【so.】和泉 美兼[2時間目]
授業が終わると、すぐに厚着ののりんが教室を飛び出していくのが見えた。いよいよインフルエンザの症状が出始めたんだろうか。近寄りたくないなと思っていたら、つだまるが話しかけてきた。
「ねえ、さっきのさ」
「書き込んでみればいいじゃん」
なおも不安そうに聞いてくるから、ぶっきらぼうに言い放った。
「このクラスの誰か?」
「なんでしょ。大体想像つくけど」
わたしは後ろの席の直己に聞こえるように、わざと強めに教科書を机の中に放り込んで、席を立った。
「あっ待ってよ」
廊下へ出たらヨシミがロッカーから荷物を出していて、つだまるにネチネチ言われるよりかはマシだから一緒に生物室まで行くことにした。わたしの後を追ってきたつだまるも合わせてついてくる。先頭を行くヨシミの左右、それぞれ若干後ろにわたしとつだまる、といった並びになった。
「実験って何やんの?」
ヨシミの問いかけにつだまるが答えた。
「観察とか言ってた」
ヨシミは鼻で笑うと、持論をぶちまけた。
「生きてく上で何の役に立つんだろうね。ワタシ、10年後にこの授業のこと感謝してる予感がこれっぽっちもないわ」
それがどうした、と思ってつだまるに顔を向けると、目が合ったから軽く頷いた。生物室までヨシミの持論に適当に相槌を打ちながら、寒い廊下を歩いていった。
「はい。じゃあ今日はメダカの血流の観察をしますねぇ」
島田のじじいは今日も声が小さい。メダカの観察て。小学生かよ。だいたいこの班分けは、お勉強の出来る伊村が自信満々に提出物を作って、それを同じ部活の雑魚、つぐと井上の2人に下賜する流れになっている。わたしは、つぐが伊村から受け取ったものをパクるっていうパターンを編み出していたから、その時までこうやってスマホでもいじっていればいい。わたしはスマホを取り出して、裏サイトのログを追うことにした。
「さみー体育だりー」
「あのオウンゴールわらけた。どんだけ下手なんだ」
「全員下手でしょ」
「ヘアピンくれーで騒ぐんじゃねーよ」
「明日で冬休みうれしー」
「部活マジクソ」
「泥棒が出たってほんと?」
「嘘に決まってんだろ」
「えーじゃあ迫真の演技だったんだー(棒)」
見ていて吐き気がしてくる。終業式の前日に、これだけの書き込みがしてあったなんて。それがぱたっと止まって、冬休み中にぽつりぽつりと書き込まれていただけだった。
「見ていいよ。まこちんも見る?」
「あ、ありがと」
どうやら伊村のプリントが仕上がったらしい。つぐがそれを写し終わるのを横目で見て、終わった所で声をかけた。
「つぐー、見して~」
言いながらつぐのプリントを奪い取ると、それをせっせと写していたら授業が終わった。ぬるい授業だなとつくづく思った。
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