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遂に訪れた"僕らの冒険"の終わり。『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』感想

『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』の感想いきます。

核心に触れることはしないようにしようと思いますが、展開等のネタバレはどうしても含まれると思いますのでご注意を。

1.あらすじ

「太一が大人になると、ボクたち一緒にいられないの?」
「俺たちは、ずっと一緒だ」

太一とアグモンたちが出会い、デジタルワールドを冒険した夏から十年以上が経過した2010年。
世界中の“選ばれし子どもたち”は徐々にその存在が認知され、現実世界にデジモンがいる風景も珍しくなくなっていた。
太一は大学生となり、ヤマトたちもそれぞれ歩むべき道を見定め、自身の進路を進み始めていた。
そんな中、世界中の“選ばれし子どもたち”の周囲で、ある事件が起こり始める。
太一たちの前に現れたデジモンを専門に研究する学者・メノアと井村は、”エオスモン”と呼ばれるデジモンが原因だと語り、助力を求めてくる。
事件解決に向けて、太一たち選ばれし子どもたちが再び集結。
しかし、エオスモンとの戦いの中でアグモンたちの“進化”に異変が起こる。その様子を見たメノアは、太一たちに衝撃の事実を語る。
選ばれし子どもが大人になった時、パートナーデジモンはその姿を消してしまう――。
エオスモンの脅威は、次第に太一の仲間たちにも及んでいく。
戦わなければ仲間を救えない、しかし無理な戦闘はパートナーとの別れを早めていく事に。
ずっと一緒にいると思っていた。
一番大切な存在と別れてでも戦うのか?
“選ばれし子ども”が大人になるということ――。
変えられぬ宿命を前に、太一とアグモンの”絆”が導き出す、自分たちだけの答えとは?
(公式サイトより引用)

2.よかった、よくはなかった

■よかった

・豊富な過去作オマージュ

・劇場版相当の高い作画クオリティ

・メインキャラを絞り、掲げたテーマをしっかり畳んだ展開

■よくはなかった

・感動が後付け設定に依存している

・XXXという作品の存在

・(展開の足並みの揃わなさ)


3.くわしく

ある年代の少年にとって、アニメ『デジモンアドベンチャー』(以下、無印)ってものすんごい強烈な作品だったと思うんですよ。

携帯ゲームで慣れ親しんだアイツやソイツがアニメになって暴れまわり、見た事も無い姿に進化する。それだけでも燃えるところ、そのパートナーになる主人公達のリアルな悩みや葛藤、それを打ち破って成長していく姿は子供ながらに印象に残りました。

(とはいえ今となっては一番印象に残ってんのはお経と木魚(帽子)で苦しみだすバケモンとかだったりするんだけども。そのくらいの好き感の奴が書いているというのはご了承いただきたい)

人気を受けてアニメはその後直接の続編である『デジモンアドベンチャー02』(以下、02)、舞台を一新した『デジモンテイマーズ』、『デジモンフロンティア』、更に…という感じで続いていく訳ですが、やはり最初シリーズというのもあってか、無印(と02)というのは何か特別なもの、という感じがありました。

今作はその『無印』『02』のその後を描いた作品。大人になり、パートナーのデジモンとの別れを前にした主人公、八神太一たちの戦いが描かれます。

いやあ……コレ、ものすごく評価の難しい作品だと思います。誉めたいんですよ。「ちゃんとやってくれた!」って誉めたいんですマジで。ただ、ちょっと色んな事情がありまして、どうしても素直には誉められないんです……!

とりあえず、ポイントで区切って話していきますね。


・豊富な過去作オマージュ

ここはもう素直に誉めたいところ。メインになっている『無印』『02』のメインキャラクター達が総登場するのは勿論、劇場版のゲストキャラクターにも(少しながら)グッとくる出番がある他、各戦闘シーンも作画の質や参戦しているデジモンが劇場版オマージュになっていたり、BGMが過去作のものであったりと、まさにラスト、集大成をやるのだという気概はしっかり伝わってきます。

(「これは僕らの新しいアドベンチャーだ」という文章で始まっておきながらしょっぱな市街地でボレロ流しながらパロットモン対グレイモンというあまりに分かり易い再演というのはどうかとも思いましたが、結果的にはこの方向性で良かったのではないかと思います)


・劇場版相当の高い作画クオリティ

「当たり前では?」と言われそうですが、それでもこれは誉めておかないといけない。序盤の成熟期同士の重量感のある戦闘から、中盤以降の究極体によるスピード感のある応酬まで、メリハリの効いた演出と合わせてスクリーン映えする見せ場の数々には「こういうデジモンが見たかったの…」と思わずにはいられませんでした。

人間側についても、無印のキャラクターデザインであった中鶴勝祥さんによって新たにデザインされ成長した選ばれし子供たちを、コミカルからシリアスまでしっかり魅力的に描き切っており、作画の崩れで醒めてしまうような事はありませんでした。

(作画とはちょっと違いますが、キャラクターにしっかり日を跨いだ際の衣装差分が用意されており、最終決戦では無印での彼らを彷彿とさせる衣装になるのなんかも良かったです)


・メインキャラを絞り、掲げたテーマをしっかり畳んだ展開

無印はメインキャラクターが8人居る為、映画1本で描くとなるとバラけて散漫となりそうなところ、本作では無印でも一段上の扱いであった主人公・八神太一とそのライバル・石田ヤマトの2人のみパートナーとの別れが迫る、という形でメインキャラを絞り、他のキャラクターはサブに回る構成となっています。

「俺は丈先輩がもっと見たかったの!」とか「空どこ行ったの!?」とかアレコレありましょうが(この辺はスピンオフで観られるようです)、とりあえずこの2人(2組)が迎える「別れ」、この際言ってしまえば「死別」について、濁す事なくしっかり描き切っていたのは偉いと思いました。どうしても「いやラストとか言ってるけど何だかんだで解決法見つかってみんな大丈夫!よかったね!ハッピーエンド!でしょう……?」とか雑に思っていたので、何だかんだちゃんと感動出来て良かったです。最後の静かなやりとりには、(作中でもリアルでも)重ねてきた年数が思い返され、ちょっと堪え切れなくなってたのは間違いありません。言うてはじまりの街とかで再会できるのでは?とか言わない。

程度の差はあれ、他のキャラクターも決して全員が簡素な扱いという訳ではなく、特に満を持しての登場となる『02』組は『無印』組とは別行動をとりつつもそれぞれがパートナーともどもしっかり存在感を示しており、いい味を出しています。

評価したい点はこのくらい。ここからはあまり良くなかった点について。


・感動が後付け設定に依存している

直上で感動したって書いておいてアレなんですが、この「大人になるとパートナーデジモンは消えてしまう」という設定が、『02』最終回で描かれた「パートナーと一緒に成長し、大人になって家庭を持った各キャラクター達」という描写と完全に矛盾する、無から生じた後付け設定の為、どうしても「大人になったかつての視聴者にこういう設定でノスタルジー喚起して売ろうぜ」というスケベ心がスッケスケに見えてしまう……というのはあると思います。

更に言えば、作中でのこの現象についての説明は「大人になり自分の将来を選択する事により、かつて持っていた可能性の力が消失する為起こる」だった(と思う)のですが、その理屈で行くと、大学生となり進路に悩む太一・ヤマトの2人より先に

・医師への道を歩んでいる丈先輩

・起業し社長として働いている光子郎

・アパレルの仕事をしているミミ

等、何人かいる「どう見ても既に将来を選択している仲間たち」に先にこの現象が発生していないとおかしいのでは……という引っ掛かりが拭い去れないままに話が進んでいくのも問題でしょう。


・tri.という作品の存在

ある意味最大の問題点。

ここまで言及を避けていましたが、デジモンアドベンチャーシリーズには、2015年からOVA6本、足掛け3年に渡って展開された『デジモンアドベンチャーtri.』(以下、tri)という作品が存在します。ここで大きめに扱われた題材が

・成長した選ばれし子供たちの葛藤

・避けられぬパートナーデジモン達との別れ

・パートナーを失ってしまった元選ばれし子供の大人

と、今作で扱われた題材と悉くニアミスしている為、『tri.』を追いかけてしまっていた場合、「……コレ、triの焼き直しでは?」という邪念がよぎってしまいます。よぎりました。(ほぼ全部劇場で観た)

心の棚の離れた所に置いてパラレル扱いにしてしまおうにも、終盤、ラスボスに囚われてしまった選ばれし子供たちの中にしっかり『tri.』のキーパーソンである望月芽心が存在し、あまつさえ前述の通りファンサービス旺盛なスタッフの心遣いにより「望月!」と呼びかけられてしまう為、

「tri経由したのにまだ悩んでるのか……」

「そのパートナー1回リブートされてんだよな……」

「tri最後で示唆された敵一切出て来てないけどまだ続ける気なのかな……」

等々、正直あんまり出来の良くなかった(個人の意見です)過去の亡霊に苛まれる羽目になり、うっかりシリーズ追っかけてた方がモンニョリしてしまう本末転倒の事態になってしまうのは本当に悲しい事故だったと思います……。


・展開の足並みの揃わなさ

『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』2020年2月21日公開

『デジモンアドベンチャー:』2020年1月21日情報解禁

ラ ス ト と は 何 だ っ た の か


4.まとめ

作画クオリティや登場人物の描き方については不満はあれど満足度は高く、オマージュやリスペクトによるファンサービスについても微に入り細に入り行き届いており、唸らされます。

ただ、過去作品との無視しがたい矛盾や、triの存在を組み込んだ事による近作再演の感など、手放しで喜ぶことが出来ない作品でもある事は間違いありません。

というかtri見てたせいで、評価点が本当に評価すべき点なのか批判点が本当に批判すべき点なのかの評価軸がバグっちゃって、冷静な評価が出来ないんですよね!!(個人の感想です)(今更言う事でしょうか)

とはいえ、この(上層部に突き付けられたであろう)「パートナーと別れなければならない」という命題と、かつて描かれた「パートナーと一緒にいる未来」という事実の矛盾をすり合わせ、(主題歌『Butter-Fly』になぞらえながら)別れてしまったけどきっとまた会える、というポジティブなラストシーンとして見せてくれたのは本当に良かったと思います。

アレコレ書きましたが、「僕らの"デジモンアドベンチャー"は終わった」というのを清々しく受け入れられるような出来の作品ではあったのではないでしょうか。

先述の通り、リブート作『デジモンアドベンチャー:』の放送が発表されましたが、かつての僕らのように、今の子供たちがこの作品を愛してくれることを、『LAST EVOLUTION』を観た今となっては祈らずにはおれません。


追伸:

・君らはいい加減強そうな敵にまず成熟期で当たりにいく癖を何とかしなさい。tri経たなら究極体までイケるでしょうに。(これもtri視聴の弊害)

・オメガモンの戦闘自体は超良かったんすけど、このクオリティでウォーグレイモンとメタルガルルモン見たかったってのは贅沢ですかね……。

・全然本筋関係ないけどパートナー守る為に必死で戦うヌメモンの描写、すごい良かったです。



受肉代にします