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【REVIEW】 For All The Dogs - Drake

『Her Loss』(2022) 以来、ソロ作としては『Honestly, Nevermind』(2022) 以来のスタジオLP。急いでリリースした気配はなく、個人的には高めの期待値を寄せていたが、残念な結果だった。

おそらく「友人」「仲間」「従順な恋人」などを指すであろう「"dog" に捧げる」と掲げているが、相変わらず彼のシグネチャーである「孤独な俺」「居場所のない成功者としての俺」の描写が続くだけで一貫したコンセプトは存在せず、興奮する瞬間が一切訪れない長尺アルバムだ。

Frank Ocean の未発表曲をサンプルしたオープニングの「Virginia Beach」は一聴に値する。パワフルなオープニングではないものの、フルレングス作品の導入としてはまずまず。21 Savage を招いた「Calling For You」は驚くほどつまらなくて、まるで『Her Loss』の残りカスのようだ。おそらく Yeat の作品を多く手がける BNYX®️ によってレイジを幅広く取り入れているが、そこに Drake らしさを加えることはできていない。Playboi Carti のようなフロウを真似てはいるが、所詮真似でしかなく、何の意味もない。10年ぶりの J. Cole とのコラボレーション「First Person Shooter」はうまく行った。彼のシャープなリリックとフロウがバチバチに決まっていて、数少ないこのアルバムのハイライトになっている。PARTYNEXTDOOR との「Memebrs Only」はR&Bナンバーとしても弱く、今作の方向性やサウンドはずっとふらついたままだ。Bad Bunny との「Gently」も、言葉を選ばなければかなりひどく、結局彼の良さも Drake の良さも相殺してしまっている。Sexxy Red と SZA というセイントルイス組を招いたアトランタ/マイアミベーストラック「Rich Baby Daddy」は、2人のフック/ヴァースがそれぞれ孤立してしまっていて、せっかくコラボが台無しという印象。非常にもったいない。そもそも急にアトランタ/マイアミベースを取り入れること自体が浮いている。

それぞれのトラックは決してチープではないのに、魅力的には聴こえない。Drake のリリックにも何か伝えたいことがあるとは思えず、ただ音を埋めるためにラップしているように感じてしまう。アーティストとして変化し続けることは必要だが、かつて得意としていたメランコリックな作風や、上質なR&Bとの融合には取り組んですらいなくて、すべてが中途半端な作品に仕上がっている。

Best Tracks
M1: Virginia Beach
M6. First Person Shooter


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