ってた(これはリナにも当てはまるけど)

・助けを求める割には自分の情報を全然開示しない

・住所教えてくんねえ

……あれ?コイツもしかして、そんなに?となる訳です。

そもそもリナも人生上手くいってない時に降って湧いたサビーの便りに飛びついて過去を美化してる大概なヤツと言えなくもなく、実はこの2人、青春期の狭い交友関係の中でたまたまやむを得ずトモダチやってただけでは?と思った瞬間に、あれこれの見え方が変わるんですよね。ひょっとして今自分が東奔西走してるのって凄まじく不毛な独り相撲なのでは……って。

勿論その縁を尊いものとして何としても繋ぎたい、というスタンスで遊ぶことも出来るのでしょうが、僕は最終的にはかなり強めにサビーとの断絶を選びました(他の分岐があるかは知らない)。

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4.まとめ

旧友との関係の終わり。けど人生は続く。なかなか上手くいかないけど悪い事だらけでもないよね多分、というメッセージで終わる物語はそれはそれで清々しく、いい余韻が残りました。人生、ビターな結末の方が多いもんね、たぶん。

メインシナリオに限らず、乗客たちについてもそんな感じが徹底されており、深堀りしてったら豊潤な人間性に出会えるのかも知れんがまず貴様から得られる豊潤さなんざコチラから願い下げじゃあボケェ!!と思ったキャラについてはそもそも乗車させなきゃいい等、突き放すことを認めてくれるゲームシステムとメインの流れが上手いことマッチしていてそこも〇。

それに関係して、1日の乗車人数が決まっているので一度のプレイではどうしても拾いきれないエピソードが出たりもするので、リプレイ性も結構高いと思います。同じ客、同じ始まり方をした会話でも、選択肢によっては結末が大きく変わった来ます。

そういう感じで、サイバーパンクの世界観といい意味でスレた人間関係を肯定してくれる空気が素敵な一本でございます。ちょっとバタ臭いキャラクターデザインはどうしても好き嫌いが分かれるのと、翻訳がちょっと拙く、詩的な表現やスラング的な表現がイマイチ伝わりにくいのが玉に瑕ですが、もし気になってるのであれば損はしない出来だと思いますので、是非。


5.関連リンク

■公式サイト

https://neocabgame.com/

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